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美女たちが狂気に染まる…カンヌ騒然の問題作!

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(C)2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch

 今年のカンヌ国際映画祭で初上映されるやいなや、物議を醸した映画があります。それは『ドライヴ』のニコラス・ウィンディング・レフン監督が、美少女エル・ファニングを主演に迎え、ファッション業界に渦巻く欲望を描いた『ネオン・デーモン』です。日本でも来年1月に公開されることが決まった本作は、一体なぜカンヌを騒然とさせたのか? 美女たちが狂っていく……“衝撃の悪夢”とも謳われる本作をご紹介します。(編集部・石神恵美子)

◆究極の美を追い求める女性たちが…

<ストーリー>

 田舎町からロサンゼルスに出てきたばかりの16歳の新人モデル・ジェシー(エル)は一見素朴だが、誰もが目を奪われるような特別な美貌から、すぐにトップデザイナーから指名を受けるなどモデルとして頭角をあらわす。仲良くなったヘアメイクのルビー(ジェナ・マローン)と彼女の友人たち(ベラ・ヒースコート&アビー・リー)は、ジェシーに対して羨望と嫉妬の眼差しを向けるようになり、ジェシーはそれを気に留めることもなく、さらなる高みを目指すが……。

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うぶなジェシーと親しくなるルビー(C)2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch

 ライアン・ゴズリングとタッグを組んだ『ドライヴ』『オンリー・ゴッド』など、これまで男性を主人公にスタイリッシュでマッチョな作風の作品を手掛けてきた印象が強いレフン監督。それが一転、本作では『マレフィセント』でオーロラ姫を演じるなど、妖精のような可憐さが魅力の若手女優エルを主人公に、ファッション業界を描くと報じられたときには、それだけでファンの間で話題に。

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ディズニーヒロインから一変!素顔のエル - Anthony Harvey / Getty Images

 過去にブレイク・ライヴリーやジェームズ・フランコを被写体にグッチのコマーシャルを手掛けたことのあるレフン監督は、すでにファッションの世界を煌びやかに描く才能があることは証明済みだったからです。そして、次々と決まる美人キャストたちに加え、ひょっこりキアヌ・リーヴスも名を連ねるころには、期待値もMAX。

◆が、カンヌで賛否が真っ二つに!

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圧巻の映像美!(C)2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch

 今年5月にカンヌ映画祭で上映されるも、拍手喝采とブーイングが入り交じるという事態が発生。レフン監督のおなじみのスタイルともいうべき鮮烈な色彩が堪能できる映像美は称賛される一方で、美に憑りつかれたキャラクターたちの過激すぎる行動に嫌悪感を示す声が多かったのです。倫理観を問う性的嗜好の美女や、ハンガリー王国の貴族にして「血の伯爵夫人」という異名を持つバートリ・エルジェーベトを彷ふつさせるような美女たちが血祭り状態になり、観客たちはドン引きだったようです。全米最大の映画レビューサイト Rotten Tomatoes でも54%の評価で、批評家のコメントを読んでみると「『ネオン・デーモン』はいかにも不快だと言ってみろといわんばかりの挑発的なクズ作品。それに実際、不快だ(ニューヨーク・タイムズ紙)」「罪なる喜びは少なくともエンターテイニングであるべきだが、明らかにこの映画はそうではない(オーストラリアン紙)」とかなり厳しい意見まで。

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血なまぐさい描写が問題視!(C)2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch

 しかし、「ちゃめっ気のある愚かさもあり、引用の価値もあり、ビジュアルも催眠術のようで、繰り返し観るのに適している。初めて観た時、異様で幻覚のような、衝撃的な陰惨さがあった。2度目観たときに、レフンが書いた脚本のとても賢い魔法がわかった(トリビューン・ニュース・サービス)」というような声も。そう、この映画、あまりに過激で謎すぎる展開にショックを受けますが、冷静に振り返ると伏線もあり、レフン監督の綿密な構成に驚かされます。

◆そんな『ネオン・デーモン』の魅力とは?

●独特な色使い…色が意味を持つ!

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色の変化がスゴイ…赤は危険(C)2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch

 レフン監督と言えば、その独特な色使いで知られています。本作でも、タイトルにある“ネオン”のように妖艶な色が映像を彩ります。実はレフン監督は色覚障害があるためコントラストのある色を使っているとたびたび語っています。そして今回、色に具体的な意味も持たせているのです。キーになっているのは青と赤。撮影監督のナターシャ・ブライエは、The Guardian のインタビューで次のように語っています。「ある特定の感情を表現するのに色を使いました。赤は危険を意味し、ジェナ演じるルビーのシーンすべてに使っています。(中略)青はギリシャ神話のナルキッソスに関係しています。エル演じるジェシーのナルシシズムが最高潮に達する瞬間を描くために」。ナルシストの語源になったのが、美少年ナルキッソスが水面に映る自らの姿に恋をしたというエピソードです。そして、ナルシシズム(自己愛)こそこの作品のテーマの一つなのです。ナルキッソスは、水面に映った自分に口づけをしようとして落ちてしまい水死したという説があります。それこそがジェシーがファッションショーでランウェイデビューする瞬間に象徴的に描かれているのです。青のトライアングルからランウェイに姿を現したジェシーが、途中で鏡に映る自分自身にキスをすると、危険を示す赤色に照明が変わります。

●ファッション業界が舞台!だけど…意外と身近?

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女子なら共感できるストーリー?(C)2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch

 ファッション業界が舞台ということで、アルマーニやサンローランといった名だたるハイブランドが衣装協力しており、それだけでも目に楽しい映像です。また、レッド・ホット・チリ・ペッパーズの元ドラマーであるクリフ・マルティネスが手掛けるエレクトロニックミュージックも文句なしにその世界観に深みを与えます。しかし、主人公たちが繰り広げる美への執着はファッション業界あるあるというより、もはやSNSでの自撮り文化や、女同士で格付けし合う“マウンティング女子”といった言葉があるように、現代女子あるあるに通じるもののように感じます。ヒロインのジェシーはどうして魅力的なのか。それはありのままの自分を自ら肯定できるからです。

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実際のトップモデル・アビーがサラ役!(C)2016, Space Rocket, Gaumont, Wild Bunch

 ほかのモデル、ありのままを愛せず整形を繰り返すジジ(ベラ)に、完全な容姿なのに強い劣等感を抱くサラ(アビー)と比べても明らかです。鏡越しに彼女たちを切り取るショットがすごく多いのですが、鏡に映った自身を見つめる彼女たちの顔つきに注意してご覧ください。

●トライアングル、山猫、満月…象徴的な表現が想像力を刺激する!

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気になるトライアングル…左よりサラ、ジェシー、ジジの3人 『ネオン・デーモン』海外版Instagramより

 やたらと印象に残るのが、ファッションショーのセットで使われているトライアングルのモチーフです。トライアングルは女性のシンボルとしても知られ、「乙女(メイデン)」「母親(マザー)」「老婆(クローン)」の3つの姿を持つ、三相一体の女神(トリプル・ゴッデス)という太古の昔から伝わる概念もあり、トライアングルに関してだけでもいろいろな解釈ができそうです。うぶだったヒロインのジェシーがトライアングルの形をした光の中を歩いていくファッションショーのシーンは、すでに業界で仕事をしているルビー、ジジ、サラの3人の側に入る=業界に染まり始めることを意味しているようにも取れ、このシーンを境目にジェシーのファッションやメイクが変わっていくのも顕著です。ほかにも、満月や山猫といったさまざまなモチーフが出てきますが、なぜそれが出てきたのかについて語られることはなく、謎を残します。その意味深なモチーフの数々に加え、夢か現実かきわどい描写が続き、「もしあのモチーフがこれを意味していたら……」「もしこれが現実だとしたら……」「もしこれが夢だったら……」と解釈により、いくつものパラレルワールドの存在を想像できるのも本作の興味深いところです。

●古典ホラー&オカルトへの愛がたくさん!

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60年代ファッションがかわいい!『哀愁の花びら』より - Twentieth Century Fox Film Corp. / Photofest / ゲッティ イメージズ

 そして本作の感想で多いのが、古典ホラーやオカルト作品からの影響についてです。元ネタがわかるシーンが多いのも確かで、レフン監督は実際エルに、芸能界の駆け引きや愛憎劇を描いた『哀愁の花びら』(1967)や、当初『哀愁の花びら』の続編として企画されていた『ワイルド・パーティー』(1970)を観るように語っていたそうです。ほかにも、ネクロフィリア(死体愛好)が題材の『ネクロマンティック』(1987)、デヴィッド・リンチ監督の『マルホランド・ドライブ』(2001)やダリオ・アルジェント監督の『サスペリア』(1977)などなど、名作と比較しながら楽しめそうです。

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