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飯田橋ギンレイホール女性支配人が込める思い ラジカル鈴木の味わい名画座探訪記

ラジカル鈴木の味わい名画座探訪記

 ラジカル鈴木です。デジタル化と共に都市の映画館はシネコンばっかり。昔ながらの名画座、ミニシアター、独立系劇場はどんどんなくなっていく昨今。モバイルで移動中に映画を観たりと、昔思い描いていた“未来”にいる、と否応なく感じますが、そんな中、個性的なオーナーや館長がこだわりを持ち、多くのお客さんに支持されながらまだまだ存続している劇場があります。いま一度足を運んでみて、その魅力をご紹介しようと思います。

■今月の名画座「飯田橋ギンレイホール」

ギンレイホール

 なんでそんなことやりたいか? それは僕が、名画座全盛期に名作、傑作、快作あれもこれも劇場で観てきたからです! 特に20代、1988年頃から1990年代にかけては、都内にはまだ沢山の名画座、二番館があって、足繁く通っていました。ハリウッドの名作、ニューシネマの傑作郡、ヌーヴェル・ヴァーグ、ウエスタン、有名スター&監督の特集、黒澤明や、大映の娯楽作品、東映シリーズものなど……。レンタルビデオも全盛でしたが、本当に観たいものは映画館のスクリーンで。1993年頃まで池袋に住んでいたので、旧文芸坐、文芸坐2、その二館に挟まれた演劇の劇場ル・ピリエでの映画上映と、この3館で多くを観ました。それに池袋シネマ・ロサも、オールナイトによく行ったなあ。十代のときは、地元春日部市の今はない春日部文化劇場へ……あの魅力、興奮を今に伝えたい!

 第1回は都内の老舗、飯田橋の「ギンレイホール」にお邪魔しました。前身の「神楽坂銀鈴座」からの歴史を持ち、逸話にはこと欠かないこちら。かつての名画座の、汚い、暗い、臭い、会社をさぼったサラリーマンがたむろする男の巣窟、みたいなイメージとは一線を画す、独自のカラーと落ち着きのある劇場。ロードショーが終わった良質の2作品をカップリングして上映。20代の頃は何度か訪れたけど、1990年代から15年以上のブランクが空いていました。あの日のままの映画館がまだ残っているのは、何とも嬉しい。

 JR飯田橋駅から徒歩5分、神楽坂も近く、往年の大衆文化華やかなりし残香を色濃く残す立地。地下B4a、b番出口からだと10秒で着いちゃう、なんとも便利な場所。

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■6~7割が女性客!ギンレイホールのおしゃれポイント

 赤と白の外観がキッチュでひときわ目を引く、レトロモダンな外観がおしゃれ。1974年に名画座・ギンレイホールとしてオープンしてから、トイレを直し、ロビーを改装し、場内のシートも取り替え、リノベートしたのだそう。以降、女性の支配人セレクトによる作品は、女性が好むラインナップに。6~7割が女性客というのも納得。チケットは自販機でなく窓口の受付で購入、入口のモギリ担当の人に切ってもらう。こじんまりしたロビー、可愛らしい売店、深紅のソファーの前には上映作品のプレスシート。内装は以前にも増して、綺麗に手が入れられているようです。

■ギンレイホールのここがツボ!:作品選定のこだわり

ギンレイホール
『ファウンテン 永遠につづく愛』より ヒュー・ジャックマン、レイチェル・ワイズ

 久しぶりに正午から2本立てを観に来ました。場内の扉の前には、すでに次回開場に並ぶお客さんたちの列が。あっという間に座席は9割がた埋まり、大した盛況ぶり。2本立て4時間、大いに楽しみました。

 こちらの最大のウリは、業界でも初の画期的な会員制の「ギンレイ・シネマクラブ」。年会費を払って、1年間何回でも入場できる「ギンレイ・シネパスポート」を発行するというシステム。2人のペア会員、また5人のグループ会員カードもあり、かなりお得。利用の仕方もいろいろで、2本分4時間を一度に観るのは結構大変なので、1本ずつ別の日に観たり、好きな映画だったら毎日来て何度も観ることも可能。チケットを買わずに入れるのも便利。導入から20年経った現在、多くのお客さんに利用されているそうです。

 そして本館の最大の特色は、作品の選定。通常は「~監督特集」など監督や有名スターでくくった特集が組まれていますが、ここではあえて、作品の内容やテーマに沿って作品を選定しているそう。そんなギンレイホール独自のこだわりをもっともっと探るため、上映作品の選定をお一人でされているという、支配人・久保田芳未さんに直撃しました。

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■支配人・久保田さんに突撃!

支配人
久保田支配人

「観て、自由に感じてほしい」

ラジカル:ギンレイホールと言えば、長い歴史を持ち、映画ファンの間では、独自のカラーと存在感で親しまれていますが、久保田さんが支配人に就任してから、近年の流れや変化がありましたら教えてください。

久保田さん:創業時から37年間務めていた前支配人からわたしが受け継いで6年になりますが、ここ2~3年で感じることは、若いお客様が増えたことですね。SNSの普及や、作品の選定のせいもあるかもしれません。また、2014年から毎月1回オールナイト上映を始めたり、秋には「神楽坂映画祭」を開催するなど、新しいことにも取り組んでいます。

ラジカル:目的の1本のほかの、併映のほうで思わぬ拾いものにめぐり会うというのが名画座の醍醐味の一つではないかと思いますが、作品の組み合わせで、特に気を使われている点はなんでしょうか?

グッバイ、サマー
ミシェル・ゴンドリー監督作『グッバイ、サマー』

久保田さん:全く同じテーマの作品を並べないようにしています。逆に、あまりにもかけ離れて違う作品の組み合わせもしません。いわば、つかず離れずくらいのをブッキングします。また、オールナイトは1回2時間なので監督や役者の特集を組みますが、昼間の興行では、ほとんどやりません。中身こそが大事ですから。それに、あえて「~特集」みたいなタイトルも付けません。観て、お客様に自由に感じていただきたいんです。

ラジカル:なるほど。 おっしゃるように、今(取材当時)上映中の『グッバイ、サマー』『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』の組み合わせも、とても良かったです。両作とも、子供にまつわる内容で、浮かび上がってくる、一つの意図を感じました。『グッバイ、サマー』のミッシェル・ゴンドリー監督は僕の尊敬するアーティストですし、自分にも8才と4才の子供がいるので、成長や教育や関するものには興味があり、とても感銘を受けました。

久保田さん:ありがとうございます。今回、お子さん連れで、家族4人で来て頂いたお客様がいらしたりして、嬉しかったですね。子供のうちから映画館で観るクセをつけていれば、大人になってからも劇場に足を運んでいただけるでしょうし。

ラジカル:僕がこちらで観た作品を振り返ると、良質な作品ばかりで、カップリングが絶妙です。『結婚記念日』『アリス』、『ラン・ローラ・ラン』『セレブリティ』、『コヨーテ・アグリー』『17歳のカルテ』……。

17歳のカルテ
過去の上映作品に『17歳のカルテ』など

久保田さん:1本がロードショーのとき評判でお客さんも入りそうな作品だったら、もう1本は、良い作品なのだけれど特定の劇場にしかかからなくて、あまりPRもされず短い期間で打ち切られてしまったものなどを、組み合わせます。そうやって、埋もれてしまった良作、知らなかった作品を、ある意味、拾い上げて一緒に観てもらいたいんです。メインだと思ってた1本目でなく、2本目のほうが好評だったりすると、嬉しいですね。

ラジカル:上映を繰り返されることによって、本当に名画として認知されていくものだと思いますが、名画になりえる作品は、どんな部分で感じ取れるものでしょうか?

久保田さん:作品の選定は、わたしが単独で決めています。ほかの劇場では、スタッフが会議で決めるところもありますが、うちは1人で決めるのが、前支配人から現在までのシステムです。館主の方針で「一人で決めないとブレるから」と。もちろんスタッフの意見や感想は聞きますけれどもね。結局決め手は、観終って「コレ、良かったな」というわたしのファースト・インプレッションですね。

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「ネット世代の若者へ良作を届けたい」

ラジカル:若い人が、評論やイメージだけで観る前に作品をジャッジしてしまう傾向を、どう思いますか?

久保田さん:わたしは、試写等で最初に作品を観るときに、なるべくプレスシート等の資料を見ず、試写状も詳しい文は読まずに、先入観のないまっさらな状態で観るように心掛けています。現在、ネットとかSNSの利用は避けられませんから、若い方たちはどうしても情報に左右されてしまいますね。でも誰かの評判や批評を読んで、足を運んでくれたら、それはそれで良いと思います。考えようですね。逆に、うちもSNS等を、なるべく活用していろんな映画があることを知ってほしいと思っています。若い方は、2本立てということを知らないことが多いんです。そもそも名画座を知らないんですね。ですから、窓口でチケット販売の際にご案内したり、帰ろうとしたお客さんに、「もう1本観られますよ」って声をかけたり。「観ていかないともったいないですよ」と(笑)。

ラジカル:これからの名画座の果たす役割はどんなことでしょうか?

久保田さん:劇場で鑑賞したい、というお客様はまだまだいらっしゃいます。良い映画を、そして見逃されている良作を、スクリーンで十分味わっていただくために、お客様がいらっしゃっていただける以上は続けます。シネコンとは違って、名画座はどこも、それぞれの劇場のカラーや思いが強く出ています。2週間の興行で、もしお客様が来なかったら命取りになりますから、作品の編成、ブッキングはそれこそ必死の覚悟でやっています。それが伝わって、来ていただいているんだと思います。興行は水物で、フタを開けるまではわからなくて、ときには思惑とは違う結果が出たりしますけれど、お客様に期待し続けていただけるように、「ギンレイカラー」を大事にしつつ、作品で勝負していきます。

ラジカル:これからも、多様な映画文化、大切な文化事業としての名画座運営をぜひ頑張ってください。ありがとうございました。またうかがいます!

 そういえば上映の合間の休憩時間に、久保田支配人自ら座席を回り、入念なゴミチェックと、常連さんにお声がけをされていましたっけ。ホームシアターのように上手に利用して、時々名画にどっぷりと浸かってみてはいかがでしょうか? こんな時代こそ、心の栄養をチャージしに名画座に是非。僕もまた、劇場熱に火が着きそうです!

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■映画館情報

ギンレイホール
〒162-0825 東京都新宿区神楽坂2-19
TEL 03(3269)3852
202席

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ラジカル鈴木 プロフィール

イラストレーター。映画好きが高じて、絵つきのコラム執筆を複数媒体で続けている。

追悼-プリンスと4本の映画 vol.1 大ヒット作~カルト作品編

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