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名画プレイバック

連載第9回『サンセット大通り』(1950年)【名画プレイバック】(1/2)

連載第9回『サンセット大通り』(1950年)
『サンセット大通り』1950年当時のポスター - Paramount Pictures / Photofest/ ゲッティ イメージズ

 アメリカ映画協会選出の「アメリカ映画オールタイムベスト100」に入るビリー・ワイルダー監督の傑作。1950年のハリウッドで、大豪邸に引きこもるサイレント映画のスター女優と売れない脚本家の青年の奇妙な関係を通して、映画界の裏側を描いていく。(冨永由紀)

 借金取りから逃げ回っていた売れない映画脚本家・ジョーは、往年の大スター女優のノーマ・デズモンドが暮らすサンセット大通りの大豪邸に偶然迷い込み、住み込みで脚本の手直し作業をすることになる。大理石の床や華美な装飾、所狭しと若かりし日のノーマのポートレイトが飾られた広い家の住人はノーマと執事のマックスだけだった。

 現実から時計の止まった妖しい世界へとジョーが引き込まれる過程は実にスムーズ。目つきの鋭い慇懃(いんぎん)な執事と魔女のような女主人は容姿も仕草もサイレント映画のように大仰だ。本作のナレーターでもあるジョーの現代人然とした口調や振舞いが、彼らの異様さを強調する。

 ノーマを演じたのは、自身もサイレント映画の大スターだったグロリア・スワンソンだ。「昔、大物でしたよね」と言うジョーに向かって、「今も大物よ。映画の方が小さくなったの!」と言い放つ裸の女王様ぶりは、すさまじく狂っているが、そこには精一杯の虚勢も見てとれて、何とも哀しい。そして何よりもすごいのは、残酷な余生を送るスターの悲劇を臆せず生々しく演じ切ったスワンソンだ。全盛期は当時の金額で週2万ドルを稼ぐ大女優だった彼女は、指の先まで神経を行き届かせた仕草、愛されるためならなりふり構わない行動、強気と弱気の振幅の激しさといったスターの心理をこの上ない説得力で演じている。

 ノーマ役には当初、引退していたグレタ・ガルボをはじめ、メイ・ウエストやメアリー・ピックフォードなど往時のスターの名が挙がった。スワンソン自身、最初に連絡をもらった時は端役での出演だと思ったという。

 実は登場してすぐに気づくのは、映画界復帰をもくろんで大作の脚本執筆に明け暮れていたノーマの声がいいこと。「台詞なんて無用、私たちには美貌があったのよ!」と息巻くが、それが歌うような名調子。映画がトーキーに移行した際、悪声や発音のまずさでフェードアウトせざるを得なかったスターも少なくなかったが、その点でもスワンソンほどノーマに相応しい女優はいなかったと確信できる。

 主要な登場人物は3人とも、演じる俳優の現実とどこか重なる背景がある。スワンソンは前述の通り。ジョー役のウィリアム・ホールデンは1939年の『ゴールデン・ボーイ』で一躍スターになったが、第二次世界大戦をはさんでその後低迷していた。そろそろハリウッドに居場所がないことを意識しながら、年上女優のジゴロに身をやつし、一方で脚本家を目指す閲読係のベティのまぶしいくらいの情熱にも惹かれる。自嘲の入ったやさぐれ感をうまく漂わせている。ノーマに忠実な執事で元は映画監督のマックスはサイレント時代の三大巨匠の1人、エリッヒ・フォン・シュトロハイム。ドM気質を徐々につまびらかにしていく倒錯性といい、役と演者のシンクロ率はこの人が一番高い。劇中、ノーマがジョーに見せるかつての主演作という設定で居間のスクリーンに映るのはフォン・シュトロハイムがスワンソン主演で撮った未完の大作『クィーン・ケリー(原題) / Queen Kelly』の一場面だ。


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