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ハンナ・アーレント (2012):映画短評

ハンナ・アーレント (2012)

2013年10月26日公開 114分

ハンナ・アーレント
(C) 2012 Heimatfilm GmbH+Co KG, Amour Fou Luxembourg sarl,MACT Productions SA ,Metro Communicationsltd.

ライター3人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 5

中山 治美

ナチス戦犯アイヒマンの実映像が効いている

中山 治美 評価: ★★★★★ ★★★★★

 ユダヤ人を強制収容所送りにした責任者アドルフ・アイヒマンの裁判を傍聴し、「彼は命令を遂行しただけ」というレポートを発表し、ユダヤ人社会から激しいバッシングを受けた哲学者の生き様に迫った骨太な人間ドラマだ。劇中に挿入される、アイヒマン裁判の実映像を見ながら自問する人も多いだろう。同胞が犠牲になるのを目撃しただけでなく、自身も収容所送りになった経験がありながら、果たしてハンナのような冷静な判断を下す事が出来るだろうか?と。
 同時にアイヒマンの弁明は、多くの事を思い起こさせてくれる。戦時中の日本兵、オウム真理教事件、尼崎連続変死事件、身近に起こるイジメ事件etc…。主犯格に命じられて加害者となってしまった人たちの弁明と同じだ。いや、目の前で事件が起こっているのに、見て見ぬフリをしている人も同類かもしれない。ハンナが唱える「思考する重要性」が、今の時代も響く。肝に銘じたい。

この短評にはネタバレを含んでいます
清水 節

「サンデルの白熱教室」よりも価値高き「アーレントの思考教室」

清水 節 評価: ★★★★★ ★★★★★

 深い洞察とブレない勇気。半世紀以上前、こんなにも思考の高みに達した人間が存在した。なのに世間は…そして未だ人間は…。畏敬と慨嘆なくして観られない傑作である。
 
 強制収容所を逃れアメリカへ亡命した実在のドイツ系ユダヤ人の哲学者アーレント。波瀾万丈の生涯だったが、映画はただ1点に照準を定めた。この世の地獄を創出したナチス戦犯アイヒマンの裁判を傍聴し、まとめたレポートの内容だ。彼は「凶悪」ではなかった。命令に従い黙々と手を下しただけの小役人。彼の記録映像をインサートした効果は大きい。我々は、アーレントの視座から陳腐な悪の表情を目撃する。同時に彼女は、ユダヤ人指導者もナチスに荷担していた事実を明らかにした。根深い悪は「凡庸」な者によって遂行される。民族を全体として捉えず、単純な善悪を否定したアーレントの確固たる信念。そして吹き荒れる非難の嵐。両者の描き込みが実に見事だ。
 
 すぐさま一方向へなびくこの国もまた、「思考停止」に陥りやすいとはいえまいか。非人間性は拡大する一方だ。「サンデルの白熱教室」よりも現代人を数段覚醒させる有意義な「アーレントの思考全開教室」を、劇場で受講してほしい。

この短評にはネタバレを含んでいます
なかざわひでゆき

不都合な真実から目をそらさない勇気を力強く描く

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 不都合な真実を暴いたことで世間を敵に回してしまった、実在の女性哲学者ハンナ・アーレントの苦難を描いた実録ドラマである。

 強制収容所を脱走してアメリカへ亡命したユダヤ人のハンナは、自らが体験した悪夢の正体を突き止めるため、ナチス戦犯アドルフ・アイヒマンの裁判を取材する。そこで彼女が目撃したのは、上からの命令を事務的に処理しただけの退屈で平凡な役人の姿。何百万人の命を奪ったホロコーストも、アイヒマンにとってはただの仕事に過ぎなかったのだ。その凡庸さに巨悪の根源を見出したハンナだったが、世間は彼女の主張をナチス擁護と解釈。しかも、彼女は法廷で明らかになったユダヤ人指導者たちとナチスの癒着まで公表してしまったため、猛烈なバッシングを受けることとなってしまう。

 本作は人種やイデオロギーに囚われることなく、真実のみを追究しようとしたハンナの揺るぎない信念、その裏に秘められた苦しみを力強く描いていく。確かに絶対的な悪は単純明快だし、先入観や感情に流されてしまう人間心理も理解できよう。だが、真実から目をそらしては未来への教訓も生まれない。そのことを改めて知らしめてくれる傑作だ。

この短評にはネタバレを含んでいます
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