正体 (2024):映画短評
正体 (2024)ライター4人の平均評価: 3.3
藤井監督の演出と横浜流星の芝居の熱量で見せ切る力作
一家惨殺事件で有罪判決を受けた死刑囚の若者が脱獄を企て、逃亡生活を続けながら自身の無実を証明しようとする。背後に見え隠れする警察の手前勝手な思惑などは袴田事件を彷彿とさせ、冤罪をテーマにした社会派映画としてのメッセージ性は強く感じるし、アクションとサスペンスと人間ドラマをバランス良く配したエンターテインメント性の高い藤井道人監督の演出と、ストイックなくらい役になりきった横浜流星の力演のおかげで見応え十分な仕上がりだが、しかしよくよく考えるとストーリー展開に不自然なご都合主義が目立つことも否めない。フリーライターで大手出版社の仕事なんて、普通は業界関係者の紹介でもなければ入り込めないしね。
横浜流星の異次元の変貌演技、森本慎太郎の役との一体感
行く先々で、主人公・鏑木の印象が変わる。これは逃亡犯モノの鉄則。しかし本作の横浜流星は、その変貌ぶりが異次元レベル。CG加工されてるのか?と疑ってしまうほどだが、演技のアプローチ、テクニックで対応しており感嘆する。森本慎太郎が意外なほど役と一体化し、こちらの才能には新鮮な驚きも。要所の逃亡アクションに演出の力が込められた。
ただ先々で出会う人の反応、事件の報道描写が、この手の作品としてあまりに予想どおりで、物語が加速していかない。何より、逃亡しながら就く仕事にリアリティがないものが複数あり、そこをツッコんでも…と思いつつ、ありえなさで事件の切迫性、主人公の悲痛な思いが弱まっていくのが残念。
横浜流星の身体能力を生かした疾走感
「今度はそう来たか!」な森本慎太郎など、手堅いキャスティングの力もあって、エンタメとしては120分間飽きさせないが、社会派として観ると、いろいろ引っかかるクライム・サスペンス。ということで、紛れもない藤井道人監督作である。やはり、亀梨和也が逃亡者を演じ、2倍となる240分かけて映像化した「WOWOWドラマ版」と比較してしまいがちだが、本作の肝は間違いなく疾走感。それを担うのが、端正なルックスと身体能力を生かした横浜流星であり、亀梨に負けず劣らずの熱演を魅せる。ただ、そんな逃亡者を「優しくて良さそうな人」程度で、彼の無罪を信じてしまう人物描写が甘すぎる気も。
正体の先にある真相
死刑囚が脱獄、顔を変えつつ全国各地に潜伏。というと過去にも実際にあったケースやフィクション作品でいろいろと見てきましたが、今作では各パートをガラッと変えて来るので新鮮味がありました。中盤以降、主人公の脱獄の真意が分かってくるに至ってミステリー的な濃度も増して来て、最後まで目を離せませんでした。藤井道人監督は横浜流星と定期的に競作をしたいと言っています。来年は大河ドラマがあるのでちょっと難しそうですが、その後に期待してしまいます。この主演&監督コンビまだまだ見たいですね。