ホワイトバード はじまりのワンダー (2024):映画短評
ホワイトバード はじまりのワンダー (2024)ライター4人の平均評価: 3.5
良いメッセージを伝えてくる感動的な物語
「ワンダー 君は太陽」とつながってはいながら、完全に独立したストーリー。今作もまた、人に対して優しくあろうというメッセージをまっすぐ伝えてくる。ちょっとお涙頂戴的でわざとらしいところはあるものの、良い物語であることに間違いなし。フェアリーテール的な要素も。若き日のサラを演じるアリエラ・グレイザーと、彼女に親切にするジュリアンを演じるオーランド・シュワートは、相性もばっちりで演技もすばらしい(グレイザーのメイクに不自然さを感じるのはさておき)。ヘレン・ミレン、ジリアン・アンダーソンらベテラン陣も、出番はそう多くないながらさすがの存在感を放つ。
誰もイジメや差別に無関係ではいられない
『ワンダー 君は太陽』のスピンオフ的作品。自身の罪を理解していないいじめっ子ジュリアンに対して、祖母のサラがユダヤ人として戦時中に経験したことを話して聞かせる。いじめや差別が倫理的に許されないのは勿論のこと、それらを社会やコミュニティが見過ごし許容してしまうと、たとえ今は関係がなくともいずれ自分に矛先が向くことになりかねない。だからこそ誰に対するいじめも差別も許してはならないし、誰も無関係ではいられないのだ。クラスのいじめを見て見ぬふりしていたサラは、周囲の憎悪がユダヤ人の自分に向けられて初めて思い知る。マイノリティに対する差別や憎悪が不気味に広まりつつある昨今の日本でも他人事の話ではない。
マーク・フォースター監督の職人技光る!
『ワンダー 君は太陽』で退学処分になったいじめっ子の祖母が主人公という、完全なスピンオフ。ナチス占領下のフランスを舞台に、いかにも「ヒトラーのなんちゃら」な邦題が付きそうなユダヤ人迫害の物語が描かれるだけに、不意打ちを喰らうかもしれない。とはいえ、そこは職人監督マーク・フォースター。前作へと繋がる「親切と勇気」をテーマに、『ネバーランド』『プーと大人になった僕』と同様、ちょいとファンタジー味を加えた良質な人間ドラマに仕上げている。なかなかヘヴィではあるものの、世界妄想ドライブやダンスなど、印象的なシーンも多く、「永遠の初恋物語」に着地させているところもさすが。
いじめた側の少年の心の傷も癒されていく
難病による外見せいでいじめを受ける10歳の少年オギーの奮闘を描く映画『ワンダー 君は太陽』の続編は、主人公のその後を描くのではなく、前作で主人公をいじめた少年を癒そうとする姿勢が胸を打つ。彼も心に傷を負っている。前作でも彼の両親に問題があることが描かれたが、彼は本作で祖母と出会い、その体験を聞きながら回復していく。
ユダヤ系の祖母が少女時代を過ごしたのは、ナチス占領下のフランス。小児麻痺の少年へのいじめという身近な出来事と、ユダヤ人迫害という大きな動きが、根本で繋がっている。少女が隠れて暮らす納屋で、小児麻痺の少年と一緒に空想する、今は行けない土地の風景の夢のような儚い美しさが魅了する。