盤上の向日葵 (2025):映画短評
ライター3人の平均評価: 4
原作同様の『砂の器』リスペクトにニヤリ
原作は、松本清張の「砂の器」を意識したというミステリー劇。発見された身元不明の遺体の謎を追って、刑事2人が仙台、山形、富山、長野など各地を巡りながら真相を突き詰める。映画も、野村芳太郎監督『砂の器』へのリスペクトで溢れている。時は昭和から平成。国鉄時代の固定式クロスシートに国鉄カラーの特急で移動すれば、意外な駅で登場する小湊鉄道上総鶴舞駅や諏訪の国指定重要文化財・片倉館などが昭和のムードを醸しだす。泰然とそこに存在してきた建物や空間が生み出す空気が、物語に説得力を与える威力たるや。影の功労者たる、各地のフィルムコミッションに賛辞を。
往年のヒューマンミステリーを想起させる
過去に多くのモノを抱えた主人公、それに関わる一癖も二癖ある者たち、全国各地に展開される捜査網などなど、往年のヒューマンミステリーを想起させる一本。演者はどれも好演をしているが、やはり今回は渡辺謙。最近は特別枠的な出演と言った時もあったが、今回はがっつり物語の主軸に絡んでくきて、もう一人の主人公と言っていい存在感を感じさせてくれ、流石の一言。運命に翻弄されつつ将棋の道に生きる坂口健太郎、事件を追う曲者刑事役の佐々木蔵之介も巧い演技を見せてくれた。骨太なストーリー展開、じっくりと堪能したい一本。サザンの主題歌がまた沁みる。
事件も人物心理も極端な部分はあるも、往年の“作り物”感で凌ぐ
白骨死体発見からの事件のプロセスが、前半はかなり速いテンポで進行。その謎と天才棋士の活躍が織り交ぜられ、どこへ連れて行かれるか、心地よい迷宮感に浸る。中盤からは一転。ポイントとなるシーンはじっくり演出され、このメリハリが映画として美しい。
人智の及ばない極端な行動をとる人物もいて、中には観ていて“引いて”しまう人もいるかも。でもこの“イッちゃってる”感がフィクションらしいトリガーとなって心に突き刺さった。
佐々木蔵之介だけが(意図的だろうが)舞台のように大仰な演技をみせるも、全体の設定からして多くの人が比較したくなる名作『砂の器』あたりの往年のムードを喚起させ、作品のアクセントとして悪くない。





















