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第69回エミー賞は女性が勝利した年!反トランプ旋風吹き荒れる

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ニコール・キッドマン&リース・ウィザースプーンが出演のほかプロデューサーとしても名を連ねた「ビッグ・リトル・ライズ ~セレブママたちの憂うつ~」が、リミテッドシリーズ作品賞を受賞
ニコール・キッドマン&リース・ウィザースプーンが出演のほかプロデューサーとしても名を連ねた「ビッグ・リトル・ライズ ~セレブママたちの憂うつ~」が、リミテッドシリーズ作品賞を受賞 - (C)Television Academy

 テレビ界のアカデミー賞と言われる第69回プライムタイム・エミー賞授賞式が、現地時間9月17日にロサンゼルスのダウンタウンにあるマイクロソフト・シアターで開催された。フィクション部門では、Huluのオリジナルシリーズ「ザ・ハンドメイズ・テイル(原題) / The Handmaid's Tale」と、HBOの「ビッグ・リトル・ライズ ~セレブママたちの憂うつ~」が最多8部門のタイ記録。また、NBCの老舗のバラエティー番組「サタデー・ナイト・ライブ」が9部門に輝いた。

【写真】反トランプのメッセージが連発された第69回エミー賞授賞式

第69回エミー賞
反トランプジョークで沸かせた司会者のスティーヴン・コルベア(C)Television Academy

 司会を務めたのは人気コメディアンで俳優のスティーヴン・コルベア。自身が司会のトーク番組などでトランプ政権の批判を続けているコルベアとあって、事前の予想通りにオープニングのモノローグではトランプ大統領をネタにしたジャブを繰り出して会場を沸かせた。リアリティー番組「アプレンティス」(NBC)で絶大な人気を得たトランプを揶揄して、「トランプにエミー賞をあげていれば大統領になっていなかっただろう。でも、大統領と違ってエミー賞は人気がある人がもらうもの」とのっけから絶好調。さらに、「サタデー・ナイト・ライブ」でメリッサ・マッカーシーのモノマネが大好評を博した元ホワイトハウス報道官ショーン・スパイサー本人が登場するというサプライズも。スパイサーのユーモアのあるスピーチには笑いも起きたが、授賞式後には記者やセレブがツイッターなどで「笑えない」「恥ずべき行為」と非難する声も多く物議を醸している。もっとも、コルベアの司会ぶりは安定感があり、「ウエストワールド」(HBO)風のコントや「クレイジー・エックス・カールフレンド」(CW)のレイチェル・ブルームが得意のダンス&ソングを披露するなど、全体としてはウイットに富みスムーズで好評だった。

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第69回エミー賞
ドラマシリーズ部門主演女優賞に輝いたエリザベス・モス。初受賞!(C)Television Academy

 今年のエミー賞のキーワードは、「女性」と「反トランプ」、そして近年話題になることが多い「多様性」は、さらに一歩踏み込んだ形で受賞結果に顕著だった。最も強く打ち出されたのは「女性」で、4つの主要カテゴリーの作品賞は、すべて女性を主体とした内容だ。ドラマ部門は、女性が子供を産む機械とみなされるディストピア小説のドラマ化「ザ・ハンドメイズ・テイル」、コメディー部門は、女性副大統領を主人公にした「Veep/ヴィープ」、リミテッドシリーズ部門は、ママ友たちの裏の顔を描いた「ビッグ・リトル・ライズ」、テレビムービー部門はレズビアンの愛を描いた「ブラック・ミラー」。さらに、「ザ・ハンドメイズ・テイル」で主演女優賞を受賞したエリザベス・モス(8度目の正直!)、「Veep/ヴィープ」で6年連続の主演女優賞受賞を果たしたジュリア・ルイス=ドレイファス、「ビッグ・リトル・ライズ」の主演女優賞で初受賞となったニコール・キッドマン、キッドマンとともに主演女優賞にノミネートされていたリース・ウィザースプーンらは製作総指揮を務めており、プロデューサーとして作品賞を受賞している。

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第69回エミー賞
ドラマシリーズ部門主演男優賞受賞のスターリング・K・ブラウン(C)Television Academy

 2015年、2016年と絶対的な強さを誇ってきた王者「ゲーム・オブ・スローンズ」(HBO)が不在の今年。ドラマ部門の作品賞は「ザ・ハンドメイズ・テイル」が強いとされながら、直前になって地上波NBCネットワークのハートフルな人間ドラマ「THIS IS US 36歳、これから」が追い上げていた。2008年にベーシックケーブル局の番組が作品賞候補になって以来ケーブル局の天下が続き、2013年にNetflixなどのオンラインストリーミングサービスのオリジナルシリーズがノミネートされてからは、ますます地上波の存在感は希薄だった。そんな中、久々の秀作として評価が高く、多様な家族のあり方を伝えるテーマは時代にふさわしいものでもあったが、「ザ・ハンドメイズ・テイル」に軍配が上がった。「THIS IS US」は昨年の「アメリカン・クライム・ストーリー/O・J・シンプソン事件」(FX)での助演男優賞受賞に続き、スターリング・K・ブラウンが主演男優賞に輝いたものの2部門の受賞にとどまった。「ザ・ハンドメイズ・テイル」は完成度の高さはもちろんのこと、女性が主体であることに加えて反トランプの気運をより強く内容に反映していた結果でもあるだろう。トランプやヒラリーのモノマネで反トランプ政権色を徹底してやり通した「サタデー・ナイト・ライブ」が、アレック・ボールドウィンケイト・マッキノン、メリッサ・マッカーシーほか9部門の受賞で圧倒的な強さを見せたことは、まさに業界をあげて改めて反トランプの意思表示をした格好だ。

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第69回エミー賞
リナ・ウェイス(右)は、黒人女性としてエミー史上初のコメディーシリーズ部門脚本賞受賞の快挙!(C)Television Academy

 今年もまた新たな記録が生まれた。昨年に引き続き「マスター・オブ・ゼロ」(Netflix)でコメディーシリーズ部門脚本賞を受賞した本作のクリエイター&主演であるインド系アメリカ人アジズ・アンサリとともに賞をシェアしたのは、脚本家のリナ・ウェイス。ウェイスは黒人女性としてエミー賞史上初のコメディーシリーズ部門の脚本賞を受賞した。受賞したエピソード「サンクスギビング」は、毎年の「感謝祭」を通してレズビアンの娘と母親の約20年間を描いたもので、ウェイス自身の体験に基づいており、カミングアウトする娘を自ら演じている。受賞スピーチでは、有色人種として、またLGBQTIAとして力強いメッセージを伝える胸を打つ言葉の数々に会場は拍手喝さいだった。また、ドラマ部門の監督賞は「ザ・ハンドメイズ・テイル」のリード・モラーノ。1996年に「ER/緊急救命室」でミミ・レダーが受賞して以来、22年ぶりの女性監督受賞となる。同作が作品賞を受賞した際には、原作者のマーガレット・アトウッドが壇上に上がり、題材、作り手、俳優、原作者と女性のパワーを見せつけて、会場は最高調の盛り上がりを見せていた。

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第69回エミー賞
黒人男性として初めてコメディーシリーズ部門監督賞を受賞したドナルド・グローヴァー(C)Television Academy

 “初”の記録としては、主要なアワードで快進撃を続けている「アトランタ」(FX)のドナルド・グローヴァーがエミー賞初受賞にして、黒人男性として初めてコメディーシリーズ部門監督賞を受賞。リミテッドシリーズ・テレビムービー部門は、「ナイト・オブ・キリング 失われた記憶」(HBO)のリズ・アーメッドもエミー賞初受賞、南アジア人の男性として初の主演男優賞受賞を果たした。アーメッドはムスリムの俳優として反トランプを標榜しており、イギリス議会で講演を行ったこともある。受賞スピーチでも、作品のテーマと同じくムスリムやマイノリティーへの司法制度における偏見や不平等などについて強いメッセージを発信した。実は、同カテゴリーの受賞予想は、“受賞するべき”はリズ・アーメッドとしながらも、実際に受賞するのは「FARGO/ファーゴ3」(FX)で一人二役を熱演したユアン・マクレガーを有力視する声が多く、「嘘の天才 ~史上最大の金融詐欺~」(HBO)で貫禄の演技を見せたロバート・デ・ニーロと予想する向きもあった。保守的とされるエミー賞は元来が映画スターと英国勢に授与する傾向が強く、知名度の低いアーメッドは不利と見られていたからだ。同作品から同じカテゴリーにノミネートされていた大ベテランのジョン・タトゥーロが、アーメッドの名が呼ばれた瞬間の驚いた表情と喜びようを見ても、驚きの受賞だったことがうかがえる。同じく、サプライズ受賞となったのは「ザ・ハンドメイズ・テイル」で助演女優賞を受賞したアン・ダウド。キャリアは長いが初のノミネートで、ゲスト部門で「LEFTOVERS」(HBO)とWノミネートだったことも追い風になったと思われる。「ウエストワールド」のタンディ・ニュートンか「THIS IS US」のクリッシー・メッツ、あるいは「ストレンジャー・シングス」(Netflix)のミリー・ボビー・ブラウンという予想もあったが、コツコツとキャリアを重ねてきた玄人好みのダウドの受賞は結果として誰もが納得するものだった。

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第69回エミー賞
リズ・アーメッドが南アジア人の男性として初の主演男優賞を受賞!(C)Television Academy

 今年のエミー賞は、実に450本をも数えるオリジナル脚本のシリーズが対象となった。いまや映画界との垣根は過去のものとなったばかりか、世界中から人材が集まり、制作本数もクオリティーも毎年過去最高を更新し続けている。22部門の最多ノミネートを記録したSFドラマ「ウエストワールド」が5部門の受賞にとどまり、往年の大女優の確執を描いた「フュード/確執 ベティvsジョーン」ほか主要な賞を逃した候補作を見ても、このレベルで受賞に至らないのだから恐れ入る。また、今年の受賞結果は、多様性の実現をさらに促していることは賞賛に値するもので、よく比較されるアカデミー賞からすれば何歩も先を行っていると言えるだろう。だが、前述のウェイスは「私たちはまだまだやらなくてはいけないことがあるし、それを成し遂げるために私は今も闘っている」とスピーチし、キッドマンは「もっと女性にやりがいのある役を!」とコメントした。アメリカのテレビ業界は、たゆまぬ前進を続けている。

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第69回エミー賞レッドカーペット&授賞式は9月24日午後1時~FOXチャンネルにて放送
(レッドカーペットは午後1時~、授賞式は午後2時~放送、11月にも再放送予定)

今祥枝(いま・さちえ)映画・海外ドラマライター。「BAILA(バイラ)」「日経エンタテインメント!」ほかで執筆。著書に「海外ドラマ10年史」(日経BP社)。当サイトでは「名画プレイバック」を担当。Twitter @SachieIma

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