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殺人ピエロ映画『IT』大ヒットの裏にあるこわいもの見たさの心理

恐怖に向き合い、恐怖を克服する……ピエロがコワすぎる『IT』
恐怖に向き合い、恐怖を克服する……ピエロがコワすぎる『IT』 - (C) 2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED.Photograph : Shane Leonard

 ホラー映画『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』が、公開3週目(11月18日~19日)にして初の映画動員ランキング第1位という、“異例の”快挙を記録。トップは初登場の映画になるのが通例の中、これは特別な事態だと言えるだろう。なぜ本作は公開後も観客を動員し続けているのか。

【画像】こんなん絶対怖いよ!『IT/イット』

 そもそも本国アメリカでは、大ヒットを記録。公開週末(9月8日~9月10日)に1億2,340万ドル(約135億7,000万円)を超え、『パラノーマル・アクティビティ3』を超えてホラー映画のオープニング記録歴代第1位になり、『モンスター・ホテル2』を超えて9月公開映画のオープニング興収記録も塗り替えた。(数字は Box Office Mojo 調べ、1ドル110円計算)

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 その背景にはアメリカならではの事情がある。まずこの国には、スティーヴン・キングの原作小説のモデルとなった、1970年代に33人を殺害したピエロの格好のシリアルキラー、ジョン・ゲイシーがいる。そして「殺人ピエロ」の都市伝説があり、YouTubeにもその動画が多数アップされ、この夏には各地で不気味なピエロの格好をした人物が目撃されてニュースにもなった。道化恐怖症(Coulrophobia)という用語もある。全米での大ヒットにはそんな背景がすぐに思い浮かぶ。

 しかし、日本にはそういう背景はない。ではなぜ本作はヒットしているのか。そこにはまず、ホラー映画ファンに共通の“怖いもの見たさ"の心理”がある。“恐怖”は危険を回避して生き延びるための、動物にもある本能的な感覚だという。ただしその恐怖の対象について知ることが、生き延びることにつながる場合もある。そのため恐怖と同時に“好奇心”が生じ、それが“怖いもの見たさ”になるのだという。断崖に立つと、つい下を覗き込みたくなるのはそのためだそう。アメリカで驚異的にヒットした怖い映画、と聞くとそれだけでその中身を知りたくなるのは、この感覚のせいだろう。

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 そして本作の場合、さらにもう一つ、怖いのに観たくなる理由があるのではないだろうか。ポイントは、主要登場人物が子供だという点。観客は、映画で子供たちが恐怖に怯えるのを見て、自分の子供時代の恐怖を思い出すのではないか。少なくともアンディ・ムスキエティ監督はそれを意図していた節がある。彼は前作『MAMA』でも子供の心理を鮮やかに描いたが、本作についても、自分自身が子供たちの心理に共感できるように、時代設定を自分が子供だった1980年代に変更し、自分が子供時代に怖かったアイテムを映画で使ったと語っているのだ。

 子供時代に感じる恐怖は、大人になってから感じる恐怖よりも、鮮やかで凄まじい。この映画の恐怖描写が凄惨なのは、そのせいだ。しかも本作の子供たちは各自が私生活に問題を抱えていて、ピエロのペニーワイズは彼らが抱える悪夢の象徴にも見える。だから観客は、子供たちがペニーワイズと対決するのを見ながら、彼らと一緒に自分の子供時代の悪夢と対決するような気持ちになるのではないだろうか。そして、本作を観ることで、安全な状態で恐怖の対象と向き合うことで恐怖を克服するセラピー「暴露療法」と同じような効果を得るのではないだろうか。恐怖の克服は、満足感を与えてくれる。激しい恐怖の後には、強いカタルシスが待っているのだ。この快感が口コミで伝わって、観客動員につながったのではないだろうか。

 しかし、果たして子供たちは本当に悪夢を克服できたのか。すでに続編は2019年9月6日の全米公開が発表され、スティーヴン・キングの原作小説どおり、大人になった彼らが描かれると言われている。本当の恐怖は続編から始まるかもしれない。(平沢薫)

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