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俳優・岡田准一の魅力「高倉健を彷彿させた」

妻への愛を貫く侍に
妻への愛を貫く侍に - (C) 2018「散り椿」製作委員会

 俳優・岡田准一は、なぜこんなにも、巨匠たちを虜にするのか。黒澤明監督のもとで撮影の腕を磨き、『鉄道員(ぽっぽや)』などの降旗康男監督と共に数々の作品を手掛けてきた名キャメラマン・木村大作もその一人だ。監督3作目となる最新作『散り椿』で、監督と主演として念願の初タッグを組んだ木村が、「高倉健を彷彿させた」という主演・岡田の魅力を熱く語った。

『散り椿』予告編

 本作は、葉室麟の小説を基に、『阿弥陀堂だより』『蜩ノ記(ひぐらしのき)』などで監督としても活躍する小泉堯史が脚本を執筆し、『劔岳 点の記』『春を背負って』の木村監督が撮影を兼務しながらメガホンを取った時代劇。亡き妻・篠(麻生久美子)との約束を果たすため、故郷に戻った瓜生新兵衛(岡田)が、かつて同じ道場でしのぎを削り、恋敵でもあった因縁の男・榊原采女(西島秀俊)と、男の生きざまを懸けて火花を散らす姿を描く。先日開催された第42回モントリオール世界映画祭では審査員特別賞を受賞した。

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■言語化できない雰囲気を醸し出す

 「大切に思えるものに出会えれば、それだけで幸せだと思っております」。主人公・新兵衛のこの言葉に同じ人生観を感じ、映画化を決意したという木村。「僕にとって黒澤監督と(高倉)健さんとの出会いはかけがえのないもの。二人への思いを胸に、人の心の『美しさ』を映し出す、そんな時代劇を撮りたいと思った。そのときにふと浮かんだのが岡田さんだった」と振り返る。

木村大作
木村大作監督

 脚本は出来上がった。ところが、本作よりも先に、降旗監督の『追憶』という作品がめぐってきたため、木村はキャメラマンという立場で、岡田と初めて現場を共にする。「おかげでじっくりと岡田さんを観察することができた。僕の目に狂いはなかったね、『新兵衛役は岡田さん以外にいない』と確信することができた」と力を込める。

 さらに、「実は岡田さん側も、黒澤監督や健さんと一緒にやってきた僕にものすごく関心を持っていることもわかった。特に健さんが大好きなんだろうね。『あのときの逸話は本当ですか?』とか、『あの撮影のときはどうだったんですか?』とか、毎日うるさいくらいに聞いてくる(笑)。これはもう『散り椿』をオファーするしかないと思って脚本を渡したら、案の定、3日後に『やります!』と返事が来た」と目を細める。

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 改めて、俳優・岡田准一の魅力を聞いてみると、木村はこう分析する。「いろんな作品を観て思ったのは、ふと見せる静かな表情が、とにかく絵になるなと。撮影の合間になんとなく座っていても、その横顔から、言葉にできない独特の雰囲気を醸し出すんだよ。まるで、世の中の無常を憂いているような感じでね。人生の全てを『背中』で語る健さんの域にはまだまだ時間がかかると思うけれど、岡田さんには健さんに通じる静謐(せいひつ)さがある。努力を怠らず、年を重ねていけば、健さんのような俳優に必ずなれるはず」と期待を寄せる。

■岡田には隙がない 全身全霊の熱い思い

 雰囲気だけではない。岡田には、演技に対する真摯な姿勢と、座長としての資質も備わっているという。「岡田さんの特徴は、『受け』の芝居が非常にうまいこと。だいたい俳優さんは、自分のセリフを言うときは必死にやるけれど、相手の話を聞いているときは、ちょっと抜けているときがある。僕は多重カメラで撮る人間だから、そういうのが全てわかるんだ。健さんもそうだったけど、岡田さんには隙がない」と感心する。

木村大作
岡田は「裏方でもやっていける」という木村監督

 また、共演者を取りまとめる岡田の能力は「裏方でもやっていける」と舌を巻く。「今回、僕と初めて組む役者が多かったので『木村大作とはこういう人間だ』みたいなことを周りに教えていたね。『自分で表現したいことをどんどんぶつけていっても、それを受け止めてくれる度量がある人だ』とかなんとか言って、役者をどんどんその気にさせる。もう助監督みたいなもんだね(笑)。だから、僕がテスト1回、本番1回の集中型であることも知っているから、現場に入ったときにはみんな演技が完全に仕上がっている。そういうところもすごいんだよ」と称賛を惜しまない。

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散り椿
西島秀俊ふんする榊原采女との対決シーン - (C) 2018「散り椿」製作委員会

 殺陣に関しては、「最近の時代劇は殺陣じゃない、アクションだよね。一人で何百人も倒すとか、もうあり得ない世界。今回は当初、チャンバラが脚本になかったので、急きょ僕が足したんだけど、あの椿の花の前で西島さんと対決するシーンは、まさに殺陣だね、本物の殺陣。男の意地をぶつけ合い、まるで会話を交わしているような華やかさがあった」と述懐する。「岡田さんが黙々と剣舞をやるシーンも、振り付けなど一切していない。僕は7分間カメラを回し、理にかなった見事な動きに見とれているだけ。『すごいねぇ』って声をかけたら、『篠のことだけを考えてやりました』と言うわけだよ」

 体に染み込んだ所作や、着崩れを一切しない着物の着こなしは、日ごろの丹念の賜物。岡田伝説は、もはや枚挙にいとまがないが、木村はかみしめるようにこう語る。「健さんが現場で絶対に座らないという話は有名だけど、俳優だけでなく、スタッフの動きにも注意を払っていると、座っている暇なんてないんだよね。自分のことだけでなく、映画作りの全てに全身全霊を懸けている証拠。岡田さんにもそういう熱い思いがあることが、一緒にやってみて、ものすごくわかったよ」。男が男に惚れると、ここまで雄弁になれるのか。淀みなく岡田を称える木村の言葉には、どこか高倉健の影を追う愛おしさがあふれていた。(取材・文・写真:坂田正樹)

映画『散り椿』は9月28日より全国東宝系にて公開

「散り椿」予告 » 動画の詳細
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