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カンヌ審査員賞受賞作、美人監督らがシリア難民の悲惨な現状を訴える

左から、製作者・作曲家のカレド・マウザナー、ナディーン・ラバキー監督夫妻と、主演のゼイン・アル・ラフィーア
左から、製作者・作曲家のカレド・マウザナー、ナディーン・ラバキー監督夫妻と、主演のゼイン・アル・ラフィーア

 今年のカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞したレバノン映画『カペナウム(原題) / Capharnaum』について、ナディーン・ラバキー監督、主演のゼイン・アル・ラフィーア、製作者・作曲家カレド・マウザナーらが、11月8日(現地時間)、ニューヨークのチェルシーのシネポリスUSAムービー・シアターで行われたUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)主催の特別試写上映後のQ&Aで語った。

【作品写真】フィンランドの巨匠が描いたシリア難民との交流ドラマも

 本作は、両親の言葉が絶対である中東はレバノンの社会の底辺で暮らす12歳の少年ゼイン(ゼイン)が、虐待を続ける父親と、十分な食事も与えてくれない母親に嫌気がさして、“自分を産んだ罪”で両親を訴えるさまを描いたドラマ。映画内では、ゼインが妹や刑務所に入った他人の赤ちゃんを守りながら懸命に生きていく姿を捉えながら、社会の問題点を浮き彫りにしていく。映画『キャラメル』で注目を浴びたラバキー監督がメガホンを取った。

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 今やレバノンの人口の3~4人に1人はシリア難民だと語るラバキー監督。「もともと経済的な問題を抱えるレバノンにとって、かなり大きな負担と責任を抱えている状況にあるの。最近では、よく(物乞いをする)難民の子供たちをストリートで見かけるわ。ただ、現在の政府のシステムでは、(レバノン人とシリア難民が住みやすいような)解決策を見いだせず、平行線をたどっているような状態だわ。だから彼らは、まるで目に見えない人のように扱われ、車の横にシリア難民の子供たちがいても、(レバノンの人々は)見向きもせずに通り過ぎてしまうの」と嘆いた。こんな状況下で、政府のシステムや社会の中で全く見向きもされない子供たちを描いたらどうなるだろうか、また、彼ら難民のことをもっと理解したい、そして「映画監督として多くの人に伝える責任も感じた」ことがきっかけで、今作の製作が始まったそうだ。

 今作を手掛ける前に多くの難民にインタビューを敢行したラバキー監督は、そのインタビューの最後に「今、生きていられることは嬉しい?」と聞いたそうだ。すると「『ノー!』と答えた人や、中には『死んだほうがマシ!』『なぜわたしは生まれたのだろうか?』『愛されずに、優しい言葉もかけられずに、虐待され、レイプされる』など、自分自身を卑下し『虫や、寄生虫、クズのような人間』と答えた人たちがずいぶんいたわ。彼らのほとんどは、出生記録もないし、そのような書類もないの。彼らは、自分たちの存在価値さえ見いだせない状況なのよ。だから今作では、そのような状況下にいる少年が、両親を訴えることを通して、われわれ社会にも訴えを起こしているの」と強い口調で語った。

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 今作の製作を務めたカレドは、作品を通じて何か大きなプロジェクトに関わった気がすると話す。「今作はリアルな難民の子供たちを描きたかったから、撮影は約6か月にも及び、撮影時間も約600時間かかったんだ。最初のカット(編集)は14時間もあったよ。今作のような自然な演技を子供たちから引き出すためには、それぐらいの時間が必要で、だから、妻のナディーンと僕は家を抵当に入れて、今作を製作したんだ。だが、作品としては、とても素晴らしいものになったよ」と自信をのぞかせた。

 主演を務めたゼインも、実生活では難民だったそうで、現在はノルウェイに住んでいるという。「近所で友人と遊んでいたときに、僕の父がノルウェイの大使館から電話を受け、大使館の人たちが父にインタビューしたいと言ってきたんだ。その後、ノルウェイに住む許可が下りたんだ。この作品がカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞したことで、ステージ上で僕たち難民のことを話すことができたし、映画祭から戻ってきたら、UNHCRからノルウェイに住むことのできる正式な書類が届いていたよ」ちなみにゼインは、ノルウェイで学校に通うまでは、自分の名前さえ書けなかったが、今ではノルウェイでの生活にも慣れ、朝早くから学校に通っているそうだ。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)

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