『七つの会議』ヒットの理由は?池井戸潤×日曜劇場のブランド力

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大ヒットのスタートを切った『七つの会議』 - (C) 2019映画「七つの会議」製作委員会

 2月1日より全国329スクリーンで公開された映画『七つの会議』が、2週連続で週末映画ランキング1位となる好調な出足を見せている。公開初日(金曜日)からの3日間で動員数35万1,000人、興行収入4億3,400万円、2週目の土日2日間(9、10日)では動員21万3,000人、興収2億7,400万円をあげ、連休となった11日までの累計では動員95万人、興収11億円を突破。大ヒットスタートを切ることに成功したが、それにはいくつかの要因が考えられそうだ。(データは興行通信社、日本映画製作者連盟、配給調べ)

【動画】『七つの会議』予告編

メイン観客層は30代以上の会社員

 初日3日間の男女比は 62.8:37.2。世代別では 50 代 38.1%、40 代 19.8%、60 代 18.2%、30 代 10.2%と年齢層は高め。配給によるパソコンと携帯を使ったWEBアンケート結果によると、職業については 73.9%が「会社員(自営業含む)」と回答している。ヒットの要因としてまずあげられるのは、直木賞も受賞しているベストセラー作家、池井戸潤の原作であることはもちろんだが、その池井戸を大人気作家に押し上げた日曜9時のTBSの伝統的な看板ドラマ枠「日曜劇場」で放送された作品のスタッフ&キャストが集結していることが大きい。実際に、鑑賞者の「池井戸作品のテレビドラマ(TBS 日曜劇場)で観たことがある作品」(複数回答可)についてのアンケートについては、「半沢直樹」(2013 年)が 76.6%、「下町ロケット」(2015 )が 71.0%、「下町ロケット(2)」(2018 )が 67.9%という結果だ。

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「半沢直樹」で決定づけた、幅広い層に支持されるスタイル

 池井戸潤×日曜劇場の起点となったのは、池井戸潤の小説「オレたちバブル入行組」「オレたち花のバブル組」を全10話で連続ドラマ化した2013年の「半沢直樹」。最終回の平均視聴率42.2%という、大ヒットドラマとなった同作は社会現象となり、「倍返し」という流行語も生んだ。同作以降、TBSの「日曜劇場」は、池井戸潤の小説を次々と連続ドラマ化し、2014年に「ルーズヴェルト・ゲーム」、2015年と2018年に「下町ロケット」シリーズ、2017年には「陸王」をそれぞれヒットさせてきた。池井戸作品は企業小説などが多いことから、男性層の支持が特に多かったが、ドラマでの感動を煽る演出とも相まって、男女を問わず幅広い層から注目を浴びることになった。

ぐうたらな万年係長の八角(野村萬斎)と、彼にパワハラで訴えられる坂戸(片岡愛之助)(C) 2019映画「七つの会議」製作委員会

 池井戸作品は、「日曜劇場」以外でも多数ドラマ化されて人気を博しているが、その視聴率の高さや反響の大きさからも、池井戸作品と「日曜劇場」の相性の良さは際立っており、そのクオリティーへの信頼などが幅広い視聴者に浸透しているようだ。「半沢直樹」は、サラリーマンの悲哀や銀行という会社組織の闇をリアルに描いた群像劇でありつつも、ケレン味あふれたダイナミックな演出と顔芸ともいえるような役者陣の大熱演、そして最終的には時代劇のごとく勧善懲悪的な胸のすく展開をみせるという作風。それが社会派エンタテインメントとして、池井戸作品との絶妙な化学反応を生んでいた。それ以降、演出方法や個性的なキャスティングなど、そのスタイルの一部は以降の「日曜劇場」で放送される作品自体にも影響を与えた。

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 映画『七つの会議』は、「日曜劇場」×池井戸作品シリーズを手掛けてきた監督の福澤克雄とプロデューサーの伊與田英徳らのスタッフが参加。同シリーズで個性を発揮してきた香川照之及川光博片岡愛之助音尾琢真朝倉あき岡田浩暉木下ほうか吉田羊土屋太鳳小泉孝太郎春風亭昇太立川談春世良公則北大路欣也らの豪華キャストが名を連ねるだけでなく、作品のスタイル的にも、同シリーズの流れを汲んでいる。また、近年の同シリーズでは抑えた部分もあった、「半沢直樹」的なテンションの高い演出と芝居合戦を全開にして、野村萬斎&片岡愛之助&香川照之らが舞台や歌舞伎のような芝居でぶつかり合っているのも、予告編などを通して娯楽性の高さや同シリーズを連想させやすかったと思われる。

メインキャストの積極的なパブリシティー

 こういった「日曜劇場」×池井戸作品シリーズのイメージを浸透させる上では、メインキャストたちの積極的なパブリシティーも効果的だった。主演俳優が番宣のためにテレビのバラエティー番組に出演すること自体は珍しくもないし、宣伝になっているのかよくわからない場合もある。しかし、今回の場合、主要キャストの中に取材やテレビ受けする個性派俳優が多数いたため、主演の野村萬斎のみならず、香川照之、及川光博、片岡愛之助、吉田羊ら、さらにはレギュラーの情報番組を持つ芸人の藤森慎吾らも含め、主演以外の一人だけでも取材やゲスト出演をこなし、達者な語り口で作品内容を伝えることができていたことから、幅広い宣伝展開が行えていた。また、製作幹事会社がTBSであることから、当然ではあるが、「日曜劇場」×池井戸作品シリーズの一環であるようなイメージの自社宣伝を積極的に行えたことや、スペシャル版を含むと直前の1月2日まで、「下町ロケット」シリーズを放送し、高視聴率を得ていたことも客層がうまく繋がったのではないかと思われる。

「陸王」の音尾琢真、「下町ロケット」の土屋太鳳も!(C) 2019映画「七つの会議」製作委員会

同時期公開のライバル作品が少ない

 公開時期的なことでは、「下町ロケット」シリーズの放送終了の直後だっただけでなく、大人が楽しめる全国公開規模の邦画としては、同時期にライバル作品が少なかったこともあるだろう。同日に封切られた全国公開作品は、女性や若年層がメインターゲットのラブストーリー『雪の華』、名作ディズニー映画の続編『メリー・ポピンズ リターンズ』など。ターゲット層が最も近い実話を基にしたポリティカルサスペンス『フロントランナー』は、100スクリーン以下で公開規模が違う。前週から引き続き公開中の作品も、『マスカレード・ホテル』は3週目で、2週目の『十二人の死にたい子どもたち』のメインターゲットは若年層。『ボヘミアン・ラプソディ』は13週目というロングランヒット作品で、『七つの会議』のターゲットとなる年齢層と近く、予告編を浸透させるのに一役買ったかもしれない。

原作やドラマを知っている人も楽しめる大胆なアレンジ

 また、内容的な部分では、複雑に絡み合う原作の物語を企業サスペンスとしてわかりやすく再構成した脚本の上手さもあるだろう。同原作は、ドラマ「半沢直樹」と同時期の2013年に、NHKで東山紀之を主演に迎え連続ドラマ化(全4話)されている。一方、原作は8章で構成され、各章が異なる主人公の視点で語られる物語を通してその全貌がみえてくる構成だったため、映画もドラマもかなり大胆なアレンジを加えており、主人公もそれぞれ異なっている。いずれも原作から損なわれた部分もあり、一長一短あるのだが、映像化の難しい原作をうまくアレンジしていることは間違いなく、ストーリーだけでいうと、ドラマ版より尺の短い映画版の方が原作に近いとも言える。キャラクターもかなり原作と違うが、それぞれに独自の面白さがあるので、原作やドラマを知っている人にも、今回の映画は新鮮に楽しめたはずだ。また、緊張感のあるハイテンションな流れが続く中、原作でも描かれている女性社員のエピソードをうまく使うことで緩急のバランスをつけ、幅広い客層にも受け入れられやすいようになっている。

及川光博演じる課長・原島ら原作のアレンジもうまく機能 (C) 2019映画「七つの会議」製作委員会

 現状でみると、同じ池井戸原作で、昨年公開され興行収入17億4,000万円というスマッシュヒットを記録した『空飛ぶタイヤ』の公開初日から2日間の興収対比(どちらも土日のみ)で125.6%、2週目の土日の興収対比では142%という高稼働をみせており、20億円越えは確実そう。今後さらにどこまで興行収入を伸ばせるかが注目される。(天本伸一郎)

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