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白石和彌監督、ピエール瀧出演シーンをカットしなかった理由

無事に公開初日を迎えて晴れやかな表情の白石和彌監督。
無事に公開初日を迎えて晴れやかな表情の白石和彌監督。

 麻薬取締法違反の疑いで逮捕、起訴されたピエール瀧被告の事件を受け、テレビ局や映画会社が出演作品の自粛対応に追われている中、瀧被告も出演している斎藤工主演の映画『麻雀放浪記2020』が予定通り公開初日を迎えた。映画『凶悪』から常連俳優として瀧被告を起用し続けてきた白石和彌監督はどのような思いでこの日を迎えたのか。初日の初回上映直後に、白石監督に話を聞いた。(取材・文:森田真帆)

カットされなかった瀧被告の場面写真

 瀧被告の逮捕が報道されたのは、3月12日のこと。約1か月前の2月前半に行った主演の斎藤と白石監督のインタビューの時、日本映画界は新井浩文の逮捕に揺れ、多くの作品が自粛の措置を図っていた。果たして「作品に罪はあるのか?」という問題について白石監督に意見を求めると「胸が痛い話。監督は何も悪くないのに」と悲痛な表情を浮かべていた。あれから数週間後、まさか自分の作品までもが自粛か公開かの狭間に立たされるとは、白石監督も想像できなかっただろう。

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 白石監督が、瀧被告逮捕の一報を知ったのは自宅でテレビを観ていた時だった。「家でテレビを観ていたら、テロップで瀧さん逮捕のニュース速報が流れて。思わず『えー』って声が出て、呆然としました。何も考えられなかったし、仕事も手につかなかった」と振り返る。「すでに公開まで時間もなく、撮り直すことも不可能でした。でも自分は、撮影現場で頑張ってくれた一人一人のスタッフへの思いや熱意を背負っている。公開決定の会見でも話したように、瀧さんを擁護するつもりは今も全くありませんが、作品のことはなんとしてでも守らなければならないと考えました」と監督としての思いを明かした。

 公開決定については、出資会社の集合体である日本映画界特有の製作委員会システムが大きく左右する。この会議に監督が出席することは稀であり、時に監督の意向を聞くこともなく製作委員会の会議だけで上映の行方が決まることは珍しくない。では、本作ではどうだったのか。「逮捕の報道を受けて、翌日に製作委員会の会議が行われる前に、プロデューサーと東映の代表取締役グループ会長の岡田裕介さんから自分の意思を聞かれました。可能であればノーカットで上映していただきたいし、その代わりテロップで瀧さんが出ていることをきちんと説明する形で上映できないかという思いを伝えました。会議には僕は出席していませんが、結果的に公開日を変えずに公開するという委員会の意向を聞いたときは、本当にホッとしました」と作り手の気持ちを汲んだ決定をありがたく思ったという。

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 本作の公開決定報道には、賛否両論、様々な意見が上がった。混乱を極める中、監督のツイッターには「ピエールがコカインを吸っていたのを知っていただろう」という共犯者扱いのようなリプライも送られ、さらには「報道を使った炎上商法で、結局金か」という意見も出てきた。「どう思われても、それぞれだと思いますが……」と前置きをした上で、「僕ら監督やスタッフがみんな金儲けのために映画を作っているわけではないということです。僕らは、自分たちが作りたいものを必死に作って、自分たちが観たい映画を作っているだけ」と理解を求めた。

 今なお、過去作品の配信についても様々な意見が飛び交っている中、『凶悪』など多くの作品に常連俳優として瀧被告を起用してきた白石監督にとって、「過去作品の忖度」は、クリエイターとして抱えている大きな問題でもある。「『麻雀放浪記2020』もそうでしたが、これから公開する作品については、もちろん作品ごとに議論する必要があると思います。でも過去作は、配給会社だけのものではないし、作り手だけのものではない。すでに世の中に出た作品は、一般の皆さんの文化的な価値がある。だからこそ過去作に関しては、観るか観ないかの選択肢をきちんと一人一人の判断に委ねるべき」と真剣な目で訴えた。

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 実は、本作には日本によくある「謝罪会見」を揶揄(やゆ)したシーンが登場する。「ネガティブな意見に翻弄されて、謎の倫理観が横行していく傾向を意識的に変えていかないと、その生きづらさはどんどん大きくなっていくし、苦しい世の中になってしまう」とそのシーンには、以前から白石監督が抱えていた現代社会への違和感が反映されていることを明かした。そんな思いを持った白石監督と配給会社東映の決断は、自粛ムードの流れを大きく変えたと言えるだろう。「多分この映画を観た方々は、あまりのくだらなさに拍子抜けするかもしれません(笑)。でも実際に、どれほどくだらない作品であっても、作った以上はこの世から消え去っていい作品はないと思うし、観る選択肢は残してほしい」と語る言葉に、作り手としての切実な思いが込められている。

 最後に、昨日保釈された瀧被告への思いを聞くと、「もちろん彼が犯した罪は許されるものではない。彼が罪を償った後は、俳優と監督という関係以前に、僕は友人としてこれからどんなことでも瀧さんをサポートしていきたいという気持ちがとても大きいです」と率直な思いを語った。

映画『麻雀放浪記2020』は全国公開中

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