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「月1,100円で映画館行き放題」夢のサービスが破たん…MoviePassが遺したもの

アプリと連動していたMoviePass
アプリと連動していたMoviePass - Photo Illustration by Rafael Henrique/SOPA Images/LightRocket via Getty Images

 1か月10ドル(約1,100円)以下で映画館で映画見放題をうたう会員制のMoviePassが、破綻した。だが、業界人やアメリカの映画ファンは、むしろ今まで続いていたことの方に驚いている。そもそも元が取れない仕組みで、常に赤字だったこの会社は、人気のある映画を観られないようブロックしたり、1か月に観られる本数に突然制限を設けたりと、カスタマーサービス面でも信じられないことをやり続け、会員がどんどん離れていっていたのだ。(1ドル110円計算)(Yuki Saruwatari/猿渡由紀)

こんな時代も…懐かしの映画看板ギャラリー

 MoviePassが誕生したのは、2011年。当時の会費は、住んでいる街によって月30ドル~50ドル(約3,300円~5,500円)程度とそれほどお得感もなく、会員数は全米で2万人ほどにとどまっていた。だが2017年、同社の51%を買収したデータ会社のヘリオス&マターソンが、月会費を9ドル95セントに値下げすると、突然、注目を浴びるようになる。現在、ニューヨークやL.A.で大人が映画を1本観るには劇場によって13ドル~19ドル(約1,430円~2,090円)程度かかるので、この値段ならば月に1本観るだけでも得だ。これを受けて、会員数は300万人にも急増する。

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 しかし、このシステムは会員には使いづらく、会社側にもどう考えても儲けが出ないようになっていた。会員は、アプリで観たい映画・劇場・上映時間を検索し、これだと決めたら、まずそこまで向かわなければならない。劇場の目の前まで来たら、アプリでチケットをリクエスト。それを受けてMoviePassが会員の持つ会員証兼デビットカードにそのチケット代と同額を振り込み、会員はそれを使ってキオスクでチケットを買う。つまり、予約はできず、せっかく出向いても人気のある映画だと観られない可能性もあったのだ。一方でMoviePassは、月に10ドルしか払っていない会員に15ドルや17ドルを振り込むことになる。

 これを指摘されたMoviePassは当時、スポーツジムと同じく、月極め会費を払っていても全く来ない会員もいるはずで、収支は合うと語っていた。もちろん実際には火の車で、その後、彼らはリクエストが殺到しそうな最新のスーパーヒーロー映画をアプリから削除したり、月に観られる本数に制限をかけたり、劇場側にチケット代のディスカウントを要請したりして、なんとか赤字を減らそうと悪あがきをする。どんどんルールが変わる中、使いづらさはさらに増して会員は激怒。株価も急落し、今年に入ってからは1ドルを下回って、ナスダックから外された。そして今、正式にクローズとなったというわけである。

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アメリカ最大手のAMCチェーン
アメリカ最大手劇場チェーンのAMC - iStock.com / NicolasMcComber

 しかし、やり方こそ悪かったものの、アイデア自体は魅力的だったのは、彼らを歓迎しなかった大手劇場チェーンも認めるところだ。実際、MoviePassが苦戦するのと並行して、大手劇場チェーンは次々に自社の会員制サービスを立ち上げているのである。

 たとえば、アメリカ最大規模のAMCが始めた「A-List」は、月24ドル(約2,640円 ※カリフォルニア州の場合。もっと安い州もある)で1週間に3本まで観られる。オンライン予約も無料ででき、3D、IMAXもOKというのは、MoviePassとの大きな違いだ。一方でシネマークの「Movie Club」は、月10ドル(約1,100円 ※ロサンゼルスの場合。街によって違う)で2D映画を月1本見られるというもの。使わなかったら翌月に持ち越すことができたり、館内の売店でポップコーンやドリンクが2割引になったりするのが特徴だ。月1本というのはある意味現実的だし、10ドルでも普通にチケットを買うよりは安く、損はしない。座席予約もアプリやオンライン上で、無料でできる。

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 NetflixやAmazonが次々に優れた作品を自社制作しては配信し、この秋にはそこにディズニーとアップルまで加わる中、劇場主は、ストリーミングに押されて人が映画館に来なくなるのではないかと、ますます危機感を強めている。その打開策を見つけられないでいたところへ、MoviePassの試行錯誤は、一つの方向性を与えてくれたのだ。これらのプログラムにどこまで効果があるかは不明ながら、AMCの「A-List」が現在までに90万人の会員を集めているところを見ると、試す価値はあるだろう。少なくとも、何もしないで手をこまねいているよりはいい。映画史上とビジネス史上に失敗として名を残すことになったMoviePassは、もしかしたら、不本意な形ながらとても大きな功績を残したのかもしれないのである。

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