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俳優・佐藤健の“すごさ”『るろうに剣心 最終章』で新たな領域へ

『るろうに剣心 最終章』佐藤健ふんする主人公・緋村剣心
『るろうに剣心 最終章』佐藤健ふんする主人公・緋村剣心 - (C) 和月伸宏/集英社 (C) 2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final / The Beginning」製作委員会

 佐藤健は、俳優として新たな領域に足を踏み入れているーー。現在、ヒット中の映画『るろうに剣心 最終章 The Final』『るろうに剣心 最終章 The Beginning』を観れば、そんな物言いにきっと納得するはず。その“新たな領域”とは? そこからうかがい知れる、俳優・佐藤健の凄さに迫りたい。

【写真】『るろうに剣心 最終章』ビジュアルを大公開!

■違和感ゼロ!佐藤健=緋村剣心

『るろうに剣心 最終章』
『るろうに剣心 最終章 The Final』より - (C) 和月伸宏/集英社 (C) 2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final / The Beginning」製作委員会

 これだけ多く漫画の実写化作品がつくられても、二次元から生身の人間が演じる実写映画への変換はそう容易ではない。けれど和月伸宏による漫画を『ハゲタカ』の大友啓史監督が実写映画化した2012年公開の第一作、『るろうに剣心』が世に放たれたときから、佐藤健=緋村剣心への違和感が聞こえたことはないんじゃないだろうか。

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 漫画で描かれる剣心の「おろ?」とかいうちょっとおトボケな日常の姿と、殺陣で見せる漫画だからこそに思える超人的な動き。両者を一人の人間がそっくり飲みこんで体現するなんて、そもそも可能?「拙者は流浪人、あてのない旅の剣客でござるよ」、そんな言い回しをサラリとこなせる俳優がどこに? 原作ファンは実写映画化の一報に、はてなマークでいっぱいになったはずだ。けれどそこに佐藤健という選択肢が提示されたとき、なるほどその手が! とヒザを打つことになる。どう見てもハンサムな外見そのままで『BECK』では冴えない高校生に見えたし、日常的な身のこなしから、なんとなく運動神経もよさそうだし。けれど完成した映画は、そんなぼんやりとした予想を粉々に破壊する衝撃をもたらした。

『るろうに剣心 最終章』
『るろうに剣心 最終章 The Final』より - (C) 和月伸宏/集英社 (C) 2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final / The Beginning」製作委員会

 とにかく、殺陣が速い。歴代、殺陣のうまい俳優もいろいろで、踊りのように華麗な殺陣や、最近だと岡田准一のように、本当に大勢を相手にしてもなぎ倒せるんじゃ? と思うような武骨なまでにリアルな(猛烈に速いのに、あまりに動きが自然でそう見えない!)殺陣もある。それでいて佐藤健のそれはスピーディで切れ味が鋭く、映像になったときに無条件で格好いい。そもそも大友監督の演出は容赦がなく、複雑な動きとスピードと手数の多さと見た目の派手さと、そのすべてを俳優に要求する。

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 そんな殺陣をあの映像の中で成立させるのに、いったいどれだけの努力が必要なのだろう? 想像しただけで途方もない思いになるが、画面の中の佐藤は剣心そのもの。時にさらりと、剣心としての身体の反応に身を任せるように、ばっさばっさと相手を切り倒していく。ただ懸命に走る姿にさえ、心を打たれてしまう。それはきっと彼が殺陣やアクションを演じているのではなく、カメラ前ではひたすらに緋村剣心として存在し、無意識に動けるレベルにまで達しているからなのだろう。自分がいま小学生男子だったら間違いなく、親にねだって刀のおもちゃを手に入れて、日が暮れるまでチャンバラごっこをしたことだろう。

■年齢を超えた確かな説得力

『るろうに剣心 最終章』
『るろうに剣心 最終章 The Beginning』より - (C) 和月伸宏/集英社 (C) 2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final / The Beginning」製作委員会

 それだけではない。このシリーズには、彼の演技力がそのままストレートに活かされている。それは『るろうに剣心 最終章 The Beginning』で顕著だ。幕末に「人斬り抜刀斎(ばっとうさい)」と恐れられた剣心がなぜ流浪人となり、刀を捨てて逆刃刀(さかばとう)に持ち替え、「不殺(ころさず)の誓い」を立てるに至ったか? そんな、どう考えても闇が深いはずの人間ドラマが描かれる。

 映画の冒頭、その殺陣からして剣心は殺気に満ち満ちている。それ以前の四作で観てきたのとはぜんぜん違う人間のようでもあって、観ている側はそこではたと気づく。そうだ、この映画の彼は、「不殺の誓い」を立てる以前。人を斬ることに躊躇などなく、ただその瞬間は己の剣に集中するだけ。佐藤健はそれを、確かな説得力を持って体現していた。しかもそれはシリーズのいわば、エピソード0。われわれが観てきた四作より時をさかのぼっているはずなのに、不思議と違和感がない。よく考えたら一作目から9年も経っているのに! あるレベルまでいくと、俳優というのは年齢を操ることもできるということか。

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『るろうに剣心 最終章』
『るろうに剣心 最終章 The Beginning』より - (C) 和月伸宏/集英社 (C) 2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final / The Beginning」製作委員会

 それでいてこの映画は、大人のラブストーリーのような趣も漂う。相手は有村架純演じる雪代巴。愛する人を失った喪失感から海の底に沈んだままのような絶望を抱えて生きる女。ある日、やはり孤独を生きる剣心と、心を凍らせた女が魂で引き寄せ合うように出会い、心惹かれ、至高の時を過ごし、そして。そこを表現する佐藤健は繊細に、それでいて生々しく、緩急を持って演じる。剣心の心情が画面を通して、ばしばし伝わる。

 たとえばこんなシーン。巴と静かに絆を築いていく剣心は追手から身を隠すため、田舎で暮らすことを決意する。巴に共に暮らすことを言い出そうとするが、なかなか言えない。その姿は「人斬り抜刀斎」としてキンキンに殺気だって生きる剣心とはほど遠く、ごくフツーの恋する若者のような躊躇やはにかみがほんの少しだけブレンドされる。その塩梅、まさに絶妙! ほんの少し香るスウィートな余韻には、多くの視聴者を虜にしたドラマ「恋はつづくよどこまでも」の天堂先生とは全く違う種類の引力がある。そのあとひなびた田舎で巴と二人、畑を耕しながら暮らす剣心の幸せそうな横顔もまたスウィート。その笑顔がとびきりに輝くからこそ、そのあと二人を待つ運命の過酷さが際立つことになる。

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■垣間見える才能と努力、そしてめぐり合わせの妙

『るろうに剣心 最終章』
『るろうに剣心 最終章 The Beginning』より - (C) 和月伸宏/集英社 (C) 2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Final / The Beginning」製作委員会

 そしてどんなときも、佐藤健は主演俳優として揺るぎなくそこにいる。それは藤原竜也新田真剣佑、そして香川照之滝藤賢一ら劇画タッチな強烈キャラを前にしても変わらず、ただ映画の中心にスッと立っている。彼のクリアな頭脳は己の演技を隅々まで計算しつくし、そもそも備わる飛びぬけた能力に加えて気が遠くなるほどの具体的な努力を積み重ね、映画の1秒1秒すべてで、いまそこでなにが起きているかを把握しているからかもしれない。そんなことを思わせる。

 結果的に10年にも渡って、緋村剣心を演じた佐藤健。人気漫画の映画化、しかも明らかな凄腕である大友啓史監督のもとで全5本。殺陣も思う存分、武井咲や有村架純というでんと構えた美人女優を相手に、エンタメの極致ともいうべき作品をまっとうした。32歳。俳優のキャリアで考えても、なんという幸福なめぐり合わせだろう。(文・浅見祥子)

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