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『シャン・チー』亡きスタントマンの功績 ジャッキー・チェンに愛された天才

映画『タキシード』(2002)よりブラッド・アラン(左)とジャッキー・チェン(右)
映画『タキシード』(2002)よりブラッド・アラン(左)とジャッキー・チェン(右) - Dreamworks SKG / Photofest / ゲッティイメージズ

 9月3日に日本公開されるや週末の興行収入ランキングのトップの座に躍り出た、マーベル・シネマティック・ユニバース(以下、MCU)の最新作『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(公開中)。MCU初のアジア系ヒーロー、シャン・チーが、カンフーのテクニックを武器に、実父が率いる国際的なテロリスト集団と戦いながらアベンジャーズに近づいていく、ドラマチックなストーリーは日本のみならず、世界を熱狂させている。新星シム・リウの熱演や、カンフーの見せ場、ちりばめられたユーモアなど見どころは多いが、とりわけ東洋風味の武術の立ち回りに注目しないわけにはいかない。このアクションを生むうえで大きな役割を果たしたのが、スタント・コーディネーターのブラッド・アラン。公開直前の8月7日に48歳の若さで世を去った彼に、本作は捧げられていた。映画界で20数年にわたり活躍してきた彼の功績を振り返ってみよう。(文:相馬学)

【写真】『シャン・チー』キャラクターポスター

ジャッキー・チェンに見いだされた天才

 アランはオーストラリア出身だが中華圏の映画界で活躍しており、ジャッキー・チェン率いるスタント・チーム「成家班」の一員として知られている。14歳から北京で武術を学んでおり、この頃の同門には、これまたアジアを代表するアクション俳優ジェット・リーがいた。アンディ・ラウ主演の『酔拳3』(1994)の小さな役で俳優としてデビューした後、ジャッキー・チェン主演の『ナイスガイ』(1997)にスタントで参加。ここでの仕事が認められ、彼は非アジア系で初めて成家班の一員に迎えられる。ジャッキーの『ゴージャス』(1999)では敵役として出演しているので、記憶に残っている方もいるのではないだろうか。以後、『WHO AM I?』(1999)や『ライジング・ドラゴン』(2012)など、多くのジャッキー作品にスタントとして関り、彼の映画になくてはならない存在となっていった。

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中華圏を超えハリウッド大作でも活躍!

 『シャンハイ・ヌーン』(2000)、『ラッシュアワー2』(2001)、『タキシード』(2002)などのジャッキーの全米進出作にも深く関わったアランはハリウッドにも活躍の場を広げていく。ギレルモ・デル・トロ監督の『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』(2008)やウォシャウスキー監督が製作に名を連ねた『ニンジャ・アサシン』(2009)、『イーグル・アイ』のD・J・カルーソー監督作『アイ・アム・ナンバー4』(2011)といったヒット作でスタント・コーディネーターを務めたことにより、アクション演出の分野での知名度は上昇し、ヨーロッパでも活躍。英国のエドガー・ライト監督の『スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カノ軍団』(2010)、『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』(2013)ではユーモラスな立ち回りを組み立て、同じく英国のマシュー・ヴォーン監督の『キック・アス』(2010)、『キングスマン』(2014)で独創的なアクションを創造。近年はDC映画『ワンダーウーマン』(2017)、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』(2018)などのブロックバスター作品にも関わっていた。

アランの集大成とも言うべき『シャン・チー』

『シャン・チー/テン・リングスの伝説』より (C) Marvel Studios 2021

 全米では『ブラック・ウィドウ』を抜いて今年最速で累計興収1億ドル(約110億円)を突破し、日本でも公開2週目で累計6億円超えとなっている『シャン・チー』。残念ながら本作がアランの遺作となってしまったが、ここには彼のアクション演出の集大成が詰まっている……と言っても過言ではない。まず、格闘シーンのほとんどが武術ベースになっていること。カンフー映画の経験のない主演のシム・リウやその妹シャーリンを演じるメンガー・チャンを武術の達人に見せたことは、まさにアランの腕の見せどころだ。トレーニングを積んだ彼らの熱演にスタントを組み合わせた、映画ならではのマジックは目が離せないほどスピーディーで、ダイナミックな格闘アクションの世界へと観客を誘う。加えて、中国映画界で積んだ経験が生かされている点も見逃せない。

シャーリンを演じるメンガー・チャン

 香港製の武狭活劇ではカンフーだけでなく、ワイヤーアクションと呼ばれる特殊撮影が用いられ、飛び上がった役者たちの滞空時間が長く見えることがある。アランは、これを生かして人間技とは思えないファンタジーのようなアクションを作り出した。ワイヤーアクションの経験が豊富な中華圏の大スター、トニー・レオンは、ここではヴィランにふんしているが、その動きが不敵なくらいエレガントに見えるのもアランの功績と言えよう。現実の武術と非現実的な武狭映画のエッセンスを融合し、ハリウッドの大作に注ぎこむ。これはまさに、アランが到達しえた一つの境地というべきだろう。

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 アランの新作ではもう一つ、スタント・コーディネーターを手がけた『キングスマン:ファースト・エージェント』の公開が控えている。マシュー・ヴォーンと組んだ人気シリーズ『キングスマン』の第3作で、『シャン・チー』以前に製作されていたが、コロナ禍により公開が延期されていた。12月24日に日本公開されるこちらも見逃せないのはもちろんだが、まずは『シャン・チー』の超絶アクションに触れて、アランの凄い仕事を堪能してみては。

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