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【ネタバレ】映画『スラムダンク』は何がすごいのか?

『THE FIRST SLAM DUNK』
『THE FIRST SLAM DUNK』 - (C) I.T.PLANNING,INC. (C) 2022 THE FIRST SLAM DUNK Film Partners

 12月3日に公開され、爆発的なヒットを記録している映画『THE FIRST SLAM DUNK』。公開16日間の累計成績は観客動員数281万人、興行収入41億8,900万円をあげ、週末興行ランキングでも登場週から3週連続でトップとなっている(12月19日発表の興行通信社調べ)。約26年前の1996年に連載終了した漫画のアニメ化作品がこれほどヒットしたのは、根強いファンを持つ原作人気の高さはもちろんだが、映画の出来が期待以上の仕上がりだったことにほかならない。原作ファンも、原作未読の人も、共に“初めて”の驚きや興奮に満ちた作品だったようだ。(※一部ネタバレあり。文:天本伸一郎)

 映画の内容に関する情報がほとんど明かされなかったため、公開前にはかつて放送されていたテレビアニメ版から変更された声優陣や3DCGの映像などにネット上で不安や不満の声もみられたが、公開後は観客の好評の声で埋め尽くされ、公開初日2日間で動員84万7,000人、興収12億9,600万円をあげるスタートダッシュを見せた。以降も順調に客足を伸ばし、原作ファン以外にもSNSなどでの評判の高さに興味を持って観た人も多いようだし、映画に感動した原作ファンが同じファンの友人などに積極的に薦めている様子なども見受けられる。

原作者自ら監督を務めた映像のクオリティー

 映画を観てまず驚かされるのが、映像のクオリティー。今回の映画は原作者の井上雄彦自身が初めて監督を務めているが、その漫画家として日本屈指の画力を誇る井上の絵そのものが動いているかのようなのだ。SNSや公式の感想投函サイトなどでも、同種の声は多い。井上ほどの画力のある漫画やイラストの絵が、淡いトーンで紙の上に描かれた感覚で、その繊細な描線やタッチも活かされたまま長編CGアニメ化された映像は、手描き風に仕上げたセルルックCGアニメやCGと手描きを組み合わせたハイブリッドアニメとも全く異なる印象で、原作ファンかどうかに関係なく、これまでにないすごいものを見たという驚きや感動があるはずだ。声優の声も、最初は脳内の旧アニメ版との違いに戸惑いがあっても、観ているうちに気にならなくなったという声が多い。

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 バスケシーンの映像は特に圧巻で、モーションキャプチャを駆使した3DCGに細かな調整やレタッチを徹底的に行い、実際の試合を見ているかのような臨場感を再現している。アニメ的な誇張を避けたリアリティのある動きを目指しつつ、キャラクターに血を通わせるため井上自身が画面の隅々の細部にまでこだわって絵の修正指示を行い、3DCG特有の無機質な質感を抑えた、井上の絵の表現をそのリアリティや躍動感と共にアニメ化してみせている。当時の製作状況的には平均的なものだったとはいえ、かつてのテレビアニメ版のクオリティーに満足できなかった原作ファンにも、今回は間違いなく本当に見たかった「SLAM DUNK」の映像化だという感動がある。この実現には、具体的な企画立ち上げから約13年、井上が企画を了承してから約8年、実作業がスタートしてから約4年ほどという途方もない時間の中、多数のスタッフの労力がかかっており、その制作過程の一端は、特設サイト「COURT SIDE」に掲載のスタッフインタビューで知ることができる。

~以下より物語の内容に触れています~

原作未読でも楽しめるアレンジ

 そして、もちろん物語にも驚かされた。徹底的に伏せられていた物語は、原作で描かれた最後の試合となるインターハイの湘北高校VS山王工業高校の試合を描いたものだった。それも、原作とは視点を変えて、桜木花道ではなく宮城リョータを主人公としており、原作では描かれていなかった宮城のバックボーンが初めて明かされる。物語の大筋は同じだが、今回の映画ならではのテーマに基づいて1本の映画としてまとめるため、原作から外された要素も多々ある一方、新たな要素も数多く、原作ファンも新鮮に見られるはずだ。また、試合中に宮城だけでなく他の湘北メンバーの過去も点描されるため、原作未読の人にもキャラクターがわかるし、原作ファンには名場面集のような嬉しさがある。山王側のキャラクターは原作ほどには描かれていないが、常勝の強豪校で圧倒的な実力を持つことはわかるようになっているため、原作未読の方は湘北側に感情移入しつつ、どちらが勝つのかわからないハラハラドキドキの展開を楽しめるだろう。

原作の続編を望むファンへの一つの回答

 2003年に最初の企画提案を受け、2009年から具体的な映画化企画を何度も提案されながら断り続けていた井上が、2014年に映画化企画を了承したのは、5年にわたってビデオメッセージやパイロット版を何度も制作して送ってきたプロデューサーの熱意に動かされたことと、不可能だと思っていた自身の理想に近い映像化の実現に希望を感じたことが直接的な理由のようだが、根底にあったのは読者に喜んでもらうためだったそう。1996年の連載当時、人気絶頂の中での終了は読者に衝撃を与えた。作品として素晴らしい結末だったし、この結末だからこそ伝説となったが、良くも悪くも予測を裏切る結末や人気漫画の定石とは違う終了だったからだ。人気の高さゆえではあるが、唐突に感じたり、作者が構想を急に変えた結末だったと感じた読者も少なくなかった。そのため、井上としては構想通りの結末だったことを度々答えており、読者への感謝を伝える独自イベントも行ってきたが、続編を読みたいという声はいまだに根強い。それに応えられていないことや読者を最後に傷つけたかもしれないといったことがずっと気にかかっていて、読者に喜んでもらいたかったことを、井上は「THE FIRST SLAMDUMK re:SOURCE」(集英社刊)のインタビューで語っている。そのための一つの回答が、今回の映画を自らが責任をもって作り上げることだったようだ。

 映画では続編を描いたわけではないが、今の井上が描きたいことがアップデートされた、知っているけれど知らない『SLAM DUNK』となり、最高の新作を作ったといっても過言ではない。また、未読の人が原作を読んでみたい衝動に駆られる作品にもなっているだろう。井上自身が名付けたタイトルの「THE FIRST」にはさまざまな意味が含まれているそうだが、「THE SECOND」は想定されていない気がする。しかし、井上は今回の映画で想像以上の産みの苦しみを味わいつつも、得たものも大きかったようだし、自身の公式サイトではキャラクターが自分の中で生き続けているともつづっているため、もしかしたらまた続きが……と期待するところもなくはないが、それはまた別の話。とにもかくにも今回の映画は、原作ファンも未読の方も、共に驚きと感動を得られる作品となっているはずだ。

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