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スーパー戦隊50周年 「ゴジュウジャー」音楽・沢田完、作曲家としての転機と劇伴制作の流儀

「ゴジュウジャー」の音楽を手がける作曲家・沢田完
「ゴジュウジャー」の音楽を手がける作曲家・沢田完

 今年50周年を迎えたスーパー戦隊シリーズでは、1作目「秘密戦隊ゴレンジャー」を手がけたレジェンド・渡辺宙明を筆頭に数々の音楽家が参画してきたが、最新作「ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー」では、第二期「ドラえもん」やドラマ「ドクターX~外科医・大門未知子~」も話題となったベテランの沢田完が起用された。同作で初のスーパー戦隊シリーズ音楽を手がける沢田がインタビューに応じ、作曲家としての歩み、「ゴジュウジャー」の音楽を手掛ける上での取り組みについて語った。

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師・池野成との出会いと伊福部昭

 母がピアノ教室、父が役者の家に生まれた沢田は、自身の幼少期について「最初は父の影響で映画監督や脚本家になりたいと思っていました。父の仕事柄、家には脚本が転がっていたので、よく読んでいて、その一方で、ピアノも習っていました」と振り返る。

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 その後、沢田が高校一年生の頃に、作曲を志す転機が訪れる。「レナード・バーンスタイン指揮のイスラエル・フィルハーモニー管弦楽団の来日公演を聴きに行く機会がありました」と名前を挙げたレナード・バーンスタインは、映画『ウエスト・サイド物語』の作曲家としても広く知られている。「そこで聴いた『シンフォニックダンス』(※『ウエスト・サイド物語』の音楽を演奏会用組曲としたもの)に興奮しまして、自分で書いたスコアを自分で指揮して、こんなにもお客さんを喜ばせるとは、なんてすごい仕事があるんだろうと。それこそ落雷に打たれるかのような衝撃を受けました」

 一念発起した沢田は東京音楽大学へと進学。そこで作曲家の池野成に師事することとなる。池野は、かつは映画音楽の作曲家として活躍しており、吉村公三郎川島雄三山本薩夫ら日本映画黄金時代に多くの巨匠とコンビを組んだ他、特撮ファンには、東宝の『電送人間』、大映の『妖怪大戦争』の音楽も高い人気を誇る。当時の池野は、東京音大で管弦楽法の講師を務めていたが、その出会いにもちょっとしたエピソードがある。

 「兄が東京藝術大学の彫刻科で、高校生の頃、藝大の学祭に遊びに行ったことがあるんです。そこで現代音楽の発表会も行われていて、偶然、聴こえてきたのが『エヴォケイション』という池野先生の作品だったんです」。池野は寡作ながらも優れた純音楽作品(※演奏会用音楽)も遺しており、マリンバソロに6本のトロンボーンと打楽器群が生み出す本作の爆発的なエネルギーに興奮を隠しきれなかったという。

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 「てっきり外国の作曲家か、(当時在学していた)学生さんの曲か何かだと思っていたんです。後でこの曲が当時すでにベテランだった池野先生の曲だと知ってとても驚き、入学して真っ先に会いに行いきました」

編曲家から作曲家へ 自身のルーツを語る沢田完

 2004年に没した池野だが、在学当時について「『シンフォニックダンス』の影響で、オーケストラを書く作家になりたいと思っていたところでの管弦楽法の授業でしたが、オーケストレーションの勉強は割と地味なんです。それこそ倍音の数値の計算だったり、音響学の話だったり。むしろ数学的な話が多くて、8割くらいの学生が来なくなってしまうのですが、とても博識で本当に素晴らしい方でした」と讃える。

 池野は、『ゴジラ』の音楽で有名な作曲家・伊福部昭が信頼を置く高弟のひとりでもあり、沢田の在学当時、東京音大の学長の要職にあったのが他ならぬ伊福部であった。

 「僕は伊福部門下ではありませんでしたが、同じく伊福部門下の三木稔先生も音大で教えていらして、皆さんにとても良くしていただきました。『沢田さんもご一緒に』と誘っていただき、伊福部先生や門下の方々とお茶やご飯をご一緒させていただいた思い出もあります。伊福部先生はとても求心力のある方で、ワグネリアン(※リヒャルト・ワーグナーの熱烈なファンを表す言葉)ではないけど、当時、“イフクビズム”なんて言われていたくらい多くの人が伊福部先生に傾倒していて、それくらい影響力の大きな方でした」

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 そうした歓談の中、映画音楽については、あまり話を聞く機会はなかったとのことで、「当時は映像音楽を志していたわけじゃなかったので、池野先生にしても、今思うともっといろいろな話を聞いておけば良かった」と振り返るが、ある時、伊福部から『ゴジラ』についての話題が出たことがあったという。「特技監督の円谷英二さんとは『ゴジラ』の前から親しかったらしく、まず『円谷くん』と呼んでいたのに驚きました(笑)。円谷さんは戦後の一時期、不遇をかこっていた時代があったそうで、伊福部先生が映画音楽の仕事で京都に行った際に、呑み屋でバッタリ出会った円谷くんにおごらされた、なんて話をされていたのを覚えています。諸先輩方によれば、以前は『ゴジラ』の話題が出ると困惑されていたそうですが、僕の頃にはかなりお年を召されていたし、当時を懐かしく思われていたところもあったみたいです」

編曲家から作曲家へ

 沢田が在学していた東京音大の作曲科には「映画・放送音楽コース」(※現ミュージック・メディアコース)も存在するが、自身が専攻していたのは「芸術音楽コース」。いわゆる現代音楽を志す学生を育成するコースであった。そんな中、作曲家・指揮者の山本直純との出会いが、現在の仕事に向かうひとつの転機となった。

 「学生時代にちょっとしたきっかけで山本直純先生のアシスタントをさせてもらう機会がありました。直純先生は映画『男はつらいよ』シリーズをはじめ、映画音楽でも知られていますが、劇伴のアシスタントは一回くらい経験しただけで、大半は指揮者としても活動されていた直純先生のコンサート用の編曲でした。それをきっかけにイベントやコンサートなどいろいろなところから声がかかり、オーケストレーションの仕事に携わることとなりました」

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 以降、10年近く編曲家としての仕事が続くが、やがてもう一つの転機が訪れる。

 「作曲家の渡辺俊幸さんから頼まれて、『モスラ2 海底の大決戦』のオーケストラスコアを書いたんです。その時にいた音楽プロデューサーが『彼に劇伴を書かせてみたら?』と言ってくださったみたいで、そこからオーケストラで書く劇伴の仕事が来るようになりました」と語り、「短編映画『ピカチュウたんけんたい』で、たなかひろかずさんと分担して作曲したのと、『ドラえもんのび太の南海大冒険』で、これも(中村暢之さんと)分担しつつ、オーケストレーションしながら、作曲に近いこともやりました」とこの2作を実質的なデビュー作として挙げた。

 以後は、劇伴作曲家として、さまざまなジャンルで活躍して現在に至るわけだが、沢田自身は編曲家から作曲家への転向については特に自覚してないという。「もともと劇伴作曲家を志していたわけではなかったし、自分がこの仕事に向いているとは思ったことがないんです。皆さん『いい』と言ってくださるから続いているだけで、仮に機会がなくても、そのままオーケストレーションの仕事が好きだから続けていたかもしれない。だから、今の若い作家志望の方から相談を受けても、答えられないんです」と自身のスタンスを語る。

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目指すのは映像と音楽の相乗効果

「ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー Music Collection vol.1」パッケージ

 スーパー戦隊シリーズの音楽を手掛けるのは、もちろん「ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー」が初めて。依頼を受けた際の印象は「とにかく驚いた」であった。

 「日本コロムビアさんとは『ドラえもん』でお付き合いがありますが、(スーパー)戦隊担当の穴井健太郎さん(※日本コロムビアの音楽プロデューサー)とは、それまでご縁がなかったんです。それがある日突然、穴井さんからメールをいいただき、最初は『山下(康介)くん辺りとアドレスを間違えて送ってんじゃないの?』と、思わずメールを2~3度見直したほどでした。いや、驚きましたねぇ」と当時の様子を興奮気味に語る。

 本作は「スーパー戦隊シリーズ50周年記念作品」を大々的に打ち出しているが、企画概要を聞いた沢田は、何より「ゴジュウジャー」としてのコンセプトに大きくひかれた。「スーパー戦隊の元祖『ゴレンジャー』は石ノ森章太郎先生の原作でしたが、石ノ森作品は『仮面ライダー』を例に挙げるまでもなく孤独なヒーローでしょう。今回は5人で力を合わせるよりも、孤独な5人がナンバーワンを目指す物語だと聞いて、すごく感激しました。僕は『サイボーグ009』も好きだったし、何よりそういう企画に関われたことが嬉しかったです」と喜びを露わにした。

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 テレビドラマの場合、作曲する時点では映像は出来上がっていない。作曲家は企画書や脚本、或いはデザイン画、また打ち合わせを通じて得た情報と限られた中で作曲することとなる。そんな中、指針となるのが「メニュー表」と呼ばれる劇中で必要な音楽を一覧化したリストであり、沢田はそこに含まれる大事な要素として「タイトル」と「曲調」と「テンポ」の三つを挙げる。

 「選曲家の宮葉勝行さんが作られたメニュー表がとにかくよくできているんです。普通は『戦い1』『戦い2』『戦い3』みたいな箇条書きがほとんどですが、なんと1曲毎にメニュー用のタイトルが付いていて、まず、それだけでどんな音楽を欲しているか分かります。もちろん、僕もキャリアを積んでいるから、どんな書き方でもだいたい分かりますが、たとえばテクノでいくのか、ロックでいくのか、オーケストラでいくのか迷ったりするところ、タイトルがあると一発で絞れるんです。それからスロー、ミドル、アップといったテンポの指定、そして、もちろん曲調についても曲毎に詳しく書かれています」

 また「映像音楽の場合、激し過ぎずセリフを聴かせるとか、効果音を優先するとか、音楽以外の音の問題もあるわけです」と述べ、そうした場合にもこの三つの要素が大事だと言い、「『ゴジュウジャー』では全く迷うことなく作曲することができました。これは他の番組も参考にしたほうがいい。本当に宮葉さんのメニューは素晴らしくよくできています」と手放しで絶賛する。

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 また映画とは異なり、テレビドラマでは、放送に先駆けて、まとめて音楽を録音し、そこから各話について監督の意向を汲みつつ、選曲家が音楽を付けていく「溜め録り選曲方式」というスタイルが採られているが、特にスーパー戦隊シリーズでは、第1回録音で約70曲が必要となり、これは業界でも屈指の分量とされる。

 「曲数に対しての恐怖はありますよね。限られたスケジュールの中、1日に3~4曲のペースで書いていくこともザラですが、仮に風邪をひいて3日間寝込んでしまったら10曲書けなくなってしまうことになります。当然、そのしわ寄せがどこかでくるわけで、最後の数曲まで気が気じゃない」と自身の経験を語るが、短期間で膨大な曲を仕上げる秘訣として「曲数が多い場合は、薄い曲から書くようにしています。たとえば白い音符が続くような不穏な曲とかです。そういった比較的地味な曲は、どうしても最後に残しがちで、シンセでパッと弾くだけで成立するはするんです。だけど、やっぱり薄い曲を丁寧に作ることで、作品全体が上質な雰囲気になると思うんです。後は10秒とか短いブリッジなんかもそうですね。そういった曲を最初のほうに気合を入れて作り、メインどころは作業の中盤から作り始めることが多いです」。本作では約70曲をおよそ2か月の期間で書きあげた。

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 現在放送中の本作については、「多様化が叫ばれている時代に『ナンバーワン』を目指すという、かなり尖った姿勢で番組を作っていて、今はその船に乗ってしまったわけですが(笑)、自分は基本、オーケストラを書く人間で、今回はトロンボーンが5本、チューバも入ってますし、編成が大きいのが本当に嬉しくて、思う存分書くことができました。また追加録音や、先日発表された映画の音楽も担当することが決まっていて、自分自身、音楽を通じて『ゴジュウジャー』のイメージを膨らませていくのを楽しみにしています」と意気込む。本作の劇伴については、配信サウンドトラック「ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー Music Collection vol.1」にて聴くことができるが、「オンエアを観ていても余すところなく、使ってくださっていて、音楽を聴けばいろいろなシーンを思い出してもらえると思うし、曲を聴いてまた作品を観返してみたり、いい形での相乗効果になれば嬉しいです」とアピールした。(取材・文:トヨタトモヒサ)

「ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー」

最高最強のナンバーワンを目指し、子どもたちに圧倒的な人気を誇る動物や恐竜=獣(けもの・ジュウ)をモチーフにした5人のヒーローが活躍する物語。脚本は「仮面ライダーガッチャード」の井上亜樹子、演出は「仮面ライダーガッチャード」「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」などの田崎竜太が担当する。

「ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー」テレビ朝日系にて毎週日曜午前9時30分~放送中

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