ADVERTISEMENT

渡辺謙、山崎努ら先輩たちからのバトンパス「教えから選択したものが血となり、形になる」

渡辺謙
渡辺謙 - 写真:杉映貴子

 プロ棋士界に彗星の如く現れた天才棋士・上条桂介は、何ゆえ“ある殺人”の容疑者になったのか--。映画『孤狼の血』『朽ちないサクラ』などの原作者としても知られる柚月裕子による同名小説を映画化した『盤上の向日葵』(公開中)で、主人公・桂介(坂口健太郎)の運命を大きく変える伝説の真剣師・東明重慶を、渡辺謙(66)がカリスマ性たっぷりに演じている。真剣師とは、賭け将棋で生計を立てる者のこと。“将棋指しとしては一流だが、人間としては最低”な東明を演じた渡辺が、その業の深い人物像について、そして初共演となる坂口と対峙し、感じたことについて語った。

渡辺謙、カッコ良すぎる撮りおろし<8枚>

 物語は山中で謎の白骨死体が発見されるところから幕を開け、捜査線上に浮かび上がったのがアマチュアから異例の昇進を遂げプロになった天才棋士・上条桂介。桂介は、幼少期に夢中になった将棋の駒の音に誘われフラリと入った町の将棋クラブで、裏社会で生きてきた東明に遭遇する。闇の中から現れ、「命を張った真剣勝負、見たくねえのかって聞いてんだよ」と桂介を誘惑する強烈なシーンを、「あれは、『必殺』シリーズを手掛けて来た松竹京都撮影所の撮影や照明のスタッフたちが作ってくれたもの。“暗闇の中から忽然と現れる正体不明の男”を僕が作り出したわけじゃない。彼らが作ってくれたものに、僕が“全ていただきました”と乗っただけ」とニヤリ。

ADVERTISEMENT

 そして、「こんなにいい加減で一貫性がなく、人のことを何とも思っていないような男を演じたのは本当に久々。だから、とにかく楽しくてね」と振り返る。「東明は社会と少し隔絶した世界にいる、こいつに何を着せたらいいかな。“風が吹くと東明が現れる”イメージがあるから、風を感じられるような素材感の衣装にしようか、などと衣装スタッフと一緒に面白がって選びました」と、東明になりゆく過程を明かす。

映画『盤上の向日葵』より渡辺謙演じる東明重慶(C) 2025映画「盤上の向日葵」製作委員会

 人として最低な東明に、けれど我々観客がどこか魅せられるのは、“将棋に取り憑かれている”とも言うべき鬼気迫る佇まいに美学を感じるからだろうか。そう問うと、渡辺は「いや、東明に美学なんて何もない。彼はただ勝負に勝って、現ナマを手にすればいいだけだから。ただ“将棋が好き”という、その一点に関してだけは嘘がない。“将棋のためだけに俺は今、生きているんだ”という思いが、同じ立ち位置として桂介と向き合える関係になる。お互いにね」と二人の関係を言い表す。

ADVERTISEMENT

 そんな二人の将棋への向き合い方について、「例えば『国宝』では主人公(吉沢亮)の“他には何にもいらない。ただ芸のためだけに命をかける”という点が心を打ちましたよね。この二人も結局は“将棋を指す”ことだけが自分の魂を揺さぶるもので、それに命をかけている。そこは同じようなことかなと思います」と、渡辺の熱演も印象深い国民的大ヒット作を例に挙げる。なるほど立場も対象も違えど、何かに“その身を捧げる鬼気迫る生きざま”は、同様に我々を圧倒してやまない。

 渡辺は、共演する若手俳優に慕われ、導く存在でもある。本作の主演・坂口をはじめ、NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(放送中)では宮沢氷魚が、少し遡り同じく大河ドラマ「西郷どん」(2018)では鈴木亮平が、渡辺から学びを得たと公言している。それに対して渡辺は、「僕自身が先輩から貰ったことがたくさんあるから。役に立つかどうかは別として、多少なりとも何かのヒントになることを、バトンパスとまでは言わないまでも継いでいければ」と思いを明かす。

 「山崎努(※崎=たつさき)さんからは僕の劇団時代の頃に始まり、映画『タンポポ』(1985)や舞台『ピサロ』(1985)も一緒にやらせていただいて。それこそ作品へのアプローチの仕方から、本当に多くのことを学びました」と思いを馳せる。さらに「北大路欣也さんや原田芳雄さんなど、綺羅星の如く数々の先輩方とご一緒しましたが、それぞれアプローチも違えば作品に対する考え方も、目指す役者像も違う。いろんな方からいろんなものを教えられ、受け入れて、その中から僕自身が選択したものが血となり、やがて形になる」

ADVERTISEMENT

 そうした、かつて先輩方から与えられて来たことをふまえ、「手取り足取り教えても身につかない。だから正解を与えるのではなく、“こんなやり方も面白いんじゃない?”とヒントにとどめておく。役者はロジックだけで成立する仕事ではなく、感覚的なことがたくさんある。自分が腑に落ちるような解を見つけられれば」とも語る。

天才棋士・上条桂介(坂口健太郎)との複雑な関係が見もの

 本作における坂口との共同作業については、「彼はとてもオープンマインド。自分が開かなければ、周りも心を開かないとよく知っている。だから立場や上下関係にとらわれず、全員が楽しく撮影が進むようにしていましたね。そんな彼にアドバイスをすることはあまりなかったけれど、ただ本作の根幹にかかわる重要なシーンに関しては、共演者として相談しながら作り上げました」という。

 それはクライマックスのとあるシーンでのこと。「原作より少し柔らかいニュアンスになってはいますが、僕は原作の柚月裕子さんらしい“エグさ”をもう少し映画に残したかった。それで、“命や血を感じる、触覚や皮膚感を残す”ために、桂介に対して“ある行為”をしたいと、現場で坂口君と監督に相談して変えたんです」と明かす。その鬼気迫るシーンは、強烈な印象を観客の胸に刻むはずだ。

ADVERTISEMENT
2025年は大河ドラマに映画『国宝』など目まぐるしい年に… 写真:杉映貴子

 最後に、歴史的ヒット作『国宝』や、大河ドラマ「べらぼう」など話題が絶えなかった快挙の1年について「昨年から今年にかけて、ちょっと頑張りましたね(笑)。先日、大河の撮影もようやく終わったので、久しぶりに2か月近くゆっくり休みました」と充実した表情を見せる。とはいえ「特に『国宝』に関しては、あんなムーブメントになるとは実は誰も思っていなかった。だけど、僕たちからしたらいつもの作業とやったことは変わりないので一喜一憂はしていません。“大きく育ったね”と親戚の子を見るような感覚です」とサラリと笑う。

 今後については「少しいろんな作品が世に出る時期が重なったので、上手く潜伏期間に入りたいなと思っています。世知辛い世の中なので、あまり出続けていると飽きられちゃうから。上手に潜伏期間を設けながら、今後また皆さんに“おっ!”と驚いていただける作品に参加していきたいです」と話す。と言いつつ、現在、三谷幸喜脚本のフジテレビ系ドラマ「もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう」(声の出演)が放送中、来年は柄本佑と初共演する時代劇『木挽町のあだ討ち』(2月27日公開)を控えており、まだまだ多忙な日々が続きそうだ。(取材・文:折田千鶴子)

映画館で上映中の最新映画がお得に楽しめるキャンペーン実施中!|U-NEXT

※このリンクにはアフィリエイトタグが含まれており、リンク先での会員登録や購入などでの収益化を行う場合があります。

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • ツイート
  • シェア
ADVERTISEMENT