アカデミー賞が世界で一番有名な映画賞である理由とは

アディー・明美・トスト(全米映画協会公認フォト・ジャーナリスト) インタビュー

取材・文:シネマトゥデイ編集部 天本伸一郎

──日本時間3月3日(現地時間で3月2日)に授賞式が開催されるアメリカの第86回アカデミー賞。世界一有名な映画賞ではあるが、意外に知られていないことも多い。そこで、ロサンゼルス在住の全米映画協会公認フォト・ジャーナリストであるアディー・明美・トストさんに、そもそもアカデミー賞とはどんな賞なのかを伺った。

「アメリカの映画芸術科学アカデミー(Academy of Motion Picture Arts and Sciences 略称AMPAS)が主催する映画賞で、対象となる年に優れた作品や優秀な働きをしたキャストとスタッフを表彰し、その業績をたたえるものです。原則として授賞式前年の1年間に、上映の場所や期間(ロサンゼルス郡で連続して7日間以上有料上映)、また上映時間(短編賞などを除き主に40分以上)などのノミネート条件を満たした作品が選考対象となります。選考するのは約6000人の映画芸術科学アカデミー会員で、歴代の受賞者たちと、アカデミー会員や業界の有力者から推薦を受けたより抜きの映画関係者たちで構成されています。アカデミー会員は職種で部門ごとに分かれており、部門別に無記名投票で行います。ただ作品賞だけは、候補も本選もアカデミー会員全体による無記名投票で選出されます」

──そんなハリウッドの映画関係者たちによって選考されるアカデミー賞であるが、受賞予想の際には先に開催発表された映画賞の結果に左右されることも多い、という。アカデミー賞の前哨戦と称されるそれらの映画賞には、どんなものがあるのだろう。

「主なものとして、ゴールデン・グローブ賞、全米映画俳優組合(SAG)賞、全米製作者組合(PGA)賞、英国アカデミー賞などがあります。例えば、PGA賞の最優秀作品賞を受賞した昨年までの過去24作品のうち、17作品がアカデミー賞でも作品賞を取っており、さらにここ6年続けて同じ結果になっていることなどからも、受賞の確率やその傾向を見ることはできます。とはいえ、しょせんアカデミー賞の決定は生身の人間が決めるものなので、当日フタを開けてみなければわからないドキドキさせる部分が多いのです」

──では、それらの映画賞との決定的な違いとは?

「第1回の1929年から数えて今年2014年で86回目を迎えるアカデミー賞は、現存する賞の中では世界で最古参に近い歴史と権威をもち、アメリカの映画賞というよりは世界の映画賞と言っても過言ではありません。アカデミー賞を受賞すると、他の映画賞とは比べものにならないほど、受賞者や作品の“ブランド”価値が上がり、仕事の報酬(ギャランティ)や興行収入も急上昇すると言われています。映画市場への影響力は他のどの映画賞よりも大きく、アメリカ国内のみならず世界各国の興行成績にも波及していくのです」

──アカデミー賞が世界で一番有名な映画賞である理由には、やはりその経済効果の圧倒的な差にあるようだ。そのため、各映画スタジオはアカデミー賞必勝戦略を立て、大金をかけたPR作戦を繰り広げるという。

「例えば、映画会社ミラマックスの創立者のひとりであるハーヴェイ・ワインスタインは、自社で手掛けた映画やその出演俳優がノミネートされるや、贅を尽くした豪華なパーティーに関係者たちを招いて、候補作品や候補者をアピールするなど、パワフルな根回しキングとしてハリウッドで目立つ存在です。また、1月末に開かれたグラミー賞授賞式に、ジュリア・ロバーツやジャレッド・レトーらの俳優がプレゼンターとして登場したのもPR作戦の一環で、各スタジオはあらゆる手段を駆使してアピール合戦を繰り広げています」

──誰もが喉から手が出るほど欲しい賞であることは間違いないが、受賞に伴うプレッシャーはないのだろうか。

「アカデミー賞を取るとその後、良い仕事が入らなくなるといったジンクスもありますね。例えば、『チョコレート』で主演女優賞を取ったハル・ベリーが、キャリアのみならず離婚など私生活までも停滞気味になったことや、エイドリアン・ブロディが『戦場のピアニスト』で主演男優賞を取った後、すっかりマイナーになってしまったことなどが挙げられます。もちろん、メリル・ストリープやトム・ハンクスなどのように、受賞後も大活躍しているベテランたちもたくさんいますから、最終的には受賞を活かすも殺すも本人次第でしょうが」

──アカデミー賞にまつわる悲喜こもごものドラマの多さも、その影響力の大きさゆえと言えるだろう。ちなみに、受賞者に渡されるオスカー像は賞の俗称としても使われているが、この名前の由来にもこんな逸話があるのだそうだ。

「アカデミー賞受賞者が受け取るトロフィーともいえる金色に輝く彫像は、当時メトロ・ゴールドウィン・メイヤー社(MGM)の美術監督だったセドリック・ギボンズ氏によってデザインされました。この像がなぜオスカーと呼ばれるようになったかについては諸説あるのですが、一番よく知られているのは、賞が始まって数年たった頃、事務局で働いていたマーガレット・ヘリックという女性が発端になったという説。彼女は事務局に届いた彫像を見て、『私のおじさんのオスカーにそっくりだわ!』と言ったことから、像のニックネームになり、それが定着していったという話があるんですよ」

プロフィール:

アディー・明美・トスト(Addie Akemi Tosto) / 高校よりロサンゼルス在住、映像製作助手を経て現在に至る。全米映画協会(MPAA)公認ライターとして活躍するだけでなく、監督を務めた短編映画『ボクが人間だったとき/ When I Was a Human』が、アカデミー賞公認配給会社ショーツ・インターナショナル配給にて、全米の衛星チャンネルで放映中。ツイッターもよろしく!→@akemi_k_tosto