『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』レイフ・ファインズ監督 単独インタビュー

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レイフ・ファインズ

ソ連生まれの伝説のバレエダンサー、ルドルフ・ヌレエフが23歳で亡命するまでの激動の半生を、映画『イングリッシュ・ペイシェント』や『シンドラーのリスト』の名優にして、監督としても確固たる評価を得ているレイフ・ファインズが映画化。現役プリンシパルのオレグ・イヴェンコがエネルギーの塊のようなヌレエフを表現し、レイフはヌレエフの師プーシキン役で流ちょうなロシア語も披露している。来日時にインタビューに応じたレイフが、20年にわたって映画化を夢見てきたという本作について青い目をきらめかせながら語った。(取材・文:編集部・市川遥 写真:日吉永遠)

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描きたかったのは“若さの中にある渇望”

レイフ・ファインズ

Q:ルドルフ・ヌレエフの伝記を読んで以来、彼の映画を作りたいと思ってきたそうですね。

伝記を読んだのは約20年前だ。それ以来ずっと「誰かがこの映画を作るべきだ」と思い続けてきた。その時は自分が監督するようになるなんて思わなかったが(笑)。そして、2本の映画を一緒に作ったプロデューサーのガブリエル・ターナがある時、これをやるか僕に決断するように迫ってきた。ありがたかったよ。なぜなら彼女は僕に選択権があると言った。それで僕は「他の人には監督させたくない」と思ったんだ。「他の人にさせないで! 僕がやる!」と(笑)。モチベーションを上げるのにいいやり方だったね。

Q:彼の何に一番惹かれたのですか?

ホワイト・クロウ 伝説のダンサー
(C) 2019 BRITISH BROADCASTING CORPORATION AND MAGNOLIA MAE FILMS

僕が惹かれたのは、“彼の人生”ではなく“彼の若さ”。不確かではあるが自分の可能性を追求したいという若者の欲望、若さの中にある渇望というものに、感動させられた。成功した後の彼の人生は、僕にとっては特別興味深いものではなかった。だから、本作は空港での亡命までを描いた。ヌレエフの友人であるクララ(アデル・エグザルコプロス)は、彼に「どうしたいか言わないといけない」と言い、彼は「自由になりたい」と答える。とてもシンプルなセリフだとはわかっているが、これが本質なんだ。踊る自由、“自分がなる必要のある人間”になる自由……。彼がこのセリフを言うまでに、観客はそれが「なぜ」なのか理解してくれていたらと思うよ。彼は大きな魂を持っていて、人々は彼の気性について行けない時もある。彼はとても無礼にも成り得たから。でも、それが彼だ。「自分自身になるための自由が必要」というセリフは人間に欠くことのできないものを表しているし、全ての人に訴え掛けるものだと思う。

この映画で言おうとしていることは、そうするためには犠牲も払わないといけないということ。彼は故郷を失い、母が死の淵に立つまで彼女と会えない。僕たちが下す決断には、犠牲がつきものだ。人間にとっての大きな問いがこの中にはあるのだと思う。彼はたまたま有名なアーティストだったわけだが、底辺に流れているのは「わたしは誰なのか?」「わたしはこうした選択をする勇気を持っているのか?」という問い掛けだ。

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過去と現在を自在に行き来する脚本の秘密

レイフ・ファインズ

Q:本作ではヌレエフのパリでのツアーと、故郷ロシアで頭角を現した頃、そして子供時代という、彼の人生における三つの段階が混ぜ合わせるように描かれています。なぜこの構成にすることにしたのですか?

僕は脚本家のデヴィッド・ヘアのことをとてもよく知っているから(※二人は『愛を読むひと』や数々の劇で組んでいる)、彼にこの物語に興味がないかと尋ねてみた。僕は「伝記映画にはしたくない。亡命の瞬間までの少年の若さについての物語にしたい」と言い、彼がこのアプローチを気に入ることはわかっていた。だが、彼はパリの世界に惹かれたんだ。若い頃、彼はヌーヴェルヴァーグが映画界で起こっている頃に育ったから。だから彼にとっては、若きヌレエフが1960年代の初め、フランス映画界に新たな波が来ていた頃のパリに降り立つという点に関心を持ったんだ。

それには賛成だったけど、僕は少しロシアで過ごしたことがあって、ヌレエフのロシア時代に興味を持っていた。彼はレニングラード(現在のサンクトペテルブルグ)のバレエ学校にやって来て、師であるプーシキンに出会い、彼の家に招かれ……映画で描いたこうしたことは全て事実なんだよ。東ドイツ出身の青年テヤ・クレムケ(ルイス・ホフマン)とのゲイとしての初めての恋愛があり、テヤが彼の舞台を撮影したのも事実。こうしたストーリーは僕にとって重要だった。デヴィッドに言ったのは、彼がやりたいようにやっていいが、従来のフラッシュバックのような構成にはしたくない、ということ。例えばパリのシーンがメインで、過去からのちょっとした瞬間が1~2個描かれるような。彼はそれに賛成してくれ、子供時代を入れることにも賛成してくれた。

ホワイト・クロウ 伝説のダンサー
(C) 2019 BRITISH BROADCASTING CORPORATION AND MAGNOLIA MAE FILMS

そして僕たちは、三つの時代がほとんど思いがけなく、次々と現れていくような形にした。次第にそこに構造、順番があることがわかるように、全てが空港での亡命劇につながるように。だからフラッシュバックでヌレエフの焦燥感が募っていく様子は、同時に描かれるパリでの彼の焦燥感に酷似しているんだ。どの時代をどの時代の次にするか、ふさわしいものを見つけるまで、編集にはかなり時間がかかったよ。アイデアは変わらず脚本にあった通りだが、編集のプロセスで僕たちはいろいろと変えていったんだ。

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母語以外での演技の難しさ

レイフ・ファインズ

Q:バレエのシーンにはエネルギーが満ち満ちていました。汗を流してひたすら練習に打ち込むシーンもとてもよかったです。

僕もあのシーンは気に入っている。幸運なことに、バレエのシーンはいくつか再撮影をすることができたんだ。友人に映画のラフカットを見せたら、「日々の訓練の様子が必要だと思う」と言われてね。それで再撮影の予定を立てて、バレエのリハーサル室のセットがいくつか残っていたから、窓とレッスン用のバーの一角を作って、顔、腕、脚に汗がにじむあのシーンを撮ることができた。そして、残念ながらカットしていたいくつかのフッテージを戻すことにした。ヌレエフが美術館で2人の男が組み合っている彫刻を見て、脚に触るシーンと、練習シーンを被せ、ちょっとしたモンタージュのようにしたんだ。だから、このシーンは遅い段階での思わぬ発見だったんだよ(笑)。

Q:プーシキン役でロシア語も話されています。音楽のようにきれいに聞こえましたが、ロシア語での演技には難しさも感じられたのでしょうか?

ホワイト・クロウ 伝説のダンサー
(C) 2019 BRITISH BROADCASTING CORPORATION AND MAGNOLIA MAE FILMS

ああ、難しかった。英語を話す時、僕の言葉は感情的に僕と結びついている。だがロシア語だと、僕はロシア語が好きだし、とても一生懸命やったけど、僕には“歴史”がない。わかったのは、難しい言葉でもたくさん練習することで正しく聞こえるようにすることはできるけど、自分の内側とは結びつかないということだ。やっぱり子供の頃から話している言葉とは違うから。興味深いよ。

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伝えたいものがなければ意味がない

レイフ・ファインズ

Q:プーシキンがヌレエフに「ダンスの目的」を問うシーンがあります。重要なのは「何を言いたいか」ということでしたが、俳優としてこの考えに賛成ですか?

ああ、その通りだと思う。大抵、俳優として最高の仕事というのは、自分が表現する必要があると感じるものと十分深く結びついているものだ。僕には自分が“表現する必要がある”と思うものがある。だが、キャラクターの魂を超えて、それを表現することはできない。ある役ではつながりをとても強く感じ、またある役では全く感じられなかったりする。脚本を読んで、素晴らしい役だということは理解できても、そういう風に感じられないものは演じられない。僕は何をやるか自分で選ぶことができるから、俳優としてとても幸運だと感じている。多くの俳優はただ演じられる機会を求めなくてはいけないから。

このシーンでは、プーシキンは技術のことを話している。演技と共通しているのは、とても熟達した俳優たちは何でも上手くできるが、それは内面と結びついていないかもしれないということだと思う。それは特に舞台劇で顕著で、観客には、俳優がちゃんと役を生きているか、ただフリをしているだけなのかがわかってしまう。クラシックバレエには全てが様式化されているからこその難しさがある。だからプーシキンが言ったのは、どうやってそこに感情を持たせるか、ということだ。

ホワイト・クロウ 伝説のダンサー
(C) 2019 BRITISH BROADCASTING CORPORATION AND MAGNOLIA MAE FILMS

僕は、ロシアのサンクトペテルブルクで素晴らしいものを見たんだ。映画に出てくるプーシキンが指導をしているレッスンルームは、実際にサンクトペテルブルクにあるものをまねてセットを組んだもので、その本当のレッスンルームに(脚本家の)デヴィッドと招待されたことがあった。ダンサーたちによるデモンストレーションが行われていて、たくさんの訪問者が来て椅子に座っていたんだが、その中央にとても小柄で丸っこい女性がいて、周囲の人たちから尊敬を集めているのに気付いた。最後には「何か話してもらえませんか」と頼まれていて、彼女はすごいダンサーに違いないと思ったんだ。彼女が指導として見せたバレエのジェスチャーは、とても美しかった。彼女の手を通して、思いが感じられるんだ。彼女はとても様式的なジェスチャーを通して演技をしていて、「これだ!」と思った。これが、バレエの究極の姿なのだと。

後で彼女が誰かがわかってインタビューしたんだよ。彼女の名前はタチアナ・レガート。ミハイロフスキー劇場で教えていて、本作でセルゲイ・ポルーニンが演じたユーリ・ソロヴィヨフの未亡人だ。彼女は1977年に自殺したユーリのことを話してくれた。彼女にはユーリについて確固とした見解があって、僕には彼女が今でも、ユーリを失った悲しみの中にあるように思えた。僕は決して忘れない。彼女がバレエのジェスチャーをした時のことを。偉大なダンサーが一瞬で何ができるのか、僕はそれを目撃したんだ。

 
映画『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』は5月10日よりTOHOシネマズシャンテ、シネクイント、新宿武蔵野館ほか全国公開

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