ADVERTISEMENT

間違いなしの神配信映画『ザ・レポート』Amazon Prime Video

神配信映画

押さえておきたい監督編 連載第2回(全7回)

 ここ最近ネット配信映画に名作が増えてきた。NetflixやAmazonなどのオリジナルを含め、劇場未公開映画でネット視聴できるハズレなしの鉄板映画を紹介する。今回はまだ個性やメッセージ性の強い監督の作風に注目。毎日1作品のレビューをお送りする。

CIAの屈辱的な拷問の真実とは?アダム・ドライヴァージョン・ハム豪華出演陣の社会派サスペンス

ザ・レポート
『ザ・レポート』はAmazon Prime Videoにて配信中

『ザ・レポート』Amazon Prime Video

上映時間:119分

監督:スコット・Z・バーンズ

出演:アダム・ドライヴァー、アネット・ベニング、ジョン・ハム

 911以降、CIAはテロ容疑者に対して屈辱的な拷問を行った。この報道をニュース番組で目にした時には、ドラマの「24 TWENTY FOUR」でもあるまいし「なぜそんなことが許されるのか?」と衝撃を受けたのを覚えている。キャスリン・ビグロー監督の『ゼロ・ダーク・サーティ』(2012)やマイケル・ウィンターボトム監督の『グアンタナモ、僕達が見た真実』(2006)でも赤裸々に描かれていたので、映画を通して知ったという人もいるだろう。

 相手はテロリストだから過激な方法もやむなしという考え方もあるかも知れないし、ここで拷問の是非を議論するつもりはない。ただ、映画『ザ・レポート』が描いているのが「CIAは拷問で有力な情報を一切得られなかった」という公的な事実だと知ったら、興味が湧きはしないだろうか

ADVERTISEMENT
ザ・レポート
『ザ・レポート』はAmazon Prime Videoにて配信中

 この一件に人並み外れて関心を抱いたのが、インフォーマント!』(2009)や『コンテイジョン』(2011)などスティーヴン・ソダーバーグ監督とのコラボで知られる名脚本家スコット・Z・バーンズだった。バーンズは『ザ・レポート』を自らの長編映画監督デビュー作として執筆したが、撮影間近になって資金を引き上げられ、当初予定していた予算とスケジュールの半分の削減を迫られた。本作が作られる意義に共鳴したアダム・ドライヴァーやアネット・ベニングら出演陣が、タダ同然のギャラを承諾したこともあってなんとか完成までこぎ着けることができたという。

 当初バーンズは、CIAに雇われて拷問を推進した2人の心理学者をメインに据えたブラックコメディーを構想していた。しかし、とても笑いにできるような素材ではないと思い直し、上院情報委員会の調査で拷問の実態を7年にわたって調べ続けたダン・ジョーンズに焦点を絞り、底冷えのするようなポリティカルスリラーに仕上げてみせた(ブラックコメディーの構想は、後にバーンズ脚本の『ザ・ランドロマット -パナマ文書流出-』(2019)に生かされている)。

ザ・レポート
『ザ・レポート』はAmazon Prime Videoにて配信中

 映画が始まって映し出されるタイトルは「ザ・レポート」ではなく「ザ・トーチュア(拷問)・レポート」だ。だが、すぐに「拷問」の部分がマジックペンで塗りつぶされる。この一件を隠蔽しようとしたCIAや関係者に対する強烈な皮肉だ。

 予算が半減したことと関係しているのかはわからないが、本作の特徴は、とにかくストイックを極めた演出だろう。劇中で描かれるダンの調査と同じく、映像的にも華やかな要素は一切ない。ダンは窓のないCIAの資料室にこもって、ただひたすら膨大な文書に目を通していく。ほとんどのシーンが室内の会話劇で、たまにカメラが屋外に出ることがあっても空は判を押したようにどんよりと曇っている。ダンを映す時もアップは極端に少なく、ワイドショットや横顔の多さが、ダンがあくまでも調査員であって事件の当事者ではないことを示している。

ザ・レポート
『ザ・レポート』はAmazon Prime Videoにて配信中

 しかしCIAの暴走が明らかになるに従い、カメラは次第にダンの表情へ寄っていく。演じるアダム・ドライヴァーはひたすら職務に忠実な公務員を仏頂面で演じているのだが、唾棄(だき)すべき真実への怒りがドライヴァーの目に宿り、映像もほのかに熱を帯びていく。陰謀、密告、裏切りと、スリラーに必要な要素を網羅しつつも、終始抑制を効かせた演出術はバーンズの盟友ソダーバーグに通じるが、クールでミニマムな外見とは裏腹に、マグマのような熱さを秘めた映画なのである。

 付け加えておくと、ダンの調査によって明らかになったCIAの醜聞は決して遠い国のできごとではない。CIAが「拷問」を「強化尋問テクニック」と呼んだように、都合の悪い言葉を別の表現に言い換え、詭弁(きべん)と法解釈を濫用して正当化し、問題が顕在化すると資料の改ざんや破棄、虚偽の報告を繰り返す。内容やシチュエーションは違っても、いかにもどこかで聞いたような話ではないか。プロデューサーを務めたソダーバーグが驚いたのは、そういう権力の暗部が、ちゃんと正統な手続きにのっとって議会の主導で暴かれたことだったという。なんとうらやましい驚きであることか。

 国民が政府を信頼するために、国家というシステムが手放してはいけないものは何なのか? 待ったなしの真摯なメッセージと映画としての面白さが足並みをそろえた『ザ・レポート』。文字通り「いますぐに観られるべき作品」だと思っている。(村山章)

『ザ・レポート』はAmazon Prime Videoにて配信中

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • ツイート
  • シェア
ADVERTISEMENT

おすすめ映画

ADVERTISEMENT

人気の記事

ADVERTISEMENT

話題の動画

ADVERTISEMENT

最新の映画短評

ADVERTISEMENT