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『AKIRA』はなにがすごいのか…!IMAXで蘇る傑作

(C) 1988マッシュルーム/アキラ製作委員会

 4月3日より、大友克洋監督の代表作『AKIRA』の4Kリマスターが全国のIMAXシアターで上映されます。1982年から1990年にかけて連載された大友氏による同名漫画を原作とし、連載途中の1988年に公開された本作。製作期間3年、総製作費10億円、日本の超一流のアニメスタッフを集めて製作された、日本アニメ史に残る傑作として名を残しています。海外での評価も高く、公開から30年以上経った現在でも多くの熱狂的なファンを抱える『AKIRA』の魅力とはなんなのでしょうか。

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制作費、作画枚数、あらゆるものが規格外

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『AKIRA』の凄さはまず、日本アニメとしては異例の巨額な制作費を投じ、日本中から一線級のスタッフを集めて制作された緻密な作画。大友監督は、漫画においても驚異的なデッサン力でリアル志向の画を追求しましたが、その自身の画をアニメでも再現することを求め、動きもとことんリアルにこだわったのです。

 『AKIRA』の作画は、「2コマ打ち」を基本として製作されています。「コマ打ち」とは、1秒間24フレームの中で、同じフレームを何コマ表示するのかを示したもの。日本の一般的なアニメは、基本的に「3コマ打ち」が描かれることが多いのですが、これは同じ画を3フレームに渡って使っているということを示しています。

 同じ画が続くフレームが多ければ多いほど動きは制限され、少なければ少ないほどなめらかな動きを描けるわけですが、それだけ描かなければならない画の枚数は増えることになります。大友監督は、よりリアルな動きを追求するため「2コマ打ち」に挑戦し、人体の細かな動作を再現し、動きによって感情を表現しているのです。結果として、作画枚数が約15万枚と破格の作画枚数となりました。 (注:3コマ打ちが必ずしもなめらかな動きを作れないわけではなく、今日ではコマ打ちの枚数それぞれの特性が生かされ、様々なアニメで自然に見える動きが追求されています。また一つのアニメ作品の中でシーンによって様々な効果を狙ってコマ打ちの数を変えることもあります。)

 『AKIRA』の動きの緻密さが端的に見て取れるのはキャラクターの口の動き。一般的な日本のアニメでは、口の形は3種類程度ですが、本作では人間の口の動きをリアルに再現するため7種類に描き分けられており、セリフとのリップシンクも精密に作られているのです。また声優の声の芝居を先に収録し、その芝居に合わせて作画してゆく「プレスコ」方式を採用したことも日本のアニメとしては珍しいことでした。

(C) 1988マッシュルーム/アキラ製作委員会

 こうしたかつてない挑戦のために集められた作画メンバーは、作画監督のなかむらたかし、作監補の森本晃司、原画に金田伊功福島敦子井上俊之沖浦啓之、故・木上益治さんなど、超一流のスタッフばかり。大友監督のハイレベルなデッサンの画を緻密に動かすために研鑽(けんさん)し、その後の日本アニメを支える人材を数多く輩出しています。

 また、リアリティーへのこだわりはレイアウトにも表れています。広角レンズや望遠レンズを意識した描き分けをするなど、画でありながらカメラで撮影されたかのような映像を作り上げています。

 そして、なんといっても『AKIRA』には、強く印象づけられるクールなシーンやアクションが目白押し。主人公の金田がバイクでスライドしながら止まるカットはあまりにも有名で、数多くのアニメ作品がオマージュを捧げています。そのほかにも、走るバイクのテールライトが尾を引くように残像を残して描くなど斬新な演出が盛りだくさんで、後にアニメに多大な影響を与えました。IMAXの巨大で高精細なスクリーンは、そんな緻密な作画の凄さを体感できる貴重な機会となるでしょう。

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昭和の日本と近未来が融合した世界観

(C) 1988マッシュルーム/アキラ製作委員会

 『AKIRA』の魅力は作画や演出にとどまらず、そのエキゾチックで退廃的な近未来の世界観も大きなインパクトを残しました。

 本作の舞台は、2019年のネオ東京。1988年に新型爆弾が炸裂したことにより第三次世界大戦が勃発、世界の混乱は未だ収まらずゲリラと軍の衝突があちこちで起きている街は、近代的な高層ビル群と廃墟、1970年代以前の日本の風景が混ざり合う独特の世界観を構築しています。

 大友監督は東京という街について、昭和のイメージを強く持っていると語っていたことがありますが、近未来でありながら、ノスタルジックさもあわせて感じさせる点が非常に特徴的で、『AKIRA』には戦後からバブル経済にいたる東京の様々な風景が凝縮されているような印象を受けます。2020年の東京オリンピックとその中止(延期)を予言していたのではと話題になりましたが、近未来を舞台にオリンピックについて言及したのは、予言というより1964年の東京オリンピックを意識してのことだったのでしょう。

 こうした日本の昭和的なエキゾチックさと近未来をハイブリッドにした世界観は、日本アニメの代表的なイメージとなり、後の『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』などにも受け継がれ、クールな日本アニメのイメージを決定づけたと言えます。

 作画同様、背景の描き込みも大変に緻密で、高層ビル群の窓一つ一つのガラスの奥にも机や小物が描かれ、美術監督の水谷利春の手腕が光ります。そうした細かいディテールもIMAXの大スクリーンならば存分に堪能できるでしょう。

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80年代の終末論が現代に蘇る

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 『AKIRA』が公開された1988年は、日本ではバブル経済の絶頂期。戦後の焼け野原から急速な経済成長を遂げ、その繁栄を最も享受している時代でした。破格の10億円という制作費自体が、今では考えられない贅沢のようにも感じますが、そんなバブル時代の日本の狂乱と、大規模なビル建設などによりものすごいスピードでかつての風景が失われてゆくことへの危機感のようなものを本作は感じさせます。

 バブル経済の享楽と狂騒の中、当時はノストラダムスの大予言がまことしやかに信じられているような時期でもありました。本作は世界の崩壊の危機を描いていますが、そんな世界の崩壊が実際に世紀末に起こるのではないかという、終末論的な不安が世の中にあった時代でもあります。『AKIRA』という作品は、そんな時代の空気を反映した作品とも言えるでしょう。

 東京オリンピックが新型コロナウイルス感染の世界的拡大で延期となり、ますます現実世界が『AKIRA』とリンクしている今、本作に描かれた終末論的イメージは80年代とは違った形で、我々にはリアルに感じられるのではないでしょうか。(杉本穂高)

※上映につきましては映画館へお問い合わせください

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