ADVERTISEMENT

『Fast & Furious』邦題が『ワイルド・スピード』になったワケ!歴代シリーズ邦題秘話

 人気アクション『ワイルド・スピード』シリーズが、今年で20周年を迎えた。最新作『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』の日本公開も控える中、先日 The Hollywood Reporter で、シリーズの邦題は素晴らしいという記事が掲載された。本国では『Fast & Furious』というタイトルで公開されており、なぜ邦題が『ワイルド・スピード』なのか? と思うファンも多いはず。今回、宣伝プロデューサーを務める東宝東和株式会社の佐藤大典がインタビューに応じ、『Fast & Furious』の邦題が『ワイルド・スピード』になった理由、スピンオフ含むシリーズ全10作品の邦題秘話について語った。(取材・文:編集部・倉本拓弥)

■なぜ Fast & Furious がワイルド・スピードに?

『ワイルド・スピード』より - (C) 2001 Mediastream Film GmbH & Co. Productions KG. All Rights Reserved.
ADVERTISEMENT

Q:先日 The Hollywood Reporter にて「Fast & Furiousの邦題は素晴らしい」という記事が掲載されました。アメリカ本国、そして世界で『ワイルド・スピード』というタイトルが評価されたことについて、心境をお聞かせください。

 最初に記事のことを聞いた時は冗談かと思いましたね。まさか海外の記者さんが邦題に注目して記事を書くことはないだろうと思っていたので……。SNS上で影響力のある方が「邦題が最高」という投稿をしていたそうで、それがすごく拡散されて、記事にもなったという流れがあったみたいなんです。海外で記事にしてもらえることなど滅多にないので、素直に嬉しかったです。

Q:そもそも、なぜ『Fast & Furious』に『ワイルド・スピード』という邦題がつけられたのでしょうか?

 東宝東和が『ワイルド・スピード』に携わる前は、UIP映画(ユナイテッド・インターナショナル・ピクチャーズ・ファー・イースト)がユニバーサル作品とパラマウント作品を配給していて、1~3作目はUIPが担当でした。東宝東和は4作目から邦題を決めるようになったので、UIP映画の方々が『Fast & Furious』に『ワイルド・スピード』という邦題をつけたという歴史があります。

 ここからは当時のUIP映画・宣伝部の高田和人氏(現在は東宝東和株式会社勤務)から聞いた話となります。1作目の宣伝開始当時「車の映画は当たらない」というジンクスがあったらしいのですが、それでも『Fast & Furious』はそれなりの宣伝費をかける作品だったので、宣伝部ではさまざまなアイデアを出し合って邦題を協議したそうです。

 『Fast & Furious』は日本人には馴染みの薄い英単語の組み合わせなので、よりわかりやすくしようと考える中で、大体50くらいの邦題候補が出て、その中でも「スピード」という単語は絶対にキーワードになると確信しており、『〇〇スピード』で何かないか……となったときに、当時の宣伝部長がアウトローを象徴する単語「ワイルド」を提案したそうです。もともとFastは速いという意味があり、Furiousは激しい・激怒という意味がありますが、そういう意味では結果的に激しいと速いをなんとなく連想させる「ワイルド」と「スピード」が組み合わさったわけなので、原題のニュアンスを生かしながらわかりやすさを最大限追求するという、見事なローカライズを先輩達は成し遂げて頂いたと個人的には思っています。

ADVERTISEMENT

■邦題が『ワイルド・スピード』ではなくなる可能性もあった

『ワイルド・スピード MAX』 より- (C) 2009 Universal Studios. All Right Reserved.

Q:東宝東和が4作目から邦題を決めるようになった際、『ワイルド・スピード』以外のタイトルになる可能性はあったのでしょうか?

 もちろんあらゆる可能性を考えました。心機一転の意味も込めて全く違うタイトルした方がいいのでは? という話も当然あったのですが、何年もかけて着実にファンが増えているシリーズのブランドを白紙にしてしまうのが勿体なかったので、『ワイルド・スピード』というタイトルは大切に引き継ぐことにしました。そして何より、作品自体がオリジナルメンバーの再集合を描くという原点回帰の要素があり、今までで最高のカーアクションを作る! という製作陣の意気込みが半端じゃなかった。4作目は色んな意味で「最高傑作です」というわかりやすい意味も込めてMAXをつけたと記憶しています。

 5作目『Fast Five』は舞台がブラジル・リオデジャネイロとなっており、その最大のオリジナリティーを生かして『ワイルド・スピード ブラジル』、『ワイルド・スピード RIO』などというタイトルも考えましたが、本編ラストで展開されるとんでもないカーアクション(巨大金庫引きずり回しチェイス)を見た瞬間に、今回最大の売りはコレだなと。前作MAXが限界かと思っていたカーアクションの限界を遙かに超えてきた、イコールMAXを超える=MEGA MAXだなという発想です。

ADVERTISEMENT

Q:6作目『ワイルド・スピード EURO MISSION』と7作目『ワイルド・スピード SKY MISSION』 は、MISSIONという部分が共通していますね。

『ワイルド・スピード EURO MISSION』より - (C) 2013 Universal Studios. All Rights Reserved.

 少し専門的な話になってしまいますが、5作目までは最高のアクション=MAX最高を超える=MEGA MAXといった具合に、その作品単体の強みをパッケージ的な視点で捉えてタイトルに反映していました。ですが、5作目が全世界的にも大ヒットとなり続編がまだまだ続く可能性が濃くなり、ヴィン・ディーゼル10作品で完結という巨大構想を持っていることも徐々に判明してきました。そうなると、このままアクションを軸に6作目以降もMAX路線で邦題を続けていくとMEGAの次はギガ? ウルトラ? と表現がどんどんB級感のあるものになってしまい、各作品の個性もなくなってしまうのではないか? という日本チーム共通の懸念がありました。そこで一度思考をリセットし、今後作品が数多く続いていくという前提をもとに、各作品の個性をどう出していくか? と考えるようにしました。

 『ワイルド・スピード』シリーズが素晴らしいのは、普通は回を重ねるとマンネリ化しがちなのに、しっかり毎回新しいものを見せてくれるところです。6作目ではついに高級車の本場=ヨーロッパにファミリーが上陸するという展開になっていたので、シンプルにサブタイトルに一番の推しである欧州=EUROという要素を入れましょうということになりました。MAXのように大枠で括るのではなく、「今回のワイスピはこれです」とキャッチコピーが無くともタイトルだけで最大の売りポイントをわかってもらうことが狙いです。

 『ワイルド・スピード EURO』では座りが悪かったので、 もうひとつ重しになるワードがほしかったんです。そこで「EURO」に色んなワードを組み合わせてみたんですが、ミッションというワードが特にしっくりきました。作品の内容的にも自由を手に入れるためにファミリーが「ミッション」に挑むというテーマでしたし、何よりこのワードにはアクション&サスペンスといった少年が好きなものが詰まっている印象があります。こういった流れで『ワイルド・スピード EURO MISSION』に決定しました。

 7作目『ワイルド・スピード SKY MISSION』はあまり迷いませんでした。なんせ車が大空を走るのでこれを超えるオリジナリティーはないなと。邦題に絶対入れたい要素としてシンプルに空=SKYは候補案として初登場1位でした。もちろんSKY以外にも「AIR」など空を連想させるワードも検討しましたが、実は前作でEUROというワードを採用したことに関して少し反省している部分がありました。というのも、EUROだと響きはかっこいいんですが、ちょっとだけ難しい英単語なので、小学生、もしくはもっと小さい子供達が意味を理解しづらい。ファン層がどんどん拡大して、小中学生に人気が出始めている本シリーズで、英単語の難易度をむやみに上げることはファンに対して失礼だなと感じていました。そこでやはり今回は最も分かりやすいワードである「SKY」にしようと思いました。

 ストーリーも前作とつながっていましたし、またもやファミリーが大がかりなミッションもこなすので、ミッションというワードも生かして『ワイルド・スピード SKY MISSION』となりました。

ADVERTISEMENT

Q:続く8作目『ワイルド・スピード ICE BREAK』と9作目『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』は、BREAKが共通しています。~MISSIONを踏襲しなかった理由は?

『ワイルド・スピード ICE BREAK』より - (C) 2017 Universal Studios. All Rights Reserved.

 7作目『~SKY MISSION』はご鑑賞頂いた方はわかると思うのですが、ファミリーの物語において1つの大きな転換期を迎えています。1作目でストリートレーサーのドミニクとFBI捜査官のブライアンが“仲間”になり、その後色んな仲間が増えて“ファミリー”になる本シリーズですが、ついに自由を手に入れたファミリーが別々の道を歩むことになり、そこにはポール・ウォーカーさんの訃報も大きく関係していました。7作目はそれまでのノリがいいアクション全開をベースにしつつ、制作陣とキャストによるポールさんへの愛とメッセージが凝縮されており、彼に捧げる作品としてとてもエモーショナルな終わり方をします。

 そんなラストで締めくくられた7作目に続く作品に、そのまま~MISSIONというワードを使うことは感覚的に違うかな? と思っていましたし、きっと7作目を見たファンの皆さんも同じ気持ちで、8作目は今までの延長線上ではなく、新たな物語を求めているだろうと考えていたので、あえてMISSIONというワードは踏襲しませんでした。

 8作目『The Fate of the Furious』で潜水艦と車がバトルすると聞いた時は「やっぱりワイスピの制作陣は最高だ!」と思いました。氷の下から潜水艦が飛び出すラフカットを見て大絶叫しまして、そこで邦題でICEを使うしかないと思いました。さらに、8作目はファミリーの崩壊がテーマになっていて、今まで積み上げた家族をいとも簡単に壊してしまう。車の破壊も重ねると、BREAKというワードがわかりやすいという結論が出ました。ちなみに、ICE BREAKには会議を和ませるという意味もあったりするので、単語の順番を逆にする案もあったのですが、10年以上続くシリーズでそういう意味に捉える人は絶対にいないと思ったので、そのままにしています。

 9作目『F9』はさすがにもうアクションのネタは尽きただろう……と穿った見方をしつつも、どんな展開になるのかいちファンとしてもワクワクしていたのですが、車に超強力磁石とジェットエンジンを搭載するという情報を聞いて、ワイスピファミリーの無限の想像力を疑った自分を恥じました。今まで空や氷の上でチェイスを繰り広げたファミリーですが、ついにニトロを超えてジェットを車に搭載することで、みなさんの期待と予想を突き破ってくれる内容になっていたので、これはもうジェットしかないなと思い迷わなかったです。ストーリー的にも前作と強く結びついていたので、BREAKというワードも引き続き採用して『ジェットブレイク』となりました。

ADVERTISEMENT

■スピンオフの邦題が『スーパーコンボ』になったワケ

『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』より - Universal Pictures / Photofest / ゲッティ イメージズ

Q:スピンオフ『Fast & Furious Presents: Hobbs & Shaw』の邦題は『ワイルド・スピード/スーパーコンボ』です。原題のようにホブス&ショウというキャラクター名をあえて使わなかった理由は?

 まず最初に、この作品の世界観は紛れもなく『ワイルド・スピード』なのですが、ヴィンが主演するいわゆる“本線”とは主人公も違うスピンオフ的な立ち位置だったので、『ワイルド・スピード』というメインタイトルは残しつつも、タイトルに本線を連想させるワード「MISSION」「BREAK」などは使わないようにしようというビジョンがありました。その方がストーリー的な時系列の混在も避けれるため、ファンにとっても区別しやすく親切だと思ったためです。

 一方で、作品の内容的にはドウェイン・ジョンソンジェイソン・ステイサムというハリウッドを代表する2枚看板が主演しているだけあって、圧倒的におもしろいものだったので、スピンオフ感・スケールダウン感を連想させるようなワードを邦題にすることは勿体ないなと思いました。むしろ、1+1=3になるような2大スターの化学融合大爆発感をしっかり訴求してあげたかった。そういった視点で考えると、原題の『Hobbs & Shaw』は2人のキャラクターを熟知しているファン以外にとっては、ちょっと伝わりづらいと思いました。

 そこで邦題を考え始めたわけですが、イメージとしては小中高生がコンビニの前や学校の昼休みに友達と会話するときに、最短ルートで「とんでもない2人組がすごいことをする映画」と伝えるにはどうすればよいか? と考え、強い奴同士が合わさって必殺技を繰り出す、スーパーコンボを思いつきました。ノリとしては「ストリートファイター2」や週刊少年ジャンプ、ドラゴンボール的な発想です(笑)。

 コンボというワクワク感にスーパーをつけると、必殺技の中でも頂点という響きになりますよね。恐らく日本中の少年に「超すごい必殺技を連想させるワードは何?」とアンケートを取ったら『スーパーコンボ』は間違いなく上位だろうという確信がありました。もちろん、本国もホブス&ショウがすごいコンビだというのを伝えたくてあのタイトルになったと思うので、私たちもその良さを伝えないといけません。その中で、よりわかりやすく魅力を伝えるには『スーパーコンボ』という表現がベストだろうという結論になりました。

ADVERTISEMENT

Q:続編のサブタイトルをパッと見ただけで、どんな作品だったのかをすぐに思い出すことができます。「わかりやすさ」というのも、邦題を決める一つの基準なんですね。

 たまに誤解されるのですが、『ワイスピ』において原題を変えてわかりやすい英単語の邦題にすることは、決して原題の否定ではなく、むしろ肯定なんです。5作目以降の北米タイトルを見て頂けると色んな試行錯誤がなされていて、作品の魅力を少しでもタイトルに反映しようという努力を感じます。邦題も同じマインドで、原題以上に作品のオリジナリティーや特徴を強調しているだけなんです。また、英単語のレベルを落とすこと自体も、決してファンのみなさんを軽視しているわけではありません。近年は、幼稚園~小学生ぐらいまでファン層が広がってきているので、その年代の子供たちがわからないワードは良くない。40~50代の第1代から、20~30代の第2世代、今は幼稚園生あたりの第3世代も『ワイスピ』を応援してくださっているので、そういう子達にもわかりやすいワードにしてあげたいという思いがあります。

■完結まで残り2作、邦題はどうなる?

『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』より - (C)2021 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.
ADVERTISEMENT

Q:シリーズは残り2作で完結と言われています。タイトルは未発表ですが、第10弾以降も邦題は『ワイルド・スピード 〇〇』という形を貫いていくのでしょうか?

 これは明確で、次回作がどんな作品になるかであらゆる可能性があると思います。邦題がガラリと変わるかもしれないし、これまでのように売りとなる単語を全面に出すかもしれません。私たちは邦題を生み出しているというつもりが全くなく、あくまでフィルムメーカーが作っているものをファミリーのみなさんにうまく届けるにはどうしたらいいかなというのを常に意識しています。邦題を評価して頂いたことは本当にありがたいことですが、この邦題のベースを作っているのはヴィン・ディーゼルであり、フィルムメーカーなんです。彼らが氷上で潜水艦を登場させてくれたから、邦題で『ICE BREAK』とつけることができたんです。

 次回作の邦題を何にするかは、フィルムメーカーがどういう作品を仕上げてくるか次第かなと思っています。タイトルが一人歩きして、次も『~ブレイク』ですとか、『ジェット』を超える単語は『タイム』しかないかな? というような決め方ではありません。タイトルはあくまで作品の表現の一つですから。次回作の内容を受けて、私たちは最高の邦題はこうだと提示する責任がありますし、その責任以上に「ワイスピファミリーは次に我々へ何を見せてくれるんだろう?」と純粋にワクワクしています。

——————————————————————

 今やワイスピの愛称で幅広い層に認知されている『ワイルド・スピード』シリーズ。米メディアでも絶賛された邦題には、日本のファミリーに向けてキャッチーかつわかりやすくという、配給会社の思いが込められていた。1時間以上かけて、全10作の邦題について熱く語った佐藤は、「『ワイルド・スピード』シリーズは世界中のファミリーが喜ぶことを一つずつ叶えてくれるんです」と一言。完結編へと向かう10作目・11作目でも、日本の全『ワイスピ』ファミリーを喜ばせる邦題を届けたい」と意欲を見せていた。

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • ツイート
  • シェア
ADVERTISEMENT

おすすめ映画

ADVERTISEMENT

人気の記事

ADVERTISEMENT

話題の動画

ADVERTISEMENT

最新の映画短評

ADVERTISEMENT