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アジア初!ドキュメンタリー映画の“虎の穴”

山形ドキュメンタリー道場 第1回 / 全3回

 隔年で行われている山形国際ドキュメンタリー映画祭2021が10月7日~14日にオンラインで開催される。その山形で、2018年からスタートしたのが、温泉地に長期滞在して映像制作を行うアーティスト・イン・レジデンス(AIR)事業「山形ドキュメンタリー道場」(主催:ドキュメンタリー・ドリームセンター)。コロナ禍の今年もオンラインと並行して大蔵村肘折温泉で実施された。地域と育むクリエイティブ・ファースト、アーティスト・ファーストで行われるドキュメンタリー映画の“虎の穴”の現場を3回に渡って追う。(取材・文・写真:中山治美、写真提供:山形ドキュメンタリー道場)

第1回 アジア初!ドキュメンタリー映画の“虎の穴”
第2回 自由な意見交換で企画を磨く!その名も「乱稽古」
第3回 今だからからこそ、改めて“集うこと”の意義

山形ドキュメンタリー道場の公式サイトはこちら>>

想田和弘監督などからアドバイス
ワークショップでは(写真右から)講師の仏在住編集者でエリック・ロメール監督作品を手がけていたメアリー・スティーブンや想田和弘監督からアドバイスを受けた。(写真提供:ドキュメンタリー・ドリームセンター)

 芸術家を地域に招聘して創作活動を支援する「アーティスト・イン・レジデンス事業」はいまや全国各地で行われているが、ドキュメンタリー映画に特化した事業はアジア初だ。2017年に山形市が日本で初めてユネスコ創造都市ネットワーク映画部門に加盟したことが後押しをし、2018年の初回はインドネシアとマレーシアの2チームから監督、共同プロデューサーら5人が来日して24日間に渡って蔵王温泉に滞在した。うち、間の4日間は映画『選挙』(2006)の想田和弘監督や映画編集の秦岳志ら講師らによるワークショップ、そして地域の人たちとの交流の時間も設けられたが、基本はチームごとの編集作業の時間にあてられた。

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蔵王の山小屋で交流
蔵王の山小屋で交流する2018年の参加者たち。(写真提供:ドキュメンタリー・ドリームセンター)

 編集を行うのは室内。ならば、山形まで来ずともできるはずだ。だが主催のドキュメンタリー・ドリームセンター代表の藤岡朝子は、異国で熟考する時間の重要性を説く。

 「さまざまな文化や人と触れ合う中で、撮りためた映像素材と向き合うことで、新たな視点で作品を捉え直すことができると思うのです」(藤岡代表)

地域交流
2019年の滞在中には地域交流も。山形市立蔵王第3小学校・第2中学校の生徒たちにタイの歌や台湾の食文化を伝えた。(写真提供:ドキュメンタリー・ドリームセンター)

 藤岡代表は2009年に山形・古屋敷村、2011年にはタイ・サラヤと中国・雲南で「映画道場」と題して日本と現地の若手映像制作者の交流事業を行っている。ドキュメンタリストの多くは、通常1人で制作している。他者とコラボレーションすることで、自分が作品を通して感じていること、目指していることを伝えるために、言葉を吟味して言語化しなければならない。それが自身の思考を深め、作品の深度を高める良い訓練になるのでは? と企画した。

『1000年刻みの日時計』を鑑賞
滞在中には山形ドキュメンタリー・フィルム・ライブラリーで小川紳介監督『1000年刻みの日時計』(1987)を鑑賞し、関係者の話を聞いた。(写真提供:ドキュメンタリー・ドリームセンター)

 ワークショップの内容は参加者をグループ分けし、1週間で映像制作を行うもの。だがプロセスよりも、完成させることが最優先となってしまったという。その時の教訓が、山形ドキュメンタリー道場に生かされているという。

参加者のノーヴァ・ゴー監督
山形の大自然の中で己と向き合う2018年の参加者マレーシアのノーヴァ・ゴー監督(写真左)。(写真提供:ドキュメンタリー・ドリームセンター)

 「一方で海外のワークショップで多いのが、お金のある人(出資者や配給会社)がマーケットに載せるためにと『冒頭にきれいな女性を出せ』とか平気で口に出すので、制作者がそれに心を動かされてしまって無駄なピッチ(短いプレゼンテーション)に時間をかけてしまう。もちろん、お金を集めるためのピッチは大切ですが、それ以前に、本当に自分が作りたいのは何なのか? 本人の主体性を尊重する時間を提供したい」(藤岡代表)

温泉旅館で映像制作
ザ・温泉旅館な部屋で黙々と映像制作を行う参加者。(写真提供:ドキュメンタリー・ドリームセンター)

 この藤岡代表の思いを、山形市が後押しした。山形市は2017年にユネスコ創造都市ネットワークに「映画」分野で認定されたばかり。同市でもAIR事業に関心があったという。都会の喧騒から離れた、大自然に抱かれた空間は、自身の心と対峙するのに格好の場所だ。参加者の一人であるインドネシアのドゥウィ・スジャンティ・ヌグラヘニ監督は、貧しい島から海洋学を学ぶために都会に出た少女が味わう厳しい現実を映し出す『ONA/悪魔と深く青い海の間で』(2019年に完成)を引っ提げて、共同プロデューサーのディアン・ヘルディアニと編集のグレゴリウス・アルヤ・ディパヤナと共に滞在した。

ドゥウィ・スジャンティ・ヌグラヘニ監督チーム
雪に興奮を隠せないインドネシアのドゥウィ・スジャンティ・ヌグラヘニ監督(写真中央)チーム。(写真提供:ドキュメンタリー・ドリームセンター)

 ヌグラヘニ監督は「故郷から遠いことで、毎日、自分の人生・夢・仕事のことを考え続けた」と言えば、ヘルディアニPは「監督やチームにとって良いプロデューサーとは何か? を考えさせられた」と言う。

2019年のワークショップ
2019年のワークショップでは撮影監督・山崎裕(写真右側)が講師となり、撮影法を伝授した。(写真提供:ドキュメンタリー・ドリームセンター)

 この道場のユニークなところは、監督だけでなくチームで参加する点にある。そこで思わぬ展開もあるという。ゲストサポートを担当した遠藤徹が明かす。

蔵王名物・ジンギスカン
蔵王名物・ジンギスカンに舌鼓を打つ参加者と講師陣たち。(写真提供:ドキュメンタリー・ドリームセンター)

 「チームとはいえ、長期に渡って“同じ空気を吸って、同じ釜の飯を食う”となると、そこに付随することで起こる人間関係のもつれで、緊張関係が生まれることもありました」(遠藤)

 納得いく作品を生み出すための、濃密な時間が流れているようだ。

第1回 アジア初!ドキュメンタリー映画の“虎の穴”
第2回 自由な意見交換で企画を磨く!その名も「乱稽古」
第3回 今だからからこそ、改めて“集うこと”の意義

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