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第24回『ウエディング』(1978年)監督:ロバート・アルトマン 出演:キャロル・バーネット

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左よりキャロル・バーネット、ポール・ドゥーリイ、ミア・ファロー、デニス・クリストファー、エイミー・ストライカー
左よりキャロル・バーネット、ポール・ドゥーリイ、ミア・ファロー、デニス・クリストファー、エイミー・ストライカー - (C)Twentieth Century Fox Film Corp. / Photofest / ゲッティイメージズ

 『M★A★S★H マッシュ』(1970)、『ロング・グッドバイ』(1973)、『ナッシュビル』(1975)、1990年代以降なら『ザ・プレイヤー』(1992)や『ゴスフォード・パーク』(2001)。傑作を何本も遺したロバート・アルトマンだが、間もなく10月3日から公開されるドキュメンタリー『ロバート・アルトマン/ハリウッドに最も嫌われ、そして愛された男』の試写を観たとき、久々にもう一度見直したくなったのは、この『ウエディング』(1978)だった。(冨永由紀)

 アルトマンは1977年、前作『三人の女』の撮影中に受けた取材で次作について聞かれ、「結婚式を撮るんだよ」と口からでまかせを答えたが、案外それはいいアイデアだと思い直して着手したのが本作だ。アメリカ中西部の裕福な家族同士による盛大な結婚式と披露宴、そこで起こるハプニングの数々を描く24時間の物語。群像劇の名人・アルトマンが、いくつものエピソードを並行させる得意の手法で人間の本性を暴いていく風刺コメディーだ。

 披露宴をとりしきるウエディング・プランナーと一部始終を映像に収めるために雇われた撮影隊も含めて、登場人物は48人! 最初は誰が誰とどういう関係なのかも、見ていてなかなかつかめない。登場人物たちはそんなことお構いなしに、教会から披露宴会場である新郎家の豪邸になだれ込み、親族同士でぶっちゃけトークを始め、プライドの高い金持ちらしい意地の張り合いや駆け引きを繰り広げる。そんな中、屋敷の二階では、花婿の高齢で寝たきりだった祖母が披露宴開始を待たずに息を引き取っていた。この事実はその瞬間に居合わせた看護師とプランナー、事態を知らされた侍従とファミリー・ドクターだけが胸に留め、めでたい日を滞りなく終えようとするが……というエピソードが基調といえば基調。だが、畳みかけるように次々といろいろなことが起きていく。

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 楚々(そそ)とした花嫁が誓いの言葉を口にして満面の笑みを浮かべると、歯列矯正のブレースが見える。豪勢なパーティーを用意したものの、集まったのは親族ばかりで招待客はただ1人。そんな気まずいディテールを積み重ね、不倫や同性愛、人目を忍ぶ身分違いの恋、隠れドラッグ中毒……上流社会においては“なかったこと”にされがちだが、実は確実に“あるある”な事柄が続出する。その中から花嫁の実家ブレンナー家が運送業で叩き上げのケンタッキーの成金であること、花婿の父は、イリノイの名家であるスローン家の娘と結婚して婿状態のイタリア人であることなどが徐々に見えてくる。

ウエディング
ジョン・クロムウェル&リリアン・ギッシュ(C)Twentieth Century Fox Film Corp. / Photofest / ゲッティイメージズ

 本来、この日の主役は新郎新婦だが、誰もが平等に“自分の人生の主役”を演じてみせるので、散漫な印象を受けるかもしれない。しかし、一見とりとめのないスタイルながら、見ているだけで自然に人間関係が整理できてくる。スローン家の女性たちはクール・ビューティー系で、ブレンナー家の女性たちはどこか庶民的でスキがある風情。その最たるものが、ブライズメイドを務める花嫁の姉だが、演じるミア・ファローの浮遊感が凄まじい。セリフはたった2つ(だが、破壊力絶大)で、あとは思わせぶりに微笑んだり、うなずいたりしているだけ。絵に描いたような天然の魔性女だ。花婿の親戚男性から猛アタックされる花嫁の母を演じるキャロル・バーネットも名演。相手役のパット・マコーミックとのダンス・シーンのやりとりはほぼ即興だという。開始早々に死んでしまって以降、天使のように穏やかな表情でベッドに居続けるサイレント映画の大女優、リリアン・ギッシュはまさに余人をもって代え難い。

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 結婚式を執り行った老齢の司教役のジョン・クロムウェルは、『ベイブ』『スペース・カウボーイ』のジェームズ・クロムウェルの父。本作は撮影当時91歳だった彼の遺作だ。ちなみに叔母のベアトリス役のルース・ネルソンはクロムウェル夫人でジェームズの継母。

 若い頃に逆玉の輿で金持ちのアメリカ娘と結婚し、花婿の父を演じるのはイタリアの名優、ヴィットリオ・ガスマン。それほど目立たないが、故郷からはるばる弟が訪ねてきて、2人でイタリア語をまくしたてるあたりから、俄然存在が光るようになり、やがて思いがけない方向へと物語を引っ張っていく。

 2006年に亡くなったアルトマンは1925年生まれだ。同世代にはサム・ペキンパーシドニー・ルメット、日本ならば鈴木清順や岡本喜八、増村保造などがいる。彼らには青年としての戦争体験がある。だから、と括るのは単純にして乱暴すぎるのは承知のうえで、彼らの作品には強い反骨精神、そして無常感が共通するように思える。作品そのものは年月を経ても名画として残るが、そのどれもに、何とも言えない刹那的な気配を感じるのだ。『ウエディング』も然り。次の瞬間、何が起きるかわからない。そんな人生の不確かさを見せる題材に、結婚式の1日というのはふさわしい。祭りのあとの寂寞(じゃくまく)が、冒頭に挙げたドキュメンタリー映画に出てくるホームムービーの一場面に通じる。海辺での砂遊びで作るお城のようにはかなく、それでいて忘れ難いのだ。

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