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『メアリと魔女の花』ジブリっぽい?への想定内と想定外

繊細な美術も話題の『メアリと魔女の花』
繊細な美術も話題の『メアリと魔女の花』 - (C) 2017「メアリと魔女の花」製作委員会

 米林宏昌監督がスタジオジブリ退社してから初めて作った長編アニメーション映画『メアリと魔女の花』の予告編が公開されたときに、ジブリファンから聞こえてきた「過去作に似ている」という声。その既視感について同作をプロデュースし、新アニメーションスタジオ「スタジオポノック」を立ち上げた西村義明が語った。

ジブリっぽい?『メアリと魔女の花』フォトギャラリー

■動きや画(え)で人々に残るジブリの偉大さを痛感する

 『千と千尋の神隠し』『ハウルの動く城』『崖の上のポニョ』などのスタジオジブリ作品で原画を担当し、『借りぐらしのアリエッティ』『思い出のマーニー』の2作品を監督した米林監督。『ポニョ』ではポニョと妹たちが魚群で地上に登場するシーンを手掛けるなど、ダイナミックな動きを得意としてきた。米林監督と同じくスタジオジブリ出身の西村プロデューサーは、「宮崎駿さんのアニメーションを一番、一子相伝で受け継いでいるのは、米林監督なんだと思います」と語ると、「『メアリ』ではそれを惜しみなく出していますよね。『ポニョ』で大迫力の魚群シーンを描いて宮崎監督に才能を認められ、それが元で宮崎監督から『アリエッティ』を託された。空中の生き物たちに『ポニョ』を見るなら、それこそが宮崎監督を魅了した米林宏昌のアニメーションそのものです」と続ける。

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 画(え)やアニメーションがスタジオジブリっぽいと言われるたびに、西村プロデューサーは「ジブリの偉大さ」とあらためてかみしめたという。「女の子がほうきにのったら、『魔女の宅急便』じゃないかと言われるのは、もちろん想定されたことです。その魔女というモチーフを扱いながら、今の子どもたちに向けた新しい魔女の物語を紡ぐことが、米林監督の一つの挑戦ですから。でも強烈にみんなの中に残っている映像に重なることは、すごいなと思いましたし、同時にジブリで映画を作ってきた人間としてうれしく思いました。お客さんの中にそれだけジブリは大事なものとして蓄積されているのだと。ジブリの制作部門が解散後、それをなくしたくないという思いで歴代のジブリ作品のクリエイターが終結して作ったのが『メアリ』です。だからこそ、高畑(勲)監督や宮崎監督のように価値ある作品を作っていかなければならないんだと強く思いました」。

 「今の子供たちが初めて観る魔女の物語は、『魔女の宅急便』じゃなくて、僕らの『メアリ』かもしれない。そのときに、ちゃんと豊かなアニメーション映画の中で、大切なメッセージを伝えていけるのか。それだけ高畑監督や宮崎監督がいろんなイメージやメッセージをいろんなお客さんの中に残してきたんだと思うと、あの二人は偉大だなと思います。敬服しかないです。自分たちも新しい作品を作りましたが、ゼロからスタジオを立ち上げて1本の映画を完成させるのは本当に苦しかった。こうやって高畑監督や宮崎監督は、若いときに『火垂るの墓』や『魔女の宅急便』や『となりのトトロ』を作ってきたのだろうし、子どもたちの今と向き合いながら映画を作っていた時代があったんだと思います。ぼくたちも子どもたちの今から逃げてはいけないし、そこからはじめたいという思いは強かった」。

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■『メアリと魔女の花』にあるジブリの血

(C) 2017「メアリと魔女の花」製作委員会

 昨年12月の『メアリと魔女の花』製作発表記者会見時には、「ジブリの血を引いた作品」にしたいと話していた西村プロデューサー。彼は今も「ジブリの血」というものについて考えているのだとか。「ジブリの血を引いているなんておこがましいこと言ったけど、それは本来、自分たちが言うべき言葉ではないんです。『メアリ』では高畑さん、宮崎さん、鈴木(敏夫)さんに教わってきたことを生かせているかと問われるわけですから」と言いつつも、「ただ僕は、クリエイターと現場を共にプロデューサーという立場で言わせてもらえれば、ポノックに集まったクリエイターたちの本気というのは、本当にすばらしいと思う。ジブリは一人の個性の中にあるのではなく、集団の中にありました。クリエイター一人ひとりにジブリイズムが残っているんだと思うんです」と述べる。

 「来る日も来る日も一枚一枚手で描く。約10万枚を描ききる。背景美術も一枚一枚を筆で描き、キャラクターに一枚一枚色を塗る。お客さん楽しんでくれるかな、って思いながら。その地道な積み重ねで人々の心を打ってきたのが、スタジオジブリだったんだと思います。大切なことは、たいてい面倒くさい。これが宮崎駿監督からの教えだし、その地道さこそが、ジブリの血なんですよね。いつも通り作る。いつも通り自分の力で作るんだというのが、スタジオポノックにあるジブリの血だと思うし、それは『メアリ』のストーリーにも密接にかかわっています」。

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 西村プロデューサーが「僕らがジブリで教わったことは何だろう」と考えるとき、思い浮かぶのは、「アニメーション映画はまず子どもたちのためにある。真に子どもに向けられたものは大人の鑑賞にも耐えうるのだ」ということ。彼は「それはおそらく、大人のなかに眠っている子ども時代の記憶を呼び覚ますから」だと話す。「だからこそ、『トトロ』のコピーは『忘れものを届けにきました』なんだろうなと。大人たちが忘れてきてしまったものを、それに立ち返る瞬間を与える役割をアニメーション映画が持っているんじゃないかということは思います」。『メアリ』には確かに、大人たちを童心に返らせるきらめきがある。(取材・文:編集部・井本早紀)

映画『メアリと魔女の花』は公開中

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