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『選挙』想田和弘監督の“観察映画”第7弾にベルリンが注目

第68回ベルリン国際映画祭

ベルリンで注目を浴びた映画『港町』より
ベルリンで注目を浴びた映画『港町』より - (C)Laboratory X, Inc.

 現地時間17日、第68回ベルリン国際映画祭フォーラム部門で映画『港町』のワールドプレミアが開催され、想田和弘監督、柏木規与子プロデューサーが登壇した。本作は小さな港町である牛窓を撮ったドキュメンタリー。

映画『港町』場面写真

 想田監督は上映前、満員の観客に「たくさん観たい映画があるでしょうに、これを選んでくださってありがとうございます」と感謝した。確かに、同時間に何十本という映画が上映される本映画祭で、市井の人々を撮った地味ともいえるドキュメンタリーがこれだけ注目されるのは特筆すべきこと。“観察映画”第1弾『選挙』、第2弾『精神』と印象深い作品をベルリンで発表してきたことも大きな要因に違いない。

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 そして第7弾となる本作だが、想田監督はそもそも“観察映画”とは何か、作るにあたって自分に課している10か条を披露した。「1リサーチ無し。2対象者とのミーティング無し。3台本無し。4自分自身でカメラを回す。5できるだけ多く撮る。6小さいところを深く追う。7あらかじめのテーマ無し。8ナレーション、テロップ、音楽無し。9長回しを使う。そして、これがしんどいところなのですが、10自費で作る」という徹底した10か条には拍手が送られた。

 その制作の苦労を共に分かち合ったであろう柏木プロデューサーは、実生活でも想田監督のパートナーだ。柏木プロデューサーの母親の出身地が牛窓であったことが撮影地としたきっかけであり、またモノクロとしたのも行き詰った監督の相談に応えてプロデューサーが出した案だったという。

 そして、上映された本作は“観察映画”の手法が非常に効果を上げている優れたドキュメンタリーだった。岡山県南東部の牛窓は現在では瀬戸内市の一部、牛窓町だった頃の人口も1万人足らずの小さな港町だ。そこが122分のドキュメンタリーになるとは、いかにじっくり撮ったかわかろうというもの。人の営みはもちろん、猫や魚も美しい珠玉の“観察映画”だ。失われていく日本の暮らしと風景の貴重な記録ともなることだろう。

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 上映後に柏木プロデューサーと再登壇した想田監督は「カメラが揺れたりするのは、自分の限界や心理状態が出ていると思います。自分自身も観察対象の一つなのです」と語った。インタビュアーとしての監督やプロデューサーの声が入ったやりとりや、撮影行為が対象に及ぼす影響含め、丸ごとが映し取られているのも“観察映画”の魅力となっている。

 最初はワイちゃんという86歳の漁師から始まる映画だが、次第にクミさんというお婆さんの出番が多くなっていく。「あのお婆さん、クミさんは僕が何かを撮っているといつもフレームに入ってきて『なぜ話しかけてきたり、僕らをどこかに連れていこうとするのだろう』と最初はうっとうしかったのですが、邪魔すべきではないと思い直しました。実際、とても興味深い人でした」と想田監督は語る。

 柏木プロデューサーは「カメラ無しでは彼はそんなこと絶対しません。ああいう人からはいつも隠れています。でもカメラがあると人格が変わるのです」と想田監督のシャイな素顔も明かしていた。(取材・文:山口ゆかり / Yukari Yamaguchi)

第68回ベルリン国際映画祭は現地時間25日まで開催
映画『港町』は4月7日よりシアター・イメージフォーラムほかにて公開

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