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尾上克郎、大河「いだてん」で関東大震災を描く葛藤

第24回「種まく人」より
第24回「種まく人」より - (C)NHK

 NHK大河ドラマ「いだてん ~東京オリムピック噺(ばなし)~」(総合・日曜20時~ほか)で、VFX(視覚効果技術)スーパーバイザーを務める尾上克郎。最新VFXを駆使した本作について「この歳になって、こんな初めて尽くしの経験があるとは思わなかった。今まで日本ではやられていなかった新しい試みをしていることは間違いないと思います」と制作過程を振り返った。

 オリンピックをテーマに明治・大正・昭和を駆け抜ける本作。現在放送中の第2部は、主人公を第1部の日本で初めてオリンピックに参加したマラソン選手・金栗四三(かなくり・しそう/中村勘九郎)から田畑政治(たばた・まさじ/阿部サダヲ)にバトンタッチ。新聞記者ながら、日本水泳チームを束ね世界レベルに引き上げた田畑は、ロサンゼルス、ベルリン・オリンピックを経て、1964年の東京オリンピック招致に奔走する。インタビューには、チーフ演出の井上剛、VFXプロデューサーの結城崇史も同席した。

 尾上は、これまで戦隊ものをはじめ数々のドラマや映画の特撮を担当してきた。大ヒット作『シン・ゴジラ』の准監督・特技統括や、『進撃の巨人』実写映画版の特撮監督を務めたことでも知られる。

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 そんな経験豊富な尾上だが、4K HDR(高解像度・高輝度)でフル製作される本ドラマのオファーを受けた時は「これは大変な作業になると予想できた。本当に仕上がるのか、恐怖感があった」と話す。というのも、新フォーマットのHDRは、明暗の表現がきわめて繊細で、VFXにはまだノウハウがなかった。さらに、演出の井上から「CGののっぺりした画は好きじゃない。手作り感のようなものがほしい」という要望もあったそう。尾上は結城プロデューサーとも相談し「僕がフィルム時代から慣れ親しんだミニチュアを使ってはどうか。それにCGをプラスする方法で挑戦してみよう」と基本方針が決まった。

いだてん
第1回「夜明け前」に登場した、ミニチュアを駆使した日本橋

 第1回冒頭に登場した東京・日本橋の風景は、ミニチュアを駆使するVFXが見事に映えたシーンだ。「福島県須賀川市に協力いただき、ミニチュアのセットを組みました」と尾上。「写真や資料から割り出して(日本橋周辺の街並みを)再現するんです。金栗四三が上京する明治中期から大正初め、関東大震災の直前、震災復興後、昭和の戦後と、高速道路が完成する前後というように、各時代に分けて日本橋のミニチュアを作りました」と説明する。

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 そのミニチュア内に何か所か定点を決め、カメラを置いて360度を撮影。そのデータをもとにコンピュータ上に3次元空間を立ち上げ、のちに井上が撮影した役者たちの芝居を、その空間内にはめていく。必要なCGも加えつつ、こうして背景と演技がシンクロして動き出すようになる。

 「映画で部分的に使われたことはあっても、ここまで大々的にミニチュアをCGに組み合わせた例はあまりないんじゃないか」と尾上。その利点を「ビルの輪郭のライン一つとっても、ミニチュアは手で作ったリアルな歪みが重なって線になる。(場の雰囲気も)太陽光による自然な空気感が出せる。これはCGではなかなか出せない味わいだと思います」と話した。

 第24回で描かれた、1923年9月1日に発生した関東大震災も、瓦礫のセットをミニチュアで製作。また日本橋のミニチュア自体を汚したり、壊したりして、破壊された街のリアリティーを追求した。尾上はしかし、震災を描くにあたって留意したのは、単に瓦礫のリアリティーだけではなかったとも強調した。「このドラマでは、被災した人々がその後も生きていくことを表現しなければいけない。カタストロフのみならず、震災後の人々の心象風景を描くことが大切だった」

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 その言葉に大きくうなずく井上も、関東大震災の回では「作品の編集を終えても(本当にこれでいいのかと)、初めて悩みました」と吐露。「『VFXやCGをどのくらいの割合で使いますか?』と聞かれることがありますが、演出のしすぎで、意図しないことまで(視聴者に)届いてしまってもいけないと思う」と続け、「あまりにCGめいたものはやりたくないし、リアリティーは必要と思う反面、ダイナミックな群衆の熱狂のようなものをVFXで描きたいとも思う。どっちなんだと言われそうですが、その両方をギリギリのところでやっている」とVFXを使う意図、狙いを語っていた。(取材・文/岸田智)

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