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前田旺志郎、山田洋次組で余裕なし 17年のキャリアで「あんな感情は初めて」

前田旺志郎
前田旺志郎

 山田洋次監督最新作『キネマの神様』(8月6日公開)で、沢田研二演じるギャンブル好きのダメ親父・円山郷直(愛称:ゴウ)の孫を好演した前田旺志郎。2007年、実兄・前田航基と組んだ漫才コンビ「まえだまえだ」で注目を浴び、2011年、是枝裕和監督がメガホンをとった映画『奇跡』でその兄と幼いながらに主演を見事に務めた彼も、気がつけば20歳の青年に。子役から数えて、すでに俳優歴17年のキャリアを持つ前田が、かつて味わったことのない山田組独特の緊張感や撮影法、さらには徐々に「面白さを実感できるようになった」という俳優の醍醐味について真摯(しんし)に語った。

【写真】前田旺志郎、10年前の姿

志村けんさんを思う気持ちが山田組を1つに

 本作は、原田マハの同名小説を『男はつらいよ』シリーズなどの名匠・山田監督が映画化し、松竹映画100周年記念作品として製作された。全身全霊を傾けて映画制作に燃えていた若き日のゴウ(菅田将暉)、ギャンブル漬けで借金まみれ、酒の力を借りて現実逃避する現在のゴウ(沢田)の生きざまを笑いあり、涙ありで描き出す。故・志村けんさんの遺志を受け継いだ沢田が、破茶滅茶だけれど、妻を愛し、映画の神様を信じ続けるどこか憎めない主人公ゴウを、魂のこもった名演でスクリーンに焼き付ける。

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 名匠・山田監督の作品に参加し、「あんな感情になるのは初めて。まさに夢のような現場でした」と振り返る前田。「これまで培ってきたものがどこまで通用したかとか、山田組を経験してどれだけ成長できたかとか、そんなことを冷静に語れるほど、まったく余裕がなくて。ここまで緊張することも、ここまで必死になることも、なかなか経験できないこと。共演者の先輩方も、スタッフのみなさんも、現場での佇まい、働き方、動き方など違う次元にあるというか……20歳のこのタイミングで山田組に参加できたことは、すごく幸せなことでした」と声を弾ませる。

 新型コロナウイルスの猛威によって、主演の志村さんが亡くなり、撮影も中断に追い込まれるなど、山田組はさまざまな試練にさらされた。これをキャストの一員として経験した前田は、「コロナ禍に置かれたことで団結力が強まり、感染対策を徹底して撮影しようという意識が高まっていたように思います」と振り返る。「志村さんが亡くなられたことを口に出して話すわけではないけれど、それぞれが、それぞれの思いを持って現場に来られていたように感じます。そういった意味では、『志村さんを偲ぶ』という気持ちが皆を1つにつなげていたような気がします」と思いをめぐらせた。

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前田旺志郎を驚かせた山田監督の撮影スタイル

『キネマの神様』より主人公ゴウ(右・沢田研二)と孫の勇太(左・前田旺志郎)(C) 2021「キネマの神様」製作委員会

 前田が演じるのは、50年前にゴウが書いた「キネマの神様」という脚本をたまたま読み、その才能に再び光を当てようとする、引きこもり気味の孫・勇太。前田なりの解釈で勇太に命を吹き込もうと本読みに参加するが、さっそく山田監督から注文が飛んだという。「キャラクターの説明というよりも、『ここは少し間を空けて』『こういうリズムで言ってほしい』といったように、セリフの“音(強弱やイントネーション)”にこだわられていた印象があります。じゃあ、この言い方を成立させるためには、『どんなキャラクターであればいいのか』ということをスタッフさんと一緒に考えていく……そんな感じで、音から役をイメージしていきました」

 「よし、これでいける」と確信を持てるようになるまで、何度もテストを繰り返すという山田監督。役を固めてから“一発本番”で撮るという手法に前田は、驚きを隠せなかったという。「例えば、おじいちゃん(ゴウ)が50年前に書いた脚本を絶賛するシーン。勇太は、内側にすごく熱い感情を持っている青年なんですが、それを表現するために声の力や体の動きに頼りすぎてしまうと、山田監督から注意を受けるんです。かといって、抑えすぎても、心の熱さが見えなくなるし……そのあたりの調整は、本番前にこれでもか! というくらい何度も行いました」と山田組の厳しさを述懐した。

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高校受験のときに俳優を続けるのか自問自答

 「まえだまえだ」で大ブレイクし、子供時代は漫才師の印象が強かったが、実は3歳で子役デビューしており、俳優歴はすでに17年。兄・航基とともに映画やドラマで大活躍を見せているが、転機は高校受験の時だったという。「一度立ち止まって、将来のことを考えて自問自答したのですが、『俳優をやりたい』という思いがどうしても強かった。その理由はわからないけれど、『楽しい』『現場にいたい』という気持ちが漠然とあったので、だったらそれがわかるまで、あるいは逆に嫌いになるまで、とことんやってみてもいいんじゃないかと思うようになったんです」

 そんな前田も現在20歳。俳優の面白さが徐々に「実感できるようになった」と笑顔を見せる。「例えば、あるシーンの会話の中で、心が自然と動いて、ピュアな感情だけでお芝居できる瞬間が稀にあるんです。あらかじめ(演技プランを)つくっていくのではなく、セリフだけは『たまたま入っていた』くらいの状態で、手ぶらでフラっと現場にやって来て、共演者に思いきり身を委ねてみる。それに相手が反応し、返してくださったら、自分の気持ちを上乗せしてもう一度相手に返したり……。そういった、日常生活での会話では見えづらい感情の繊細な部分というのは、お芝居だからこそ湧いてくるものだと思うので、それを感じることができた時は本当に幸せですね」。残念ながら今回は、山田組についていくのが精一杯で、「お芝居を楽しむ余裕はなかった」と語る前田だが、「普段とはちょっと離れた場所に行けた」という貴重な経験は、俳優・前田旺志郎をさらに大きくしてくれることだろう。

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 沢田演じる主人公の孫にふんし、自身の祖父との思い出が頭に浮かんだという前田。「週末は必ずおじいちゃんの家に行って、テレビで『金曜ロードショー』を観て、翌日は一緒に日舞のお稽古をする。それが毎週のサイクルでしたね」。余裕がなかったと言いつつも、おじいちゃん子がにじみ出る本作は、そんな経験も無意識のうちに生かされているのかもしれない。(取材・文:坂田正樹)

前田旺志郎(まえだ・おうしろう)プロフィール
 2000年12月7日生まれ。大阪府出身。子役としてデビューし、2007年からは兄の前田航基とともにお笑いコンビ「まえだまえだ」として活動。俳優として活躍の幅を広げ、是枝裕和監督の映画『奇跡』(2011)では主演を務める。近年の作品に、ドラマ「猫」(2020)、連続テレビ小説「おちょやん」(2020~2021)、映画『うみべの女の子』(8月20日公開)、『彼女が好きなものは』(秋公開)など。

ヘアメイク:岩野靖広 スタイリスト:小宮山芽以

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