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松坂桃李 イメージに悩み、方向転換した20代

最新作で「最もハードルの高い役」に挑んだ松坂(撮影:高野広美)
最新作で「最もハードルの高い役」に挑んだ松坂(撮影:高野広美)

 緩急自在な芝居で、主演としても、助演としてもいまや日本映画界になくてはならない存在となった俳優・松坂桃李(33)。そんな彼が、日本映画界でも“妥協しない撮影現場”として数々の逸話を持つ李相日監督と映画『流浪の月』(5月13日公開)で初タッグを組んだ。過去、さまざまな役柄を演じてきた松坂をして「最もハードルの高い役だった」と言わしめたほど難易度が高く「身を削る感覚」にさいなまれた作品だという。なぜ松坂はそこまでして作品に向き合うのだろうかーー。

【写真】松坂桃李、役づくりで減量…

自分のキャリアの中で、最もハードルの高い役でした

松坂桃李

 賞レースというものが、俳優にとってどんなモチベーションになっているかは、人それぞれだと思われるが、近年松坂が出演した作品の多くは、映画賞で高い評価を受ける重厚な作品が多い。最新作『流浪の月』も、名匠・李相日監督の強いメッセージ性を含んだ、作家性の高い作品に仕上がっている。

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 松坂が演じるのは、ひょんなことから10歳の女の子・更紗を誘拐したことになり、逮捕されてしまう青年・佐伯文。二人は“犯罪”と呼ぶにはほど遠い感情で結ばれていたが、世間からは「ロリコンで凶悪な誘拐犯」というレッテルを貼られてしまう。劇中、文は多くを語らないが、心にはさまざまな感情がうごめく難役だ。

 松坂は「正直台本を読んでも、現場に入って演じていても、さらに現在に至るまで、果たして僕は本当に文のことを理解していたかどうか、自信がないんです」と率直な胸の内を明かすと「間違いなく、自分のキャリアの中で、最もハードルの高い役でした」と言う。

監督から「どれくらい体重落とせますか?」

松坂桃李

 そんなつかみどころのない役を、松坂はどのようにアプローチしていったのだろうかーー。「原作を読んだとき、漠然と文に対して、波風のまったく立っていない静かな湖の真ん中に、ポツンと体育座りをしているようなイメージがあったんです。李さんにその話をすると『なるほど』と共感してくださるようなリアクションをいただいたので、そのイメージを頼りに、手探りで進んでいきました」。

 文という人物を漠然とイメージできたものの、松坂が感じた文像を実際の生身の人間としてどう落とし込むか……ということには、具体的なアイデアは思い浮かばなかったという。だからこそ「文はコーヒー店を営んでいたので、コーヒーを焙煎から淹れる練習をしたり、文として日記を書いてみたり……。あとは李さんから『実際に撮影で使うアパートに寝泊まりしてみたら?』とおっしゃってくれたので、そこで時間を過ごしてみました」と分からないこそ、頭で考えるのではなく五感で感じるというアプローチを試みた。

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 また松坂は、原作を読んで「これは体重を落とさなければいけないな」と感覚的に悟ったという。李監督からも体重に関する話はあったが「○○キロまで落としてほしい」という言い方ではなく「どれぐらい体重を落とせますか?」という問いかけだった。「自分に委ねられるとプレッシャーですよね」と松坂は苦笑いを浮かべると「その話をしたのは、撮影に入る半年以上前だったと思いますが、『ここから李組は始まっているんだな』と感じました」と語る。

松坂桃李

 実際、かなりの減量を行ったことは、スクリーンに映し出された文を見ていれば一目瞭然だが「今回は、ただ体重を落とすのではなく、文という人物を考えると、植物的な感じにしたかったんです」とイメージを語る。クランクイン前に体重を落とすだけではなく、作品を通してその体重をキープする必要があったため「撮影期間ずっとその体重を維持するために食事制限もしていたので、体力的にきつかったですね」と撮影を振り返る。

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 しかし、減量よりも文と向き合う時間の方が、精神的にはきつかったという松坂。「文が抱えている真実と、周囲が文を見ている事実があまりにも違う見え方をしているので、その距離感をどう捉えるかと考えたとき、想像ができないような孤独があったと思うんです。それを自分のなかに落とし込み、向き合う時間というのは、体重をキープする以上につらかったです」。

20代半ばでマネージャーに方向転換を直訴

松坂桃李

 本作に限らず、松坂の役に向き合う姿は、ときには身を削っているようにも映る。特に映画では、メッセージ性の強い作品が多く、観ている側も「メンタルがすり減ってしまうのでは」と感じてしまう。

 「まあ病むまではいかないですが、撮影中は心身ともに削られてしまうことはあります。特に『流浪の月』では体重制限にプラスして、かなり内面に問いかける話でもあり……。内にたまったものを吐き出すこともままならない感じもあり、日常がどんどん浸食されていくような怖さもありました」。

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 こうしたチャレンジを続ける原動力になっているのはどんな思いなのだろうかーー。

 松坂は「20代半ばまでは、やっぱり作品も王道なものが多く、自分がどんなパブリックイメージを持たれているのかということも、なんとなく感じていました」と語ると「そのとき、事務所にとってはこのままのイメージを維持した方がいいのかなとか、でも自分はどうしたいんだろうとか……。かなり悩んでチーフマネージャーに『いままでとは違う毛色の作品と向き合ってみたい』と相談したんです。そこでしっかりと話を聞いてもらえて、グッと役柄の幅を広げる機会をいただいたんです」と自身のターニングポイントになったエピソードを明かす。

30代後半は「一つの作品にじっくり腰を据えて」

松坂桃李

 自身の強い思いで方向転換したことは、逆に言えば大きなプレッシャーにもなる。そこからはどんな難役でも、逃げずに極限まで向き合い、ときには身を削りながら俳優業にまい進。前述したように、数々の映画賞で松坂の演技は高い評価を受け、充実の30代を迎えている。

 一方で「でもあまり重い作品ばかりやっていると、だんだん自分自身の根が暗くなっていくような気がするんです」とつぶやくと「やっぱりバランスが大事。いまは毎年マネージャーさんと年間スケジュールを決める際に『緩急をつけましょう』と話しているんです」と笑う。

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 30代も半ばに突入する。松坂は「20代はがむしゃらに駆け抜けてきましたが、今回『流浪の月』の現場で、撮影前の準備期間をかなり設けてくださり、リハーサルを含め、監督とのディスカッションもたくさんさせていただきました」と語ると「撮影場所で寝泊まりしたのもそうですが、こうした時間のかけ方が、作品にどう作用するのかは未知の領域だったのですが、今回経験させていただき、とても充実した時間だったと感じたんです。今後は一つの作品にじっくりと腰を据えてやっていきたい」と30代後半に向けてのスタンスを述べた。(取材・文:磯部正和)

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