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是枝裕和ら映画監督有志、業界の環境改善を求める提言 日本版CNCが目指すものとは?

是枝裕和
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 是枝裕和諏訪敦彦内山拓也岨手由貴子西川美和深田晃司舩橋淳ら日本の映画監督有志による「日本版CNC設立を求める会」(通称:action4cinema)が14日、丸の内の日本外国特派員協会にて記者会見を開き、日本の映画環境改善を求める声明を打ち出した。

 今回の提言を行う「映画監督有志の会」は、日本映画の未来に向け、持続・発展を可能とするような新たな共助のシステムの構築を業界内により強く継続的に求めるべく、6月1日に「日本版CNC設立を求める会」を権利能力なき社団として設立したことを発表。運営費は会費と寄付でまかなうとしている。

 有志の会では、一般社団法人日本映画製作者連盟(映連)と1年以上、映画業界の労働環境改善を含んだ包括的な改革のために、フランスのCNC(国立映画映像センター)、韓国のKOFIC(韓国映画振興委員会)に相当する統括機関の設立を求めて協議を継続。今年3月18 日には「私たちは映画監督の立場を利用したあらゆる暴力に反対します」という声明を発表した。以降、文化庁や日本映画製作者連盟に対して、労働環境保全・ハラスメント防止に関する提言を行うなど、業界の改革に向けて活動してきた。

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 この背景には、コロナ禍によって窮地に立たされたミニシアターの現状に対して、根本的な解決をしなければいけないという思いも大きく、映画ファンによるクラウドファンディングによってミニシアターに一時的な支援も行われた。諏訪監督は「だが、また何かがあったら、クラウドファンディングに頼るんですか、と。本来なら業界が支えるべきなのに、日本映画界には互いに支え合う機関がないことがハッキリした。持続的に、恒常的に支えるシステムが必要だと感じた」ときっかけを明かす。映画業界に広がるハラスメントの告発が相次いでいることについて、西川監督は「団体設立はもともと進めていたもので、性被害の告発がきっかけではない」とのことで、ハラスメント根絶も含めた、広い意味での映画業界の環境改善を目標としたものだという。

日本版CNCが目指すものとは?

 日本版CNCが目指すものとして、軸となる四つの柱がある。一つ目は、若手の育成や海外研修・映画教育などを目指す「教育支援」。二つ目は、ハラスメント対策支援やジェンダー平等の促進などを目指す「労働環境保全」。三つめは企画開発・制作・国際共同製作などを支援する「製作支援」。そして映画館や配給・海外展開・ビデオ・配信などを支援する「流通支援」で、映画を持続可能な産業として、多様性を尊重する文化芸術として支援するような環境になることを目指すという。

 この日の会見では、映像業界で働くスタッフを対象としたアンケートが紹介された。「収入が低い」「労働時間が長すぎる」「仕事とプライベートを分けることができない」「この業界に将来性に不安がある」といった悩みのほか、半数近い48%が「なんらかのハラスメントを受けたことがある」と返答するなど、映画業界に広がる問題点があらためて浮き彫りとなった。

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 登壇した参加者で最年少となる内山監督も、若手の働き手がどんどん離職していく現状に危機感を抱く。「20代の仲間たちがどんどんいなくなっている。人手不足が続くと、若手が希望を持って入って来られなくなるというのが現状。映像の現場が持続可能ではなくなると感じています」とコメント。だが人手は足りないが、作品のクオリティーは維持したいとなると、そのしわ寄せは現場のスタッフの負担となる。「映画業界は多くのスタッフの犠牲で成り立っている。どんどん作り手がつぶされていくし、多くの映画人は声をあげられなくなってしまう。そんな業界ではあってはならない」

 岨手監督も「女性の場合は子育てをしながら仕事を続けられないというのがあります。子どもを持つことを諦める人もいますし、業界内で結婚したカップルだと、どちらかが仕事を諦めざるを得ない。だからこそ子育て支援を提言したい。しかし、大病や介護、生きているといろんな局面があるわけで、男女限らず当事者だと思う。今は個人の努力に頼っている状態だと思うので、下支えするのは必須だと思います」と訴えかける。

海外に比べ、圧倒的に足りない日本の映画支援

 フランスのCNCの仕組みは、観客や視聴者などが劇場・公共放送/ペイテレビ・ビデオオンデマンドなどのサービスに支払ったチケット・利用料の一部を徴収し、積み立て、それを企画・制作・配給・興行・海外セールスなどの関係各所に再分配するという仕組みだ。これにより、商業的には実現の難しい作品にも制作の機会が与えられる。実際にCNCのサポートで映画制作を行った経験を持つ諏訪監督も「CNCは単に多様性を守ろうというのではなく、産業としての持続性、芸術の持続性を守ろうという機関。融資してもらうのではなく、資金が循環していくことがポイント。日本も取り入れられるところもあるんじゃないか」と意義を説明。

 ちなみに2019年度におけるCNCの支援総予算は913億円(映画には410億円)。韓国のKOFICが269億円を支援しているのに対して、日本の支援額は80億円(映画には35億円)と、残念ながら充実した支援とは言いづらい状況がある。深田監督も「フランスの映画人や韓国の映画人と映画祭などで話した時に『君たちの国は助成金があっていいよね』と言ったら『何を言っているんだ。自分たちはこの制度を勝ち取って得てきたんだ』と。行政からのサポートを待つだけでは駄目だということ」と語る。

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 こうした説明を踏まえて是枝監督は「誤解されがちだけど、娯楽作品が稼いだお金でインディペンデント作品を作りたいわけではない。文化と産業、芸術とエンタメを分けるのではなく、基本的にエンタメに関わる人がちゃんと生活ができて、結婚して子どもができても離職せずに済み、老後も暮らせるような。日本の産業全体の問題かもしれませんが、そういう仕組みをどうしたらいいかということを考えていきたい。決して映連を敵にまわしたいということではないんです」と力説する。

映画業界を改善するためには業界が一枚岩になることが必要

 舩橋監督は「SAVE THE CINEMA の時に官庁と交渉することがあって、こういう支援をお願いしますといったら、それは映画業界全体の声なんですかと。そういう意味でも映画業界が一枚岩になる必要性があると思った」とコメント。是枝監督も「状況としては日本の予算って限られていて、配信の方が楽。だったら配信をやればいいじゃないかということで、一気に作り手が痩せていく状況がすぐそばにある。観る側からすると、それでもいいんじゃないの、という声も出てきかねないが、それはどうかなと思っています」と語る。

 その意味においては、今回の施策は映画製作配給大手四社の団体となる映画製作者連盟(映連)の協力などが必要不可欠となる。是枝監督は「業界の中で、誰にそういう話をしても、絶対に動かない、不可能だと言われ続けてきた。私たちは事務局の方とお話を続けてきましたが、ハッキリ言って、ここはまだ動きません。どう動かしていくかということを考えないといけない。もちろん映連の中でも考えを共有されている方もいらっしゃるので、その方たちが内部から動いていただくかということもあるし、味方をいかに増やしていくか、ということが大切になります」

 諏訪監督も「働き方改革の一環で、来年あたりから現場の環境を良くしていこうということに取り組まれることになり、現状、日本映画界の各団体は全部合意している。画期的なことだし、私たち評価しています。よりよい形にしていくために動き始めているという面もある。映連さんも話し合いのテーブルについてくれているので、希望は持っています」と今後の見通しについて語った。(取材・文:壬生智裕)

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