老後の資金がありません！ (2020)：映画短評

　人生100年時代、老後資金は2000万円が必要と言われながらも、給料が上がらないどころか実質的に下がり続けている現代日本。ただでさえ貯金もおぼつかない中、義父の葬儀に娘の結婚と大きな出費が重なり、さらに勤め先が倒産した夫と金銭感覚バブルな義母を抱えた平凡な主婦が、火の車になった家計をやりくりするため大奮闘する。お笑い芸人やタレントを配したバラエティ番組風の軽いノリは賛否あると思うが、庶民にとって切実なお金の問題にフォーカスした風刺コメディとして面白く出来てはいる。ただ、結局のところ着地点を含めて自助と共助に終始し、政治的な公助の視点がすっぽり抜けているのは片手落ちに思える。

珍しく周囲に振り回されるキャラを演じる宝塚出身の天海祐希に対し、毒蝮三太夫に化け、三谷幸喜と絡んだかと思えば、華麗に「ラストダンスは私に」を熱唱する御年87歳、SKD出身の草笛光子。2人の掛け合いに加え、会社が倒産したことで、30年ぶりに『地獄の警備員』と化す松重豊の飄々とした夫が笑いを誘う。とはいえ、飽きさせないことを徹底した挙句、効果音や字幕処理などの演出が、ほぼバラエティ番組と化し、そこが気になる人にとっては苦痛に感じるほどだろう。しかも、前半のお金の話と後半の義母の話がどうも噛み合っていないうえ、いくら伏線があったにしろ、夫婦が最後に取る選択が意外すぎて驚かされる。