桃源郷を見た

オランダの画家エッシャーの名が冠されたST.を「俺」の旗が通る。園子温とは「何度も原点回帰する作家」だと筆者は認識しているが、今回はワークショップという触媒を得ることで「極」まで突き抜けた。新人集団のきらめきが監督の細胞を活性化、いや初期化させたのか――。
「カメラは愛する奴に向けるんだろ!」(藤丸千)と、恋する8mm小僧のままのピュアネスやイノセンスが疾走する。業界風刺や騒乱も「祝祭」に包まれる。独自すぎる様式。フェリーニや寺山などの名も想起しつつ、レトロな郵便ポストが「夢」の可能性の回路となるA Sion Sono Film以外のどこにも存在しない世界。コロナ禍直前に撮影された奇跡。