残酷な神が支配する「ミューズ」論

『ミッドサマー』の北欧の村で見せた風貌、ほぼまんまで登場する現在のビョルン・アンドレセン――60代になった彼の私生活と、『ベニスに死す』の「落差」がまず差し出される。その巨大な隙間に、複雑に乱反射する光と影を必要以上に整理せず映したことで余りにも深い味わいを生んだ。
ヴィスコンティへの告発性も確かに含むが、タッジオという神話的アイコンが(クイーンの初期と並んで)70年代少女漫画の重要なインスパイア源となった歴史は池田理代子が明確に証言する。明治チョコのCMソング『永遠にふたり』など日本での騒乱の日々が甘い郷愁ともなっている辺り、厳しい運命を生きてきた者の詩情と両義性を象徴するのかもしれない。