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ニトラム/NITRAM (2021):映画短評

ニトラム/NITRAM (2021)

2022年3月25日公開 112分

ニトラム/NITRAM
(C) 2021 Good Thing Productions Company Pty Ltd, Filmfest Limited

ライター5人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4

相馬 学

“心の暴力”が横行する現代に見るべき力作

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

 オーストラリア史上最悪の銃乱射事件を起こした青年の物語。とはいえバイオレンスではなく、本作は心理のドラマに舵を切る。

 メンタル面の問題を抱える主人公は周囲に疎まれ、時には“のろま”とバカにされる。その点では同情すべきだが、一方で運転手の握るハンドルに助手席から手を伸ばしていたずらする火遊び的な危険行為も。観ていて“気持ちはわかる”と“やめておけ”が並走し、どちらに転ぶかわからない危うさがスリルとして機能する。

 大人のプライドと子どもっぽい邪心が混在する主人公像に血を通わせた、C・L・ジョーンズに、ただただ目を奪われる。世のマウンティングの構図も浮かび上がる、今見るべき力作。

この短評にはネタバレを含んでいます
なかざわひでゆき

なにが彼を大量殺人へと駆り立てたのか

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 1996年にオーストラリアのタスマニア島で起きた無差別銃乱射事件。ここでは、当時27歳だった犯人の若者が、死者35名という大量殺人を引き起こすに至った過程に焦点を当てる。幼少期から物事の分別が付かず、長じて社会に適応できない大人となったニトラム。愛情深い両親はそんな息子を理解できずに困り果て、周囲の人々も何をしでかすか分からない彼を敬遠するが、しかし最も悩み苦しむのは本人だ。普通になりたい。誰かに理解されたい。そんな彼を本作はことさら肯定も否定もせず、ましてや本人以外の誰かに原因を押し付けることもなく、徐々に魂が死んでいく若者を淡々と描いていく。これまでにあまりなかった視点の実録犯罪映画だ。

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

生き難き青年が「無敵の人」になるまで

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

『スノータウン』に回帰したようなジャスティン・カーゼル監督の豪州実録犯罪系だが、コロンバイン事件に着想を得たガス・ヴァン・サント監督『エレファント』からの影響が強いと思う。犯行に至るプロセスの注視。ぎりぎりの平穏が決壊していく日常的実感。当然『ジョーカー』にも接続できるだろう。

主演のケイレブ・ランドリー・ジョーンズが凄い。時折カート・コバーンに似て見えるが、モデルとなったマーティン・ブライアントとコバーンは共に1967年生まれ。同じ時代を生きた孤独な青年のイメージを重ね合わせたのかも。エッシー・デイヴィス扮するヘレンがテレビで37年版『スタア誕生』を観ている“ハリウッドへの夢”も切ない。

この短評にはネタバレを含んでいます
斉藤 博昭

ギリギリ節度を守って表現した、凶悪犯罪へ至る道筋

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

銃乱射に「至るまで」のドラマなので、観ながらつねに結末への引き金、そのタイミングへの緊張感に脳内が支配される。そんな感覚に陥らせながら、メンタル問題を抱える青年の悩める日常を、できる限り温かい目線で追っていく印象。ひとときの安らぎを得る女性との時間には、壮絶な運命が回避される期待もふくらむ。
こうして悲劇の予感と希望の間で心を千々に乱すのは、C・ランドリー・ジョーンズの強烈なのに、やり過ぎ直前の寸止めでこらえる演技のおかげ。内なる小さな獣を暴れさせつつ、猛獣は押しとどめる匙加減で、「変えたいけど、どうしていいかわからない」という主人公のセリフに狂おしいまでの説得力を与え、これぞ、プロの仕事!

この短評にはネタバレを含んでいます
平沢 薫

事件を起こした青年の心の動きを体感する

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 1996年、オーストラリアの観光地で起きた、死者35人、負傷者15人の無差別銃乱射事件を描くが、この映画が目指すのは、この事件の原因を分析することではない。映画は、この事件を起こした青年の心の動きを体感できるように創られている。あるとき、青年が鏡に映る自分の姿を見て抱く思いが、激しい苦痛ではなく、ぼんやりとした当惑の感覚であるところが、生々しく、胸に迫る。

 監督ジャスティン・カーゼルは『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』では青年が疾走する荒れた枯野を描いたが、本作では、やがて事件が起こる土地に溢れる柔らかな陽光と緑、海辺の穏やかな美しさをたっぷり映し出す。

この短評にはネタバレを含んでいます
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