音楽の不器用っぽさもまた黒澤譲り(笑)。

障子が開け放たれたまま右筆たちが並ぶ広間、その前面に降りしきる雨。寺の山門を正面から捉える矩形の構図。ぴしっとした空気を醸し出す端正な画面、デジタル変換されてはいてもはっきり判る35mm撮影に小泉尭史の帰還を強く思う。こんなにも公明正大を貫きつつ嫌味にならない彼のような作家は日本映画界にひとりくらい居ていい。チャンバラがないこの時代劇のクライマックスが、少年ふたりの交流とそこから派生する“敵討ち”だというのにもまた粛然とさせられるじゃないか。しかし演技者として出色なのは“いわば悪役”を演じる串田和美。悪い奴ではないのだが、のらりくらりと権力にくっついてのし上がった信頼のおけなさが絶妙。