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終戦のエンペラー (2012):映画短評

終戦のエンペラー (2012)

2013年7月27日公開 107分

終戦のエンペラー
(C) Fellers Film LLC 2012 ALL RIGHTS RESERVED

ライター5人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 3.2

森 直人

奈良橋陽子Pによる「合作」ワークの成熟点

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

プロデューサーの奈良橋陽子による一連の「合作」ワークの成熟点として興味深く観た。彼女が最初にキャスティング・ディレクターを務めたスピルバーグの『太陽の帝国』(87年)と対を成すような内容だが、『ラスト サムライ』『SAYURI』『バベル』と連なる国境を越えた仕事には、78年、作詞家として手掛けたゴダイゴの「ガンダーラ」に見られるようなユートピア(理想郷)志向が常に底流しているはずだ。

今回は日本側の戦争責任というテーマを直截に扱いつつ、ボナー・フェラーズ准将の公私混同とも呼べる精神的な理解と共感を軸とした構成を取っている。歴史的・政治的な観点からすれば確かに甘口ではあろう。

ただし史実に『ロミオとジュリエット』型の恋愛を絡める作劇は、例えば最近だとアンジェリーナ・ジョリー監督の『最愛の大地』(8月10日公開)でも使われている。彼女たちは「戦争」を男性原理として捉え、そこに対して「恋愛」を女性原理として配置し、“個と個のつながり”にラブ&ピースのパワーと可能性を託しているのではないか。ヒロインの初音映莉子、好演!

この短評にはネタバレを含んでいます
くれい響

それでもラブストーリーを描きたかった監督の真意

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

冒頭では、今では誰も語らない『シルク』の悪夢がよみがえりそうになったが、そこはピーター・ウェーバー監督作。“日本の伝統文化”に影響を受けていたレクターを描いた『ハンニバル・ライジング』の、というより、フェルメールの名画の“秘密をミステリアスに”描いた『真珠の耳飾りの少女』の、と言った方がしっくりくる安定感ある仕上がりだ。
『リンカーン』に続き、圧倒的な存在感を漂わせたと思えば、ときにキュートすぎるトミー・リー・ジョーンズ演じるマッカーサーからの命じられた極秘調査の合間に、かつての恋人の消息をたどるフェラーズ准将には首をかしげたくもなるが、監督は明らかに本筋よりもそちらのラブストーリーの方に興味があることが丸わかり。そのため、肝心な調査シーンはほとんど緊張感なく進んでいく…。
 そんな監督からも愛されたヒロインに“いつもの”おかっぱ頭&クールビューティな女優を選ばず、タヌキ顔の初音映莉子をキャスティングしたことは評価すべきだろう。

この短評にはネタバレを含んでいます
相馬 学

難しい題材をうまく料理した工夫と意欲は買い

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

 米国がいかにして天皇の戦争責任を追及したのかという、腰が引けかねない題材に取り組んだ製作陣の勇気は、まず評価されるべき。信仰や思想が複雑に絡み合っているので、こういうドラマは難しいものだが、調査を進める米軍将校の視点で話を紡いだのは正解だろう。ともすれば刺々しくなる物語でありながら、この実在の主人公と、架空の日本人女性とのロマンスを絡めた点は、物語をうまい具合にマイルドにしていると思う(これは評価が分かれそうだが)。
 一点気になったのは、この主人公が戦時、日本を爆撃した場所を指示する役職に就いていたということ。戦争の無益さを浮き彫りにするドラマであることは理解できる。欲を言えば、自身の手も汚れているという主人公の認識を示す描写が欲しかった……というのは日本の一観客の欲目だろうか。

この短評にはネタバレを含んでいます
清水 節

ラブロマンスは夾雑物だった

清水 節 評価: ★★★★★ ★★★★★

 製作者サイドは、戦後の焼け野原からの再生と、震災後の復旧復興を重ね合わせるべく、その原点となった歴史的一大イベントに焦点を当てたのだろう。

 戦争処理をめぐって向き合った天皇とマッカーサー。日本人による原作&プロデュースでイギリス人が監督したこのハリウッド映画は、責任者同士の初顔合わせまでの緊迫した道のりを淡々と描いていく。

 歴史に埋もれていた当事者に光を当て、すべては最後の一瞬のためだけにあるという構成も、やや日本寄りながらも両国の視点のバランスに配慮した演出も、好感はもてる。

 ただ、天皇の運命=日本の戦後を左右することになる主人公のラブロマンスが、本筋から浮きすぎている。原作に無いこのエピソードの挿入によって、彼女を愛することで日本人の心を知ったという図式が透けて見え、芸達者の熱演による迫真のドラマも、みるみるうちにテレビの期首特番レベルに単純化されてくるのだ。

この短評にはネタバレを含んでいます
なかざわひでゆき

夏八木勲はやっぱり凄かった

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

終戦直後の日本を舞台に、天皇陛下の戦争責任を調べる米軍青年将校の目を通して歴史の転換期を描く。日本人の心の拠り所としての天皇制度というものを外国人の先入観や偏見を極力排しながら描いていることは評価できるし、外国映画でありながら今の日本映画がなかなか踏み込めない日本側の大義名分を少なからず述べてくれているという点も面白いのだが、客観的に映画作品として見ると欠点が目立つ。なによりも、主人公の動機付けが日本人女性との悲恋というのがなんとも安っぽい。というか、嘘くさい。いや、実際に本物のフェラーズは終戦当時50歳近い中年男で、しかも妻と娘もいたというのだから、そもそもこのロマンス自体が嘘なのだ。もちろん、映画なのだから虚実入り混じっても一向に構わない。しかし本作の場合、この日本人女性アヤとの恋愛がフェラーズにとって日本文化を知る口実としてしか機能しておらず、結果的に女性客やカップル客を釣るための餌にしかなり得ていない。しかも、竹やぶでイチャついたり膝枕されてみたりと、アジア人フェチなヤンキー男の妄想に付き合わされている気分(笑)。それよりも、英語のセリフでも堂々たる演技と圧倒的な存在感を見せつける故・夏八木勲が素晴らしい。彼だけでも見る価値は十分。改めて日本映画界は偉大な名優を失ったものだと痛感させられる。

この短評にはネタバレを含んでいます
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