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楽園からの旅人 (2011):映画短評

楽園からの旅人 (2011)

2013年8月17日公開 87分

楽園からの旅人
(C) COPYRIGHT 2011 Cinemaundici

ライター2人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 3.5

今 祥枝

平和を願う巨匠からのシンプルで力強いメッセージ

今 祥枝 評価: ★★★★★ ★★★★★

これまでにも今日におけるキリスト教の意味を問い続けてきた、イタリアの巨匠エルマンノ・オルミ。取り壊される教会のキリスト像が下ろされるショッキングな冒頭は、この世の”神の不在”を示唆するかのようだ。こうした宗教的なメタフォーは随所に読み取れるしイスラム教やユダヤ教にも触れているが、ことさら難しく捉えて敬遠するのはもったいない。

絶望の中で老司祭は、それぞれ苦境にある不法入国者たちを受け入れていく。そこで一つの命が誕生するシーンがある。薄暗い教会堂に差し込んだ、一筋の陽光のような赤ん坊の無邪気な笑顔に、どの子供にとっても未来は明るいと信じられる世界であって欲しいと切実に思ったとき、ふと今の日本はそう信じられる社会だろうか?という疑問が頭をよぎった。これは決して遠い国の話ではないのだ。

社会の縮図とも言うべき不法入国者たちの人間模様を演劇的に描く一方で、老司祭は「善行に信仰は必要ない」との境地に至る。宗教や人種を超えて、他者を思いやる心。ただそれだけのことで、世界を今よりほんの少しよくすることができるのかもしれない。オルミが伝えるメッセージはシンプルで力強く、ストレートに胸に響く。

この短評にはネタバレを含んでいます
なかざわひでゆき

ヒューマニズムの原点に立ち戻り未来を見つめる

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

信者の減少で取り壊されてしまった教会を舞台に、苦境に立たされる老司祭と安住の地を探し求めるアフリカ難民たちの交流を描く。移民問題や宗教間対立など現代ヨーロッパ社会に渦巻く様々な不寛容を浮き彫りにしつつ、宗教というものの本来あるべき姿を含め、ヒューマニズムの原点に立ち戻って世界の未来を見つめた作品だと言える。

一幕劇風の脚本はともすると平坦で非映画的なものになりかねないところだが、その象徴的かつ寓話的な語り口と宗教画を思わせる荘厳なビジュアルイメージが見る者を惹きつける。御年82歳になるエルマンノ・オルミ監督の、虐げられた弱者に対する慈しみの心がじわじわと伝わってくるようだ。

ただ、決して万人に向けた分かりやすい映画ではないし、随所に往年の左翼リベラル的な古臭い理想主義が垣間見えることで若干の興醒めも否めない。どことなく’80年代の低予算アート映画のような印象を受けるのも、恐らくそのせいなのだろう。それでもなお、老境に差しかかった巨匠の次世代に対する遺言として、しっかりと受け止めたい作品ではある。

この短評にはネタバレを含んでいます
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