映像が彼女の詩そのものになろうとする

このモノクロ映像は、黒が濃い。黒の強さは、中世の銅版画を連想させる。主人公であるジプシー初の女性詩人が「父なる森よ 大いなる森よ」と呼びかけるその森は、黒く、深い。それが主人公の瞳の黒さと呼応する。
そして、森は大きい。画面の中でいつも自然は大きく、人々はごく小さく、顔も判別できない。夜の森の中で、人々が火を燃やして取り囲む情景は何度もあるが、常に森は大きく、火は小さく、人々も小さい。物語の時代は第二次世界大戦前後なのだが、映し出される風景はまるで中世の農民画のようだ。
映画には、主人公が書いた詩自体はごくわずかしか登場しないが、その代わりに、映像が彼女の詩そのものになろうとする。