勝負作、あるいは(緻密な計算がもたらす周到な奇跡)

いかにも「勝負作」で、実際勝利したのだから見事! イニャリトゥは『アモーレス・ペロス』から運命の悪循環を一貫して描いてきたが、同様の主題をアルトマン的諧謔の業界物として軽妙にスライドさせた。批評家とのバトルは『シェフ』に比べると極端だが、そのぶん爆笑!
『ゼロ・グラビティ』の宇宙空間をトリッキーなロングテイクに応用したルベツキのカメラは素晴らしいが、むしろ作品組成を象徴しているのはA・サンチェスのドラムスコアだろう。フリージャズ的な即興のようで、実は極めて緻密なアンサンブルの賜物。
思えば監督・撮影・音楽がメキシコ人。幻想と現実が混濁した表現はマジック・リアリズムの最新型とも呼べそうだ。