都市生活者たちのスケッチブック

2013年10月12日 森 直人 マイク・ミルズのうつの話 ★★★★★ ★★★★★

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マイク・ミルズのうつの話

優れた「都市映画」だと思う。マイク・ミルズ監督が『サムサッカー』と『人生はビギナーズ』の間に、東京で撮りあげたドキュメンタリー(完成は2007年)。抗うつ剤を服用しながら暮らす五人の男女にカメラを向けているが、良い意味で肌触りはフィクションと同じ。日常の風景に目線を溶け込ませ、生き難さを抱えた人々にそっと寄り添う“群像劇”。シンプルに見えて、丹念に描き込まれたスケッチブックだ。

また本作には“社会派”の顔もある。「心の風邪をひいていませんか?」との広告と共に、うつのカジュアル化を大々的に展開した製薬会社グラクソ・スミスクラインのビジネス戦略を撃つ視点だ。資本の流れに向けた風刺は、ソダーバーグの『サイド・エフェクト』とほぼ共通。生活者の足元を見つめ、掘っていったら、そこに巨大な政治性が横たわっていたという認識の回路は、グローバリズムの本質を探り当てたものだろう。

海外の映画作家が最もフラットに日本の現実を捉えた一本としても記憶しておきたい。個人的には市川準監督の諸作を連想した。『東京兄妹』や『ざわざわ下北沢』、『buy a suit スーツを買う』をまた観たくなったなあ。

森 直人

森 直人

略歴:映画評論家、ライター。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『21世紀/シネマX』『シネ・アーティスト伝説』『日本発 映画ゼロ世代』(フィルムアート社)『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「キネマ旬報」「メンズノンノ」「Numero TOKYO 」「映画秘宝」などでも定期的に執筆中。※illustrated by トチハラユミ画伯。

近況:YouTubeチャンネル『活弁シネマ倶楽部』でMC担当中。7月24日より、城定秀夫監督+平井珠生さん(『アルプススタンドのはしの方』)の回を配信中。ほか、田中圭監督(『島にて』)、内藤瑛亮監督(『許された子どもたち』)、諏訪敦彦監督(『風の電話』)、想田和弘監督(『精神0』)、深田晃司監督(『本気のしるし』)、豊島圭介監督(『三島由起夫vs東大全共闘』)、入江悠監督(『AI崩壊』)、タナダユキ監督(『ロマンスドール』)、岩井澤健治監督&大橋裕之さん(『音楽』)、片山慎三監督(『岬の兄妹』)と『パラサイト 半地下の家族』を語り尽くす特番、森達也監督&河村光庸プロデューサー(『i 新聞記者ドキュメント』)、小林啓一監督(『殺さない彼と死なない彼女』)、竹内洋介監督(『種をまく人』)、渡辺紘文監督&雄司さん(『普通は走り出す』など大田原愚豚舎の世界)、瀬々敬久監督(『楽園』)、今泉力哉監督(『アイネクライネナハトムジーク』)、二ノ宮隆太郎監督(『お嬢ちゃん』)、大森立嗣監督(『タロウのバカ』)等々を配信中。アーカイブ動画は全ていつでも観れます。

サイト: https://morinao.blog.so-net.ne.jp/

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