あなた、その川を渡らないで (2014)：映画短評

”寄り添って生きる”。
この言葉の重みを、これほど実感させてくれる作品はない。
98歳と89歳の夫婦の、結婚生活76年目。
カメラは冒頭、じゃれ合う２人を写す。ラブラブだ。
だが長生きした分、見たくない光景も多々見てきた。
乗り越えてきたであろう戦争。
子供12人のうち、６人が幼いうちに死去。
成長した子は、２人の世話を巡って目の前で罵り合っている。
そられを見ながら、２人はただ手を取り合い、涙を流す。
そうやって何度、慰めあってきたのだろう。

だが容赦なく別れの時間が近づく。
”看取る”
それは人の痛みや哀しみも全て引き受ける覚悟がないと出来ない行為なのだと気付かされた。

庭の落ち葉を掃く夫がいたずら心を起こして老妻に落ち葉をかけたり、夜間の用足し中に「怖いから歌っていて」と頼む老妻の願いを聞いて一生懸命にうたう夫。見ていて気恥ずかしくなるほど仲良しで、実にうらやましい。韓国では有名という老夫婦の生活を追う映像から伝わってくるのは、互いへの思いやりと愛情、そして素朴な生き方だ。不倫や離婚が珍しくもなくなり、愛情は永遠には続かないという考えが主流の今、夫婦だから愛し合って添い遂げるものという老夫婦の当たり前が美しい。途中、子供用パジャマを６枚購入する場面で老夫婦の認知度を疑ったが、それが再び登場する後半に号泣。古い慣習を守ってシンプルに生きるって憧れだわ〜。