サウジアラビアから不意打ちのような傑作

2013年11月22日 森 直人 少女は自転車にのって ★★★★★ ★★★★★

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少女は自転車にのって

「あの家の息子、爆弾を腰に巻いて自爆したんだって」「すっごく痛そう!」「神のためだから痛くないさ。天国で70人も妻を娶れるんだよ」――。

これが10歳の少年と少女の会話である。カジュアルな日常生活の中に、自爆テロの話題が普通に出てくる壮絶さ。映画文化に関しては全く未知だったサウジアラビアから、国内初の女性監督による勇気のかたまりのような画期作が登場した。

一見、物語構造は極めてシンプル。少女ワジダちゃんは友だちの男の子と遊ぶための自転車が欲しい。でも「女の子が自転車なんて!」と母親に反対される。イラン映画の『運動靴と赤い金魚』あたりを連想する設定だが、劇中に込められたイスラム社会背景の情報量が凄い。ワジダちゃんは民族衣装に身を包みつつ、足元はコンバースのスニーカー。ヘッドフォンで音楽を聴き、自宅では父親と一緒にテレビゲーム。西洋型の文明を部分的に享受しつつ、独特の因習や戒律に呪縛される混沌が常に画面の中で示される。

女性、子供の在り方は、特に保守的な社会において「未来」を規定する。本作の肝は新しい価値観がせり上がってくる時の緊張感だろう。日本でも多くの観客に届いて欲しい一本だ。

森 直人

森 直人

略歴:映画評論家、ライター。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『21世紀/シネマX』『シネ・アーティスト伝説』『日本発 映画ゼロ世代』(フィルムアート社)『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「キネマ旬報」「メンズノンノ」「Numero TOKYO 」「映画秘宝」などでも定期的に執筆中。※illustrated by トチハラユミ画伯。

近況:謹賀新年! YouTubeチャンネル『活弁シネマ倶楽部』でMC担当中。2月21日より、今泉力哉監督&冨永昌敬監督(脚本/『あの頃。』)の回を配信中。ほか、山田篤宏監督&若葉竜也さん(『AWAKE』。SYOさんとのダブルMC)、片山慎三監督(『そこにいた男』)、井筒和幸監督(『無頼』)、内山拓也監督(『佐々木、イン、マイマイン』)、二宮健監督(『とんかつDJアゲ太郎』)、佐藤快磨監督(『泣く子はいねぇが』)、渡辺紘文監督&雄司さん(大田原愚豚舎の世界Vol.2)、黒沢清監督(『スパイの妻』。月永理絵さんとのダブルMC)、原一男監督&島野千尋プロデューサー(『れいわ一揆』)、行定勲監督 feat.東紗友美さん(『窮鼠はチーズの夢を見る』)、足立紳監督(『喜劇 愛妻物語』)、荒木伸二監督 feat.SYOさん(『人数の町』)、城定秀夫監督&平井珠生さん(『アルプススタンドのはしの方』)、田中圭監督(『島にて』)、内藤瑛亮監督(『許された子どもたち』)、諏訪敦彦監督(『風の電話』)、想田和弘監督(『精神0』)、深田晃司監督(『本気のしるし』)、豊島圭介監督(『三島由起夫vs東大全共闘』)、入江悠監督(『AI崩壊』)、タナダユキ監督(『ロマンスドール』)、岩井澤健治監督&大橋裕之さん(『音楽』)等々を配信中。アーカイブ動画は全ていつでも観れます。

サイト: https://morinao.blog.so-net.ne.jp/

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