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キャプテン・フィリップス (2013):映画短評

キャプテン・フィリップス (2013)

2013年11月29日公開 134分

キャプテン・フィリップス

ライター4人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4

清水 節

時事的テーマを盛り込み海上救出アクションに仕立て上げた秀作

清水 節 評価: ★★★★★ ★★★★★

 記憶に新しいソマリア沖で起きた海賊襲撃事件の映画化だが、あくまでも息詰まるエンターテインメントを志向している。生命を脅かされた状態下、如何に生き残るのか。4人の海賊を同時に射殺することなど可能なのか。プロセスを丹念に積み重ねる。事実に基づくだけあって展開は一筋縄にいかない。大海原での攻防戦や人質が味わう恐怖のリアリティをドキュメンタリータッチで描いていく。ポール・グリーングラス監督は多用してきた手持ちキャメラによる画面動を抑え気味にし、俳優に委ねた。トム・ハンクスを極限状況に追い込み、表情の変化で絶望と希望を巧みに表現する。
 
 金を収奪しようとする海賊を単純な悪として描いていない。漁師だった男たちが、生活のために海賊になってしまった事実にも触れる。しかし彼らの正当性を認めることなく、人間の愚行として客観視する姿勢は、マスコミ報道よりもニュートラルにさえ映る。トム・ハンクスの演技的見せ場は最後の最後に訪れる。徒手空拳サスペンスに始まり、孤立無援サバイバルを経て、海上救出アクションへ到る。時事的テーマを素早く盛り込み、娯楽活劇に仕立て上げた秀作だ。

この短評にはネタバレを含んでいます
相馬 学

現実味のある実録劇か? はたまたスター映画か!?

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

 ポール・グリーングラスがリアリティを重視する監督であることは、映画ファンには周知の事実。『ボーン・アルティメイタム』のようなアクションも、『ユナイテッド93』などの実録ドラマも、そこに宿る現実味に圧倒される。後者の部類に入る実話ベースの本作も、リアリティが緊張感を醸しだす力作だ。

 手持ちカメラで物事を的確にとらえ、瞬時に何が起こっているのかを観客に理解させるグリーングラス独特の撮影スタイルは健在。船長の指示、それに従う船員たちの動き、海賊たちの戦略や力関係といった要素が無駄なく積み重ねられ、スリルの渦に引き込む。ソマリア海賊の背景をきちんと描いている点も好感度大。彼らを断罪せず、物語を単に勇気ある船長の美談に終わらせない点にもグリーグラスらしいバランスの良さをうかがわせる。

 こういう現実的な映画で往々にして問題となるのは、非現実的であるスターの存在。そういう意味では、トム・ハンクスというメジャー過ぎる人気俳優の起用は賛否が分かれるところだろう。主人公がフィリップスに見えるか、ハンクスに見えるか? スター映画のイメージにとらわれ過ぎないことをお勧めしたい。

この短評にはネタバレを含んでいます
くれい響

監督の作家性とエンタメ性の融合に成功

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

 ソマリア海域人質事件を、『ユナイテッド93』も手掛けたドキュメンタリー出身のポール・グリーングラスが監督するのはとても自然な流れである。とはいえ、同じ実話の映画化、しかも、同じ極限状況に追い込まれた人間を描いた作品でも、ノースターだけで固めた『ユナイテッド93』とトム・ハンクスを主演に据えた本作とでは、監督の狙いは若干違う。

 あくまでも、本作はハンクス目的の一般客向けに、ソフトな作りを心掛けたといえるだろう。手持ちカメラのブレも少なく、フィリップス船長と彼を人質にしたソマリア人青年との交流を描いたドラマも強め。後半、ネイビーシールズの救出作戦も、唯一の失敗作『グリーンゾーン』での反省点を踏まえた作りになっている。

 そんな監督の作家性とエンタテイメント性の融合という意味では、本作は成功といえるだろう。本作で“『ボーン』シリーズの人だけではない監督”と感じたら、尋常じゃないほどハードな出世作『ブラディ・サンデー』でド肝を抜かれてほしい。

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

まるで『仁義なき戦い・ソマリア沖死闘篇』!

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

トム・ハンクスが「生きて還る」といっても、『キャスト・アウェイ』的な自力サバイバルを想像すると様子が違う。なんせ人質なので基本的に「耐える」のみ(笑)。しかし主演が地味なぶん、作品を牽引するのはひたすらポール・グリーングラス監督の圧巻の演出力だ。『ユナイテッド93』や『グリーン・ゾーン』で組んだ撮影監督バリー・アクロイド(彼はもともとケン・ローチ組)との名コンビで、匠の域に達したドキュメンタルなカメラワークを武器に2時間14分を一気に駆け抜ける!

実録物の活劇として、ある種海洋版『仁義なき戦い』のよう。コレを感動の美談として読解するのは勝手だが、作品自体は決してヒロイズムを謳っていない。ソマリア側の描写の充実、常にアメリカを対象化する視点の切り返し。なるだけフラットな「世界情勢の縮図」であることに務めた描出は、娯楽映画魂の沸騰でありつつ、特定のイデオロギーに左右されないジャーナリスティックな姿勢の表出でもある。

筆者はグリーングラスを「第二のジョン・フランケンハイマー」だと思ってきたが、もはやその形容は失礼。『ボーン』シリーズを経て、独自に高性能な映画作家&職人へと成熟したようだ!

この短評にはネタバレを含んでいます
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