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スリー・ビルボード (2017):映画短評

スリー・ビルボード (2017)

2018年2月1日公開 116分

スリー・ビルボード
(C) 2017 Twentieth Century Fox

ライター10人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.9

なかざわひでゆき

トランプ時代の世界を風刺しつつ希望の光を宿す

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 これはトランプ時代のアメリカを、そして世界を俯瞰で捉えた作品と言えるだろう。警察の怠慢を批判する看板広告が大きな波紋を呼び、怒りが怒りを、悪意が悪意を、ヘイトがヘイトを招いていく。アメリカの片田舎の小さな町が、そのまま現代社会の縮図となるのだ。
 しかし、本作はそんな愚かで不完全な人々を断罪したりなどしない。誰もが心の傷や痛み、ままならない現実への不満や怒りを抱え、それが負の連鎖を巻き越していく。ほんの少しでも他人を思いやり、共感し、寛容になることが出来れば、世界は変わるかもしれない。そんな希望の光も宿している。重いテーマの中にブラックなユーモアやさりげない優しさを織り交ぜる語り口も絶妙だ。

この短評にはネタバレを含んでいます
相馬 学

絶品の演出と演技で描かれる、悪意という名の町

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

 娘を惨殺された母の怒りが看板で表明されたとき、別の怒りが町中で湧き上がる。悪意が悪意を呼ぶ構図。そこに緊張感をみなぎらせ、ふくらみのある人間ドラマを描く。マーティン・マクドノー監督の適切な演出が、とにかく素晴らしい。

 脚本も見事で、人物描写はもちろん、中盤のある死亡事故の直後から話がピーンと張り詰め出す展開も絶妙。さまざまなキャラクターの激情が物語を動かす、巧みなつくりに唸った。

 俳優陣のアンサンブルも文句のつけようがない。F・マクドーマンド、S・ロックウェルが全米映画賞を席巻しているが、他にも印象深い演技を見せる俳優は多く、各々のキャラでスピンオフ作品が作れそうな気がしてくる。

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

いまさらながら文句なし

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

もともと英国演劇界の旗手として登場したマーティン・マクドナーが、ここまで見事な「アメリカ映画」を撮ったことに激しく感動する。しかもその達成を支えるのは、米国のローカルな地理性に世界を覆う諸問題を圧縮する「外部」的視座だろう。ミズーリ州の田舎町に出現する『赤い影』ならぬ赤い看板が発火点となり、地獄の業火が燃え上がる。

圧巻のマクドーマンドとロックウェルが当然にも賞賛を集めているが、キーパーソンはハレルソン扮する署長。彼がもたらす「愛」や「赦し」の観念を、負の連鎖に放り込んで鎮静化の可能性を見定める思考実験。ニューシネマがヴェトナム戦争の泥沼化を背景としていたように、まさに反トランプの沸騰だ。

この短評にはネタバレを含んでいます
清水 節

不確かな人間の本性を見事に捉え、アカデミー賞作品賞に最も近い

清水 節 評価: ★★★★★ ★★★★★

 この田舎町は世界の縮図だ。娘を殺害され犯人を捕まえられない警察への怒りを、母が巨大な屋外広告で訴える冒頭のインパクト。負の情念がメディアで拡声され、権力が重い腰を上げる。善悪に色分けせず、物語は一筋縄ではいかない。署長ウディ・ハレルソンは人情味あふれ、巡査サム・ロックウェルも根っから粗暴ではなく、母フランシス・マクドーマンドは被害者意識が極まって反社会的な行動に出る。安易な感情移入を拒む脚本は、不確かで複雑怪奇な人間の本性を見事に捉えている。人間の弱さや愚かさが醸し出す、笑いの中の哀しみ。そして彼らは未熟さや不寛容に思い至る。この豊穣な人間ドラマこそ、本年度アカデミー賞「作品賞」に相応しい。

この短評にはネタバレを含んでいます
中山 治美

見事に浮かび上がる町、人、社会

中山 治美 評価: ★★★★★ ★★★★★

タイトルが示す通り、娘を殺害された母親が広告看板に掲げた警察への捜査批判から物語が始まる。
そこから徐々に露わになる事件の概要と町の骨格。
当然だが私たちはこの町を知らない。
なのに地形までもが見えてくるような、実に優れた脚本だ。
この町を”知っている気”にさせるのは、私たちの身近にもある社会であることも大きい。
暴力で他者を封じ込める者、親子の確執、暴走する正義。
憎しみの連鎖をどう止めるのか。
現代の難問に一筋の光を提示するかのようなラストまで完璧。

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山縣みどり

多くの要素を見事にまとめた監督の辣腕に拍手

山縣みどり 評価: ★★★★★ ★★★★★

娘を殺害した犯人が逮捕されないことに憤った女性が起こした行動が小さな町に波紋をもたらす様子がリアルだ。事件解決ではなく、被害者の母親と警察署長と暴力的な部下の人生に焦点を当てたことで優れた人間ドラマとなった。脚本も書いたM・マクドノー監督は、レイプ殺人という悲劇を軸に怒りと復讐と後悔、母子関係、ダメ男の成長や人種差別問題、帰還兵のトラウマや贖罪といったエピソードを上手にまとめて観客の心をグイッとつかむ。ブラックな笑いがあちこちに忍ばせてある上、警察署に火炎瓶を投げ込む過激なヒロインをF・マクドーマンドが演じているせいで一瞬コーエン兄弟作と思い込んだ。コーエン兄弟のファンもきっと満足なはず。

この短評にはネタバレを含んでいます
くれい響

この転調がジワる!

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

前作『セブン・サイコパス』ではタランティーノと北野武好きの、ありふれた監督だったマーティン・マクドナーが大化け! フランシス・マクドーマンド+田舎町といえば、コーエン兄弟の十八番だが(しかも、音楽はカーター・バーウェル)、本作でも個性的なキャラを通じて人間の滑稽さを描くユーモアに、独特なリズムと共通点が多い。とはいえ、最大の魅力は、南北戦争の激戦地だったミズーリ州の過去を思い起こさせるお隣戦争から、予想通りサム・ロックウェル暴走なイヤミスになるかと思わせて、ヒューマン・ドラマへの転調である。脚本だけでなく、演出・役者の芝居の巧さが三位一体となった“赦し”の物語は、後でジワること請け合いだ。

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平沢 薫

過激な行動の背後に細かな心理の襞がある

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 主人公の過激な行動に目を奪われがちだが、特殊な個人の物語ではなく、実はそれぞれに問題を抱えた人間たちの群像劇。画面に映る時間が短い人物たちも、単純ではない思いを抱えている。そもそも主人公の、死んだ娘の事件を解決するための過激な行動も、娘への愛情のみから発したものではない。そんな人間心理の複雑な襞が、日常的な場面の中で丹念に描写されていく。そのための演技派俳優の大挙出演かと納得がいく。
 それでいてドラマが重くなりすぎないのは、随所で光る主演のフランシス・マクドーマンドのユーモア感覚と、常にこの町に降り注ぐ陽の光のせいだろう。最後に広がる光景にも、その陽光が満ちている。

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斉藤 博昭

映画ファンにも、これは「初体験」レベルの作品となる

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

ある程度、映画を観続けている人は、新作に接してもだいたい予想の範囲内で展開されることに気づく。しかし、ごく稀に、不意打ちの衝撃を受ける作品に出くわす。これはそんな一作となるだろう。

主人公の過剰な執念と、すべてのキャラクターに宿る人間らしさが、善悪のレベルを超えて渦巻きのように混ざり合う。物語はとことんダークなサスペンスで、生死ギリギリのアクション場面もあるのに、これほど笑える作品も珍しい。ジェットコースターのような緩急と勢いで突き進む、この快感! これぞ映画の醍醐味! 物語の知識は基本設定だけで止め、まっさらな気持ちで向き合えば、極上の後味を得られると断言したい。

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猿渡 由紀

ブラックなユーモアの奥で語られる、“許す”ことの美しさ

猿渡 由紀 評価: ★★★★★ ★★★★★

主人公(フランセス・マクドーマンド)は、娘を殺した犯人を警察が挙げられないことに強い苛立ちをもつ母。口も態度も悪い彼女が、看板広告で警察のチーフ(ウディ・ハレルソン)を個人攻撃した時、彼の部下(サム・ロックウェル)は激怒。彼は、上司に忠誠心こそあれ、ろくに仕事もせず、いまだに母親と住んでいるダメ男だ。そんな彼らが衝突しあう中では、数々のダークなユーモアが生まれるが、予測のつかない物語が終わった時、残るのは、温かなフィーリング。そして思わず、「許す」ことについて考えてしまう。ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、ルーカス・ヘッジスら、その他の出演者も光る。

この短評にはネタバレを含んでいます
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