愚かさと可笑しみを包む神々しさに達したホン・サンス映画の境地

あらゆる映画が作為的に思えてくるほど、ホン・サンスの描く男と女は、ありのままであからさまだ。たわいない会話、痴情のもつれ。上昇することなく、ただぐるぐると、ありふれたみっともない行状を繰り返し、その円環が閉じることはない。高名な評論家にして出版社社長である中年男は、高等遊民よろしく、どこか浮遊する存在。女性を前にして、打算に満ち情けないその言動は、監督自身の自虐的な自画像であるばかりでなく、ほぼすべての男性性の正体であろう。露わになる男女の本性と対照的なのが、諍いから距離を置くキム・ミニの圧倒的な美しさ。愚かさと可笑しみを包む神々しいまでの眼差しは、螺旋を天空から見下ろすかのようだ。