ADVERTISEMENT
どなたでもご覧になれます

幸福なラザロ (2018):映画短評

幸福なラザロ (2018)

2019年4月19日公開 127分

幸福なラザロ
(C) 2018 tempesta srl ・ Amka Films Productions・ Ad Vitam Production ・ KNM ・ Pola Pandora RSI ・ Radiotelevisione svizzera・ Arte France Cinema ・ ZDF / ARTE

ライター4人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.5

山縣みどり

現代イタリアが抱える問題点を浮かび上がらせる寓話

山縣みどり 評価: ★★★★★ ★★★★★

主人公の名前がラザロなのでキリスト教の奇跡が関係する物語と予想したが、奥深い問題に切り込んだ社会派の寓話だった。傑作! スタートしてしばらくは「いつの話?」と思い、幼児をからかう大人の醜悪な言動に唖然として虐待テーマかと先走った。無欲なラザロは善意の愚者として存在するが、その意義は? 地主の公爵夫人の登場で疑問の背景が明かされるやドラマと時計の針が一気に進む。搾取されながらも他人を搾取する人間の本質とは? 自由の代償とは? A・ロルヴァケル監督の知的な演出で次々と疑問が頭に浮かぶ。純真無垢な瞳が印象的なラザロが本当に幸せか否かは、見る人の考え方によって変わるはず。

この短評にはネタバレを含んでいます
なかざわひでゆき

今も昔も貧しい庶民は虐げられ続けるだけなのか?

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 人里離れたイタリアの田舎、公爵夫人の領地で前近代的な貧しい生活を送る小作人たち。一体いつの時代の話かと思ったら、公爵夫人の放蕩息子が携帯電話やウォークマンを持って登場する。これ、イタリアで実際に起きた出来事を基にしているのだが、公爵夫人が小作人制度の廃止を農民たちに教えないまま搾取していたのだ。で、事実を知った農民たちが村を去り、たった一人残された若者ラザロが、ある約束を果たすために都会へ出る。そこで再会したのは、競争社会から脱落したかつての村人たち。聖人の如く無私無欲の純朴なラザロが彼らの荒んだ生活にささやかな奇跡を起こす。近代化で人間は何を得て何を失ったのか?含蓄に富んだ現代の御伽噺だ

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

意識的に「イタリア映画」の命脈をつなぐ

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

伊映画の優等生的な嫡子、アリーチェ・ロルヴァルケル監督。まだ長編三作目ながら前作『夏をゆく人々』からの飛躍が大きく、今回は傑作の域ではないか。ベースは実際の事件と福音書の挿話「金持ちとラザロ」の接続。全体は『イワンのばか』的な無垢なる聖人譚を経済競争のシステムにぶつけた風刺劇に仕上げている。

ヴィスコンティの『山猫』でA・ドロンが演じた貴族の青年タンクレディが役名として引用されているが、下層に密着したネオレアリズモと神話性の融合は初期パゾリーニを連想させるもの。フィルム(スーパー16mm)撮影も含め、デジタル化に抵抗するオーガニックシネマの趣。ラザロ役(染谷将太っぽい)など役者もみんないい!

この短評にはネタバレを含んでいます
猿渡 由紀

いつまでも考えさせ続ける、現代の神話

猿渡 由紀 評価: ★★★★★ ★★★★★

「幸福な」とあるこの映画は、決して幸福な気持ちにはさせない。階層に関係なく、人の良さにつけ込む人はどこにでもいることを出だしから見せつけるし、搾取しあうのが人間社会だというようなセリフも出てくる。映画の前半と後半で舞台が大きく変わるのだが、どちらにおいても、主人公ラザロと彼を取り巻く人々は厳しい状況にいる。そんな中でもラザロは純粋さを失わず、老けることもしない。彼は天使のようで、これはまさに現代の神話だ。そして神話がそうするように、今作は奥深いところで語りかけてくる。それが何なのか、映画が終わった後も、きっと考えることをやめられないはずだ。

この短評にはネタバレを含んでいます
ADVERTISEMENT

人気の記事

ADVERTISEMENT

話題の動画

ADVERTISEMENT

最新の映画短評

ADVERTISEMENT