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COLD WAR あの歌、2つの心 (2018):映画短評

COLD WAR あの歌、2つの心 (2018)

2019年6月28日公開 88分

COLD WAR あの歌、2つの心

ライター6人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.5

ミルクマン斉藤

映画史上稀有なラストシーン出現。

ミルクマン斉藤 評価: ★★★★★ ★★★★★

前作『イーダ』と同じく、美しいスタンダード・モノクロームだが、今回は音の止む暇がないほど歌に満ち溢れた音楽映画。しかしそれも主人公ふたりのどうしようもない宿命的愛の媒介物に過ぎない。タイトルの「冷戦」とはもちろん、個人的関係が社会や体制の力で蹂躙され分断された時代を意味するが、それとともに、常に相手を強く強く想いながらも他の異性とも関係を結ばざるを得なくなり、結果、愛と憎しみのはざまで生きていく彼らの心の状態の謂でもある。共産主義体制下の民族舞踊団を描いた傑作といえば中国の『プラットホーム』『芳華 Youth』があるけれど、本作にいちばん近い映画となれば間違いなく成瀬巳喜男の『浮雲』である。

この短評にはネタバレを含んでいます
なかざわひでゆき

モノクロの映像美に酔いしれる東西冷戦下の悲恋ドラマ

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 東西冷戦下の’50~’60年代を舞台に、音楽のため祖国ポーランドを捨てた男性ピアニストと、その恋人である女性歌手の悲恋が描かれる。西側と東側を行き来しつつ、どのどちらでも幸せになれない2人。イデオロギーやアイデンティティを超えた愛と絆が試される。当時のルイ・マルやアントニオーニを彷彿とさせるモノクロ映像が美しく、民謡とジャズにアレンジを変えて使用される挿入歌も哀しく切ない。ちなみに、主人公が’57年のパリで音楽スコアを担当するイタリアのホラー映画は、恐らくイタリア初の本格ホラー『I Vampiri』が元ネタと思われる。同作の音楽を手掛けたのは、やはり東欧ルーマニア出身のロマン・ヴラドだった。

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平沢 薫

ひとつの曲が時代と土地を経て変わっていく

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 ひとつの曲が、時代と土地の変化に沿って、さまざまな形に変貌していく。ポーランドの素朴な民謡が、パリのクラブでしっとりとしたシャンソンとして歌われる。そのような形で、音楽というものの持つ力をそのまま提示する音楽映画でもある。その力は"変化し続けていくこと"の持つ力でもある。
 そのように姿を変えて持続していく音楽と並行して、歌手の女性とピアニストの男性の恋愛がさまざまに形を変えていくさまが描かれていく。それは予測しなかった形に変わりつつ、しかし消えることはない。
 時代も世界も変わる中で、映像が終始モノクロの端正で硬質な手触りを持続して、変わるものと変わらないものを際立たせる。

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くれい響

出会ってしまった男と女の15年愛

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

モノクロ映像に、1:1.33の画面アスペクト比は、パヴェウ・パヴリコフスキ監督の前作『イーダ』と同じだが、カメラを動かしたことで、ストーリー展開とキャラクターの静かな躍動感が大きく異なる。子猫のように気難しいヒロイン・ズーラのみなぎる生命力が表現され、彼女にスターの才能を見出したピアニストは、彼女と時代に翻弄されていく。2人の音楽を巡る15年愛を描きながら、尺は前作より6分長いだけの88分。余計な説明ゼリフやカットもなし。それだけに、台本における行間やシーン間を読む面白さもあり、ラストカットまでゾクゾクするほど刺激的。ちなみに、「オヨヨ」と、桂三枝の顔が頭に浮かぶのは最初だけ!

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森 直人

発熱状態の傑作

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

今年有数の一本。パヴリコフスキ監督の前作『イーダ』では往年のポーランド派の模造っぽいノリが引っ掛かった筆者も、今回は実力に襟を正した。音楽が圧巻。民謡やジャズ、「ロック・アラウンド・ザ・クロック」まで、多彩な選曲が激動の史実と個の情念が絡むモノクローム画面に炸裂する。

ボーイ・ミーツ・ガールの起点が国立の音楽舞踏団――って処で文公団から始まる中国映画『芳華』を想起したが、あちらの大衆映画然とした鷹揚さと異なり、1949~64年を語る高密度な話法は前衛的テンションに満ちている。溝口や増村感も。本作の生命線、「スラヴのスカーレット・ヨハンソン」と呼びたくなるヨアンナ・クーリグの色獣ぶりが凄すぎ!

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斉藤 博昭

筆舌に尽くしがたい、超A級の美しさ

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

前作『イーダ』も幻想的で繊細なモノクロ映像で引き込んだパヴリコフスキ監督だが、今回はその比ではない。ハイライト(白)部分の光の変化や、ブラック部分の深みの組み合わせに、究極の芸術品を目指した美しさが宿っている。とくにステージやナイトクラブでの照明を生かした濃淡の効果には、ため息が何度も漏れた。

キーポイントになる曲が、牧歌風、ジャズ風、マズルカ風などシーンに合わせてアレンジされ、その「オヨヨ〜」という歌詞の脳内リフレインも快感。国の情勢に左右される男と女の運命は激しくも痛々しく、愛の本質がここにある。ひたむきさと燃える心を体現する男は素顔の監督にそっくりで、まさに「作家の分身映画」となった。

この短評にはネタバレを含んでいます
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