CLIMAX クライマックス (2018):映画短評
CLIMAX クライマックス (2018)ライター3人の平均評価: 4.7
バッドトリップな『シャイニング』
キメキメで圧巻なノンストップ・ダンスに続き、上下反転など、相変わらず観る者の不快感を煽りまくる演出を用意するギャスパー・ノエ監督。ブラックな味付けで「取り返しがつかないこと」を訓える啓蒙映画にして、「誰がサングリアにLSDを盛ったか?」を巡るミステリー。トランス状態に陥りながら疑心暗鬼になった人物描写はあまりにもリアルで、雪山の密室空間で展開される悪夢という意味では、バッドトリップな『シャイニング』といえるだろう。冒頭のインタビューで見切れたVHSテープ(『サスペリア』『切腹』『自由の代償』など)からの影響は大だが、ダンス音楽的に面白いことになってた1996年という時代設定には納得。
ある意味、今年最恐のホラー!
G・ノエの作品をいつもホラー感覚で見てしまう自分にとって、本作も内面に切り込んでくるような恐怖を体感させ、お腹いっぱい。
いきなりエンドクレジットから映画が始まったり、ゴダール作品のようなスローガンが挿入されたりなどのノエ作品らしいアート映画的な仕掛けは腰を落ち着かなくさせるに十分。目を見張るワンカットの群舞シーンの後、パーティが地獄絵図の様相を呈してくるさまにハラハラさせられる。
ノエ監督によると、本作は実際にホラーのタッチを意識したとのこと。ダンサーたちのインタビュー場面の背景には、彼が若い頃に影響を受けたというホラー映画のVHSが積まれているので、ファンはぜひチェックを。
安易にオススメできない!この監督の狂気、またも限界を突き破る
ギャスパー・ノエ監督作を観る人は、それなりの覚悟を要求されるが、心の準備をあざ笑うように、とくに後半は衝撃描写のつるべ打ち! 22人のダンサーたちの異常な行動は、いったいどう演出したのか、考えるだけで背筋が凍るほどだ。しかしこの作品、ダンスムービーとして観ると、大胆かつ革新的。ワンカットで撮るリハーサルでは次々とダンサーがセンターを入れ替わりつつ、振付の計算されたダイナミズムに襲われるし、頭上から撮るジャンプの映像は、観ているこちらも重力を失ったような感覚に……。五感に訴えるダンスと、正気を失う人々の魑魅魍魎で体力を要求されるが、それだけに何か達成感を得たような後味と安堵が待つ。恐るべき傑作。